人生は、選択の連続だ。
例えるならば、
デッキに組み込むカードをどちらにするか。なんてのから、
パンを買うかご飯にするか。
こっちの道を行くか、あっちにするか。
今日は誰とつるむか。
大事になることもあるけれど、実に単純で平凡な選択の積み重ねが、人生なのだろう。


なら、人生を変えてしまうほどの、選択が、目の前に転がっていたらどうする?




が、悲しいことにそれが、俺の人生を大きく変えてしまうなんて、その時点では判りもしない。ただ、そこにいつものように転がっているだけだ。





その選択が大いに間違っていたことに気がつくのは、何年も経ってから。
懺悔の時が来てからなんだ。










『 罪と愛 』







 夕方のファーストフードの店内の一角に陣取って、今日も毎度毎度の面子と無駄で怠惰な時間を浪費している俺たち。
 連れの一番弱い奴からゲットした、ハンバーガーセットがテーブルに散乱していて、その上にふりかけのように落ちている、タバコの灰。
 煙を豪快に吐き、下品に爆笑してるのは、はっきり言って営業妨害でしかないだろう。でも、誰も注意する奴はいない。
 明らかに地元の中学の学ランで一目で中学生とわかるのに、誰も俺たちの側に近づいてこない。
『最近の子供は何を考えているのかわからない。』
『注意なんかしたら、こっちの身が危険だ。』
 と、誰もが遠巻きにしているだけだ。次々と来店する客は、そそくさとお持ち帰りにするか、上の階へ逃げるように上がっていく。もちろん、陰湿な差別の視線を忘れずにだ。


「ふん。つまんね〜な。んか、愉しいこと落っこちてないのかよ。」
 新しいタバコに火をつけ、ふうっと吐き出す蛭谷。
 ばか。こっちに向かって吐くな。煙いだろうが。
「金でもいいぜ。」
「俺は女がいいぜ〜。」
「それ、うけるっ!!」
 相変わらずの馬鹿面で、笑ってる奴。てめえのが、馬鹿だぜ。
「…………。」
 馬鹿笑いも、他人の侮蔑色の視線はとうに慣れていて別に感じるものは無いけど、今日は無性に引っかかる。
 くそ親父と朝っぱらから一バトルをしてきたからだ。
 アル中のくせして、腕っ節だけは衰えない、父親と呼べない男は、俺にボコボコにしやがった。『愛のムチ』なんてレベルでない暴力に、完敗だった。
 ガラスに半透明に映る、赤く切れて腫れた頬。すげっえ、情けない顔してる。


 最悪だ。こうして思い出すだけで、ムカついてきやがる。


「まじで、つまんねえな。」
「つまんね。」
「つまんな過ぎて死ぬ。」
「なら、俺、死にまくってるぜ。」
「あ〜暇だな。」
「速攻〜世界の終わりが来たらいいのにな〜。」



 ここいら界隈のゲーセンは出禁になってて、コンビニもカラオケも止められる。
 つるんでるしか脳のないこいつらは、一人ではケンカすら出来ないんだぜ。すぐに俺の名前を出して、空威張りしてやがる。ま、骨のあるのは蛭谷くらいだろう。
 な、お子ちゃまなのに、言うことは一人前で反抗しまくってるのに自画自賛してばかりだ。


「おお、言うねえ。終末思想かよ。」
「夕べ、おとんとケンカだぜ?もう、超修羅場でよ。壁もぼっこぼこに穴だらけでさ………」
「わかるわかる。おれん家も、すげえぜ。トイレのドアなんて閉まんないんだ。親父のくそがあんまり長いもんだからよ、キレて、蹴ったら、ぶっ壊れたんだ。」
「ギャハハハハっ!!うける〜それ。まじでくそ親父じゃん?」


 ほらきた。
 毎度おなじみの家庭内暴力の自慢大会だ。
 たく、そんなの自慢でもなんでもねえよ。


 臭い息を吐いて、唾を飛ばして、家族の悪口を言ったって、それって、家族を自慢してるだけだろ?
 どれだけ家族に愛されているかを、計ってるだけじゃねえか。
 お前らには、待っている人がいるんだぜ。

 本当に悲惨なのは、家族のことを話すネタの無い奴なんだ。


 俺、みたいに。




 お馬鹿なお子ちゃまは、家に帰りな。
 帰って、甘えてこいよ。
 ついでに、真面目になればいい。
 俺の前から消えろ。




 ああ。なんて、つまんないんだ。
 適当にバックレてやろうか。



 なんてことを思案してたら、ガラスの向こうを白い影が横切っていった。


 商店街を右往左往する人の流れに乗って、過ぎていった一つの影。
 それは、一瞬のことだが何故か、俺の脳裏にはスーパースローでがっつりと焼きついた。


 真っ白な学ランの細っこい少年。
 この街で一番レベルの高い学校の制服だ。勝ち組の親を持つ一握りのガキか、優秀な能力を持つ一握りのガキが行く中学校。
 自分にも他人にも、優越感を見事に煽り、エリート精神を刷り込める真っ白な制服。
 ナイフとフォークよりも重いものを持ったことのないような、車で送り迎えが当たり前の富裕層にいるガキが俺の目の前を通り過ぎる。


