祈り〜KATUYA・2〜


 がたがたと揺れる車内。
 脳に直接響くようなエンジン音と相まって、先ほど殴られたところがズキズキと痛む。

   「………んっ…っ」
 痛む後頭部を押さえて、目を開けるとぼんやりとした視界に見たことのない光景が映りこんできた。
 狭い空間に小豆色の座席…?
 なんだ?