 面白いこと、みっけ。


 咥えていたタバコをもみ消して、俺はニヤリと笑った。



「てめえら、面白いことやろうぜ?」



 それが、俺の人生の中で犯した最大のミスだってなんて、気づくはずもなかった。
 どうやら、俺も相当の馬鹿で世間知らずのお子ちゃまだったんだ。













********







 数年後―。








 











 なんだかんだして、城之内はドミノ高校に潜り込むことに成功した。別に高校生になりたかったわけでもないが、なんとなく流れに乗って高校に入り、蛭谷らと手を切ることが出来た。
 

 日ごろの行いが悪かった城之内にも、不思議な友人が出来て、それなりに普通の高校生活を手に入れる。


 雑多なことで頭痛の種が消えたわけではないが、それなりに時間が動き出していったころ、
 一人の転校生がやってくることになった。







 海馬瀬人。
 
 



 5月半ばの季節はずれの転校生。それも、ドミノ街で一番有名なカイバコーポレーションの御曹司とくれば、クラス中が色めき立つのは仕方が無いことだ。
 女子生徒は、玉の輿に慣れる千載一遇のチャンスだと、足が地に着かないほど興奮している。男子は面白くないが、そんなこと女子には関係ない。

 もっとも興味の無いのは城之内で、朝から盛大に出るあくびをして窓の外を眺めている。
 金持ちは大嫌いの一言で片付いてしまう噂に、今日はどこで授業をサボろうかを思案しつつ、机に突っ伏していった。



 そんな皮算用があちこちでされるなか、噂の転校生の初登校の日となる。




「ほらほら、席に着け〜っ!」
 ざわつく教室に響く教師の声。
 いつもならば、同じことが数回繰り返されてやっと静かになる教室も、今日は一瞬で水を打ったようになる。みな、ドアの向こうにいる人物に全身全霊を傾けていた。

 そんな中一人興味の無い城之内は相変わらずで、教室の一番後ろの窓際の席から、校庭を見下ろしている。体育の授業をしてる生徒を目で追いながら、退屈な授業よりも、体育がいいぜを一つ大きなあくびをした。


「さて、みんな知っていると思うが、今日からクラスの仲間が一人増えることになった。」
 担任のお決まりな挨拶はスルーして、手招きとともに教室に入ってきた一人の生徒に、城之内を除くクラス中が息を飲む。
 ピンと背筋を伸ばし前のドアから優雅な足取りで来た転校生は、クラス中の視線をものともせず、教壇に立つと、さわやかに微笑んだ。
「はじめまして。海馬瀬人です。よろしく。」
 真っ白な生地に襟元に金の刺繍を施した学生服。刺繍の糸よりも美しい色素の薄い瞳。そしてエメラルドグリーン色の絹糸のような髪。
 さすが御曹司というべき、威厳と器を兼ね備えた微笑みに、クラス中の緊張が解ける。あまりにものレベルの違いに、制服が違うぞとの突っ込みはもはやありえないことのようだ。
 平凡な市民に上流階級の思考は理解できないもの。


「では、海馬くん。とりあえず、君の席はあそこだ。次の学活に席替えをするからそれまではあそこに座るように。」
 担任は真ん中の開いている机を指差した。
「はい。」
 艶やかに微笑む海馬。


 その笑みにクラス中が魅せられる。が、城之内は一向に気にならず、窓の外を眺めているだけだ。



 だから、海馬の視線が城之内に向けられていることも、微笑みのラストが怪しく歪んでいることも気がつかなかった。
 もし。
 中学の頃のように、神経をむき出しにして自分に向けられる悪意に敏感であったなら、海馬の異常な視線に違和感を察知できたかもしれない。しかし、温い日常に牙を折った城之内に、それを要求するのは無理のこと。
 迫ってくる緊急事態をただ、こうして、待つしかなかったのだ。












 張り巡らされた蜘蛛の糸に絡め取られていく哀れな生贄として。
 囚われの生贄は蜘蛛に喰われていくしかないのだ。


















「じゃな。遊戯。」
「うん。また、明日ね。城之内くんっ!!」



 放課後の帰り道。
 街灯がともり出した商店街で城之内は遊戯たちと別れた。商店街を挟んで、遊戯の家と反対の方向に城之内の家があるからだ。
「おやじ、どっかで飲んでてくれたらい〜な〜。」
 酒乱の父親が留守だったら、一人で平和な夜なのに。と、憂鬱な気持ちで家に帰ることにした城之内。
 いつものように、遊戯たちと別れると城之内は近道の路地の細い道へと足を踏み入れていく。
 中学時代に、この街の抜け道は頭の中に叩き込んでいて、ビルとビルの合間の細い道もその一つだ。ゴミバケツやビールケースが処狭しと積まれていて、ごみごみした路地をなれた仕草で身軽に通り抜けていった。

 そんなに長くない路地もビルとの隙間で灯かりの届かないために、既に薄暗い。しかも視界を遮るものは沢山あって、人が隠れるには十分の死角がそこらかしこに出来ている。


 もし、中学時代のようにむき出しの牙を折っていなければ、その闇の中に潜む罠に気付くことが出来たのかもしれない。でも、友と馴れ合い、ぬるい日常に浸ることを覚えた城之内にそれは到底無理のことのようだ。
 









 ほら………









「……っ!!」
 ちょうど路地の中ほどに差し掛かったとき、首筋にチクッとした痛みを感じたとほぼ同時に、城之内の意識が闇に落ちて行った。












 人気の無い路地裏で、人一人が消えることは容易いことなのだ。











 ぐったりと汚い地面に転がる城之内を、見つめる一対の黄金色の視線。
 









 ふふふふ。
 捕まえたよ。城之内くん。











 城之内に絡まりついた声を城之内は聞くことは出来なかった。仮に、聞こえたとしても、逃げることはかなわなかったけれど………。













*****




















「……ぅっ……?あれっ?」







「……?」






 真っ暗な意識の底から、城之内が浮上してくるとそこは、広い空間だった。
 遊戯と別れた辺りで、記憶がぷっつりと途切れている。家に帰ろうとしていたはずなのに……。




「……家……じゃないよな…?」



 まだ頭に霧がかかっているようにぼんやりとしていて、状況が掴めない。
 体が痺れたように力が入らない上に、妙な浮遊感まである。変なところに力が掛かっているようになっていて、手首が痛い。



「イタっ!?」


 ジャラリ。
 体を動かそうとすると、鉄の擦れる音が頭上でする。

「ええっ?」

 体の微妙なところからの痛みに城之内の思考が一気に戻ってきた。

「なんだよっ!!これっ!!」

 とんでもない格好だ。

 そして、暗闇に慣れてきた目で、周りを見渡すと、そこは見覚えのある場所だ。
 埃っぽい湿った空気。廃油の匂いの漂うだだっ広い空間。昔、よくたむろしていた倉庫の一つ。

 


「何がおこってる…?」


 もともと回転の悪い頭の上、激変した状況に理解が追いついてこない。
 ただ判るのは、鉄骨の梁から下がる鎖に繋がれているということだけだ。
 両手を枷で合わされ、そこに鎖が繋がっている。つま先が付くか付かないかの高さに吊り上げられ、もがく事も、逃げることもかなわない。
 誰の仕業か知らないが、城之内に恨みを持つ輩はこの街には多すぎる。
 やば過ぎる状況に緩んだ高校生活から一気に引き上げられ、城之内は大声を上げた。


「誰だよっ!!!こんなことする奴はっ!!出て来いっ!!」





 デテコイ。


 コイ。


 イっ…。



 だだっ広い空間に木霊する城之内の声。






「居るんだろっ!!そこにっ!!!わかってんだぜっ!!!」



 ダゼッ



 ダゼッ



 ゼッ








 無防備な体勢だが、見えない相手を威嚇するドスの効いた低い声で怒鳴り散らす。


 が、その声も暗い空間に絡み取られて消えていき、後に残るのは静寂だけだった。



「くそっっ。どこのどいつなんだ。」



 一向に出てくる気配の無い敵に、焦れた城之内は唇を噛んだ。
 ピンと張り詰めた空気に噴出してくる脂汗が、頬を伝い、顎から滴り、コンクリートに染みを作っていった。



 闇に慣れた視界でも倉庫の端まで見えることはない。
 あの頃の城之内ならば、この絶体絶命の状態も時間つぶしの材料でしかなく、反対に楽しんでいたはずだ。
 しかし、今は違う。仲間と群れることを覚え、誰かに助けられる楽を覚えてしまった城之内。自ら折った牙を研ぐには時間が足りなくて、両手首の拘束から逃れるために、懸命に身を捩ってもがく。

「ふざけやがってっ!!俺を誰だとおもっ……っ!?」

 じゃらじゃらと鎖の軋む音と、城之内の焦りが吸い込まれていくその闇の中から、ふうっと人の気配が浮かび上がってきた。





「無様な格好だね。城之内君。」
「!!!!!っ!!てめえかっ!!!!」
 突然現れた人物に、城之内は歯を剥いた。
 闇の中でも輝く、琥珀色の一対の視線をものともせずに、くすくすと笑いながら歩幅ずつ近づいてくる影。
 革靴の底をコンクリートに響かせて、可視可能な領域に来た人物に、闇の中から一つの影が産み落とされたと、城之内は感じた。



「てめっ!!!!」
 その人物に息を飲む城之内。
 真っ白な制服に、勝気で傲慢に人を見下ろす人物。それは、転校生……海馬瀬人だったからだ。
「覚えてくれてるんだ。光栄だよ。」
「てめえがやったのか?」
 見ず知らずの転校生にされるには、いたずらが過ぎていて、背後に纏う悪意に満ちた気配に、城之内は低く唸り声を立てる。

「犯人だなんて、失敬だよ。君はもっと言葉の使い方を学ぶといい。僕を誰だと思ってるの?海馬瀬人だよ。カイバコーポレーションの次期社長だよ。
 君なんて、僕の指示一つでこの街に居られなくすることだって出来るんだ。」

「あいにく、そんな脅しは俺には通用しないぜ?今すぐ、解きやがれ。」

「君には関係なくても、僕にはあるんだよ。君には世話になったからね。」

 海馬は意味深な笑顔を絶やさず、無造作に転がっている大型車のタイヤに腰を下ろした。
 汚れた古タイヤも、海馬が座ると、高級な椅子に早変わりする。

「……世話?」
 優雅に足を組む海馬に、城之内は首を捻る。どんなに記憶をたどっても、海馬とは今日会ったのが初めてのことで、世話になったことなど無い。

「まさか!忘れちゃったの?ひどいなぁ。
 僕のことあんなに可愛がってくれたじゃないか。」

 いぶかしげに眉をひそめる城之内に、海馬は大げさな演技で肩を竦めて見せた。

「     本当に、ひどい人だね。君ってさ。」





 残念だよ。





 と海馬は付け足すと、優雅な指先をパチンと鳴らし、
「この僕を忘れてしまうなんて、お仕置きだね。」
 くすっ。
 と笑う。




「………………っつ!!!!うわっぁああ!?」
 ぞっとする海馬の笑みに悪寒が走った城之内の肩を、背後に現れたもう一つの影が掴んだ。
 気配はもちろん、足音さえ、立てずに城之内の背後に立つ男に悲鳴を上げて、城之内は吊り下げられた不安定な体勢ながら、体を捩って振り返る。



「……。」
 その男は、こんな薄暗いなか見えているのかと疑問を投げたくなるような、黒いサングラスを掛けた大男だ。
 その容貌は、まさに映画やテレビに出てくるボディーガードだ。海馬の地位からすれば、その予想は十中八九間違いではないだろう。



「磯野。」



 海馬が毅然と男の名を呼ぶと、磯野は心得ていたように、行動に移していった。
 肩を掴んでいた手をするりと下へと運び、慣れた手つきでベルトを緩め、次いでズボンを下ろす。重力に従いズボンが足首にまとわり付いて、脚の自由も奪うことになっていく。
「っぅわっぁあっ!!バカッ!!何しやがんだっ!!」」
 あまりにもの手際に城之内は抵抗する間もない。稼動可能な範囲でもがこうとするけれど、磯野のほうが一枚も二枚も上手だ。ケンカが強いだけのド素人の城之内がかなうわけもない。
「やめろっ!!」
 トランクスに手が伸びてきて、城之内は思いっきり叫んでしまった。
 初めてあったばかりの奴らに、恥ずかしい姿をさらすなんて、プライドが許すはずもないのだから。
「ちょっ!!マジ…でっ…ヤバッ…っひっぃ!!」
 どんなにもがいても、磯野の手を妨害することはかなわず、トランクスも剥ぎ取られ足首にズボンと共に絡まってしまった。
「見るな〜〜〜〜っ!!!」
 城之内の叫び声が倉庫に虚しく響く。丸出しになった性器を隠すために精一杯、内股に、太ももに力を込めた。


「くっそおっ!!俺にこんなことして…後で殺してやる…」
 屈辱に顔を真っ赤にして、城之内は闇の際でこちらを見ている海馬を睨みつける。
「いいね。そのいきだよ。それくらいじゃないと、面白くないからね。」
 パンパンと乾いた音で手を打った。
「ふざけんなっ!!」
 城之内の怒りは頂点に達している。吊り下げられていなければ、飛び掛っているはずだ。野生動物のようにぐるぐると唸り、歯を剥く。


「まさに手負いの野獣…いや、これから、手負いになるんだ。」







「   磯野。  」






 海馬の声が1オクターブ低くなった。いや、本性が現れたというべきか。そして、その低い声を合図に、磯野が城之内の尻たぶを開いた。
「ちょっっ!!!!どこ触ってんだっ!!」
 窪みにごつごつした指を充てられて、城之内が逃げようと体を捻ろうとするけれど、がっちりと押さえ込まれてしまっていて、指先が穴の周りをほじられてしまう。
「うそだろっ!?やめろっっ!!!」
 ありえない所に触れられて、一気に鳥肌がたってくる。体を必死にくねらせて抵抗する城之内だったが、背後から聞こえてきた男なら聞きなれているチャックと下げる音に慄いた。
 この黒ずくめの磯野がナニをしようとしているのかなんて、簡単に予想が付いたからだ。
「まてっ!!やめろっ!!俺には、んなっ、趣味はねえっ!!!!」


 城之内の静止を聞くこともなく、背後で磯野が動いている。
 気持ち悪くて、見る気などさらさらないが、衣ずれの音でナニをしているかわかった。出したイチモツを扱いて準備をしているのだ。もしくは、城之内にこれからおこることを知らしめて、屈辱を恐怖を煽っているに違いない。


「やめっろっ!!」


 脚を開かされ、窪みに当てられる熱の塊。
 男に掘られてしまう屈辱に、すっぱい唾が上がってくる。今までの威勢はどこへやら、真っ青に慌てふためいて、腰を左右に振る城之内。何とかして男根から逃げようとするが、全てが虚しい労力にしかならなかった。

 磯野は城之内の腰をホールドすると、狙いを定め、ぐいっと腰を突き出していく。

「ひぎっぁっ!!!」

 何も施されないまま、乾いている場所にねじ込まれていく男。
 体を引き裂かれたかのような衝撃に、情けない叫び声が上がった。



 入り口の肉を内側に巻き込んで、再奥へと入り込んでくる肉棒。馴らすことなく入れるのは、磯野にも負担になるだろうに、磯野は痛がるそぶりも見せずにどんどん中へと埋め込んでくる。
 そしてそれだけでは終わらない。再奥まで到着した後は一息つくまもなく引き抜いていった。
「ひぎぃっ!」
 抜けきる一歩手前まで行くと、また、中に入ってくる。そしてまた抜かれて。容赦なく磯野は突き込みを繰り返していく。
「いっ……ッつ……くっそうっ!!」
 無理に突っ込んで引き抜く柔肉をこそげ取る動きに、城之内は歯を食いしばって耐える。床に脚が付かないので、腕をつないでいる鎖を握り締めるしかない。
 半端ない痛みに涙が滲んでくる。
「……いっ……ぐっ……ううんっ…ひゃっいたっぃ!」
 淡々と一定のスピードでつき込まれ、快楽なんか爪の先ほどもない。あるのは身体を裂かれる痛みと、男としてのプライドを捻り潰される屈辱。
「…おれ…に…なんの…恨みがあるか…知んねえ…が、卑怯な手使いやがって…!!」
 真っ白な学ランが闇の中で亡霊のように浮かんでいる。
 こちらに向かって上向きに歪んでいる唇が赤くて、妙に気持ち悪い。
 絡み付いてくる視線も嫌だ。そして、体内で蠢く熱塊が疎ましい。
「やるなら正々堂々と、むかって…こいよっ……変態やろうっ!…!」
 城之内はありったけの気力を振り絞り、海馬を睨みつけた。



 すると、影の境界線が笑った。

「くすっ。やっぱり、君だよ。城之内くん。」

 落胆したような、それでいて納得していて、声の主 ― 海馬は城之内の方へと一歩一歩、距離を縮めてくる。


「変態?卑怯? それを君の口から聞けるなんて思わなかった。片腹痛いね。ねえ。本当に覚えていないの?君がここで何をしたかも思い出せないのかな?」

「…何?」

「この場所だよ。よく思い出してごらん?ここで君たちが何をしたかをさ。」

「えっ……!?」

「………っ!?」




 城之内は磯野に揺さぶられる視界の中、何とか思考を張り巡らせて、そしてあることを思い出す。
 2年とちょっと前の遊びの時間のことを。


 










「あっ…!?」















 ファーストフード店のガラスの向こうを通り過ぎた染み一つない真っ白な制服。
 行き交う人並みに逆らうように進んでいく綺麗な子供。


 箸よりも重いものを持ったこと無いであろう、細い指。
 綺麗なものしか食べたことのない、その体。

 汚れていない生活そのものの、染み一つない白い服。



 むしゃくしゃした。腹が立った。憤った。
 無性に。
 人間は平等でないとありありと見せ付けられた瞬間だった。
 雑多なものの中でもがいていた存在感の薄い自分自身。
 もがいてももがいても力は無く、這い出せない泥水の中で窒息してしまいそうだったあの頃。

 ガラスの向こうの祝福された世界にいるものが疎ましかった。
 自分だけが不幸で嫌いだった。やり場の無い怒りと焦燥を闇雲に周囲に当り散らしていた昔の自分。

 自分と真逆の世界にいるそれを壊したい、破壊的な衝動に駆られてしまったのは当然のことなのかもしれない。
 ただ、あのころの城之内にはその衝動を抑える術を持っていなかった。




 だから、城之内は、いや、正確には城之内たちは白い少年を穢した。
 後を付け、人並みが途絶えた一瞬の隙に、この倉庫に連れ込んで、犯してやった。
 真っ白な制服を泥を油で汚し、可憐な少年を男達の性欲と征服欲の生贄にした。
 複数の男でもみくちゃにして、欲望の果てるまで何度も何回も犯したのだった。

 制服と同じく、白い肌には精液が飛び散り赤い血で濡れ、苦痛に呻く唇を男で塞ぎ、流れる涙を女々しいと蔑み、射精するだけの穴として扱った。そして、ゴミのように置き去りにしたのだ。この場所に……。



「お前は……あの時の……餓鬼か……?」




 予想だにしなかったことに、城之内の全身から血の気が引いていく。


「やっと思い出してくれたみたいだね。その通り。僕は、あの時この場所で、君たちに犯されたんだよ。」
「………っくっ!」
 真っ直ぐに見つめてくる視線に耐え切れず、城之内は横を向こうとするが、磯野に、顎を掴まれて、正面に向くように固定される。
「実に有意義な時間だったよね。」
「……くそっ……何の目的だ?」
 城之内は精一杯の抵抗で海馬をきつい眼差しで見上げた。
「っふふ。そんな目で見ないでくれたまえ。目的なんて大層なものはないのだから。ただね、教えて上げようとしているだけだよ。城之内くんは知らないだろ?あの後、君達が捨てた少年がどうなったかをね。」
「ふっくっ…!」
 海馬の圧倒的な邪気と、背後から突き刺される痛みに城之内の顔が歪む。
 体の中で暴れる磯野は相変わらずで、固い肉の塊が内臓を穿っている。乱暴に城之内を痛めつけるような抜き差しに、切れた血が絡み付いていた。
「どう?痛い?苦しい?
 僕も痛かったんだよ。城之内くんはまだ一人目だよね。僕は何人の相手をしたっけ?」
「くっそっ!」
 城之内の赤くぶれる視界に重なる、白い制服の少年。蛭谷らに囲まれて、揺れる華奢な体。それが今の自分に摩り替えられそうで、城之内は頭を振る。
「あの日、学校の帰り道、偶然、磯野とはぐれてしまったんだよ。車が事故に巻き込まれてしまってね。代車を待つ間に、僕は人ごみに迷ってしまったんだ。
 そして、君達に会ってしまった。」
「んなの、俺に関係ねえだろっ。」
 城之内は声を絞り出して抗議するが、海馬には聞こえていない。
「磯野はその失態を今でも後悔している。ほんの一瞬の隙に主を見失ってしまったんだからね。あの事件さえなければ、僕の輝かしい人生に傷なんて付かなかったんだから。」
「そりゃ、残念…っでした……んああっ!!」
 悪ぶり、悪態をつく城之内の内臓を深く抉る磯野。その行為は積年の恨みを晴らすようなきつさだ。深いところへの衝撃に城之内の全身に脂汗が滲んでくる。
「もちろん君の言うとおり、僕が磯野とはぐれたのは君とは関係ないことさ。でも、君達が僕にしたことは変わらないだろ?
 磯野はね、ずっと自責の念に囚われて来た。そして、やっとその恨みを晴らせるときが来たんだ。
 磯野、もう、いいだろう。離れろ。」
「…っ!?」


 海馬の命令で磯野がすんなりと城之内から離れた。入ってきたときと同じように抵抗無く磯野が抜くと、城之内の体を反転させて、両手で尻を掴むを尻たぶを開いていく。」
「!!!やめろっ!!!」
 ぐっと開かれ、血の滲んだ穴を晒されて、城之内は暴れるが両手を高く拘束されている体勢ではたいした抵抗にならない。
 熱く熱を含んだ肉に冷たい空気があたってスースーする。無残な穴を海馬に晒される恥ずかしさと屈辱に城之内は歯を食いしばる。
「よく解れたみたいだね。」

 こちらへ近づいてくる靴音と、気配がして痛んだ穴に冷たい指が触れた。
「触るな!!」
 無防備に開いたそこを見られている。指が皺の一つ一つをなぞり、括約筋の解れた穴の形を変える。

「やめっ!!!」

「ちょっと切れてるみたいだけど、大丈夫、裂けてない。体も十分に成長してるし、磯野でも十分だったみたいだね。」

「やめろっ!!」

「僕のときは大変だったんだよ。お尻の筋肉が裂けてしまってね、一生使い物にならなくなる一歩手前だったんだ。治療に時間が掛かったんだよね。」

「くっっ!」

 人差し指が中に侵入してきた。

「リハビリとか、本当に大変だったんだ。」

「ひぅっ…」

 指が増えた。

「最近の中学生は子供と言っても、体は大人だからね。性欲は一人前なのに、自制心が無い分性質が悪いんだ。」

「ああっ!!」

 筋肉を広げられる。

「………ね。城之内くん。」

 ぐりぐりと中を広げられて抉られて、背筋がびりりと痺れてくる。背後で海馬に笑われているのが伝わってきて、必死に出そうになる声を殺して城之内は目を瞑った。

「パーティーはこれからだよ。」
「いっ!?」

 
 パチンと尻を叩かれた城之内は、再び体を反転させられて、海馬と向き合う形にされる。
 そして、磯野に両膝を抱え上げられてしまった。背後から抱え上げられて、足が宙に浮く。
「おろせっ!!!!」
 ちょうど子供に用をたすような体勢に、城之内の全身が真っ赤になる。この体勢では、無残に散らされた穴も、縮こまっている城之内も丸見えなのだ。
「ステキな格好だね。君のいやらしいところが全部見えるよ。」
 うっとりと微笑みをたたえて、海馬が小さくなっている城之内に触れた。他人に触られたことの無い城之内の体が引きつる。
「……っ!!触るなっ!!」
「ごめんね。磯野はちっとも気持ちよくなかったよね。でも、大丈夫さ。今度は僕がちゃんとしてあげるからね。」
「やめろっ!!!んなんお、しなくていいっ!!」
 割り開かれた脚の間に海馬が陣取って、そして、そして、優雅な仕草で、大きく育った海馬を取り出した。

「やめろっ!!」
「痛くないから。ね。」

 まるで、暴れる子供をあやす様に髪を撫でて海馬は微笑んだ。

「頼む!!やめてくれ…謝るから。反省したからっ!もう、やめてくれっ!!」

 涙ながらに城之内は懇願する。髪を振り乱し、必死に海馬に請うた。しかし、許されるはずも無く、がっしりと体を押さえつけられた間に海馬の熱が押し当てられて、










「あの時、僕も同じことを言ったよ。でも、君たちは止めてくれなかった。」




 闇に光る冷たい視線が痛い。





「ああっ……。」




 その痛みに、もう、げられないのだと、城之内は絶望する。

 閉じた瞳から涙が零れた。




「ひどい人だ。」



 海馬は頬に流れる涙をひと舐めして、その熱を埋めていった。開かれた瞬間、息を詰める城之内の呼吸を感じて、恍惚に歓喜の声を上げた。


「ああっ!!!すごいよ。城之内くん。なんて、君の中は熱いんだ。火傷してしまいそうだ。」

 奥へ奥へと進みながら、きつく収縮する体に舌を巻いて、目をぎゅっと瞑ったまま怯えている城之内に見入ってしまう海馬。

「うっぅっ……」
 再び男のプライドを抉られる行為に、城之内は唇が切れるほど噛み締めて声を殺した。
「ほら、もう、全部入ってしまったよ。」
「………ちっ…くしょう…ぁっあ!」
 尻にぴったり感じる布の感触と、中にある異物感に海馬に犯されたのだと実感させられるとほぼ同時に、海馬がゆっくりと動き始めた。
「ぃいっっ!?」
 また、あの、衝撃が来るのだと城之内の体がぎゅっと強張った。しかし、じれったいほど緩やかなスピードに痛みを感じない。
「…………ぁっ??」
 それよりも、反対に別のむず痒い感覚がしてきて、城之内は思わず繋がっている部分を見てしまった。
「どうしたの?城之内くん?」
「……んでも…ねえっ………ぁあっ!!」
 海馬が何かを掠める。
「ぃっ……ぁっ…だめだ……そこっぉ!!」
 中から湧き上がってくる感覚に、鎖がじゃらりと音を立てる。
「……ぁっ…やめてっ……っ!!」
「あれ?変だね?もしかして、気持ちいいのかな?」
 急に反応の変わった城之内を揺さぶって、その反応を海馬は確かめていた。的確にそこを突き、城之内を更に追い上げていく。
「ちがっ…うっ……」
 城之内は必死に否定するけれど、体温が上がって、脂汗とは違うさらりとした汗が、健康そのものの肌に珠をつくれば、嘘を付いていることなど海馬にはバレバレだ。
「嘘だね。気持ち良くなってきただろ?」
 ぶるぶると頭を振る城之内。海馬は強がる城之内にくすりと笑うと、二人の結合部分に指を這わす。
「…ぃっ!!」
「ここに入れるのはね、ただ、大きければ良いもんじゃない。闇雲に突けば気持ちよくなるはずないよね。城之内くんには磯野のサイズはまだ早かったようだね。僕のがぴったりみたいだし。ほら、こうして、君を傷つけずに感じさせてあげることが出来る。」
 海馬は抉れたように細いお腹に手を添えると、ぐっと腹を押さえこむ。
「ほら、ここまで、僕が入っているんだよ。磯野のおかげで、城之内くんの中は解れているから、僕のを心地よく感じることが出来るだろ?わかる?ここに、僕がいる。」

 悔しいが海馬の言うとおりだった。磯野の拷問のような時とは違い、海馬のものは良いのだ。しかも、否応なく開かれて熱を持ったそこを的確に擦られているのに、痛みはこれっぽっちも無く、快感だけが存在している。
 女のような喘ぎ声が勝手に喉を吐いて出て、城之内は恥ずかしくてたまらない。口を結んで声を上げないようにするけれど、中からこみ上げてくる刺激に口はすぐにほどけてしまうのだ。
「、、、、、、ぁっ!!うんっ、、、」
 緩やかに、スピードが上がってきた。
「あっ、、、やめっぇぇっ、、っ。」
 二人に挟まれている城之内が堅く立ち上がってきて、揺さぶりに合わせて揺れている。中からの刺激だけで興奮している自分に、腹の立つ城之内は悔しくて、情けなくて、それを隠すために海馬を睨みつけた。
 そうしないと、もう、気力が折れてしまいそうなのだ。




 あの、不良だったころの手負いの肉食獣のような眼光が海馬を貫いていく。



 真っ直ぐにぶつかる金と琥珀。





 すると、海馬の表情が変わった。ただの作り物のような演技ぶったものから、仮面を外した素顔が現れた。
 現れた海馬の素顔もまた野生の肉食獣のようだ。
 サバンナで、獲物をじっと見つめる獣だ。粋のいいものが大好物のハンター。




「そう、その瞳だよ。僕が待っていたのはその目だ。あの時の目。僕を興奮させる唯一の瞳だ。」
 海馬は興奮したのか、内部で一回り大きさを増したそれで、城之内を激しく突き上げる。

「ひっぃっ!!」
 脳みそまで揺さぶられ、このままでは日常に戻れない、壊されてしまいそうな恐怖に城之内は終に折れてしまった。


「、、、俺は、海馬に何もしてなかった、、、、見てただけだっ!!」
 と。



 そう、城之内の言うとおり、
 あの時、海馬が蛭谷たちに犯されているとき、城之内は何もしなかった。だた、古タイヤに座り、その様子を眺めていた。
 感情を映さない、なのに、全てを憎んでいる瞳で、海馬が汚れていくのを見ていたのだった。



「正解。君は何もしなかった。僕に一切触れなかった。でもね、君が主犯だってことは、わかったさ。見ていただけで、何もしなかった君が一番悪いってこともね。」

「かい、、、、ばっっ!!」


 海馬の恨みの篭った瞳で魅入られて城之内は、あの頃の浅はかな自分を呪う。あの時、こいつに手を出してはいけなかったのだ。
 あのまま、見過ごして蛭谷をけしかけなきゃ良かったのだ。
 そうすればこの絶望的な状況に陥らずに済んだのに……。


 最悪の選択に、城之内の抵抗が急速に衰えていく。



「ひぃ、、、っ!!」
 海馬に突き上げられて、視界が赤く染まる。頂点は一突きごとに近づいて来ていて逃れる手立てはない。

「悪いことをした子供にはお仕置きをしないと駄目だろ?痛い思いをしないから、悪いことだと判らないのさ。僕がちゃんと教えてあげるからね。良い子になるように躾けてあげる。








 ずっと。」





 耳元でぞっとする声色で囁かれ、城之内は目を閉じた。
 初めて他人の手で絶頂を迎えようとしている、朦朧とした意識の中、自分の体に鎖が絡まる音が確かに聞こえてきた。




 


 もう、海馬から逃れることは不可能なのだから………。














「大好きだよ。城之内くん。もう、離さないから。」
 









 最後に聞こえた海馬の声はひどくやさしくて、城之内はうっすらと微笑んでいた。










 おしまい。



     



 『early』の柚馬さまからのこっそりリクです。リクの内容とあまりにもかけ離れてしまい、もうここに書けません(改めてリクの内容を確認して、泣きそうになりました)が、辛うじて学校といたした。がクリアされたと思います。鬼畜GOのお許しをいただいたので、こんな感じに仕上がりました。
 緑海馬は初挑戦で、色んなところで思考錯誤しています。緑が定まっていないところが怪しいですね。どうしても、ノアくんとダブってしまうのですよ…(汗)
 この後の城之内くんは、緑にがっつりと躾けられていくでしょう。学校や屋敷で。磯野や、536も参戦したりすればいいと、妄想しています〜〜。
 

 背景はこちらでお借りしました。
 NEO HIMEISM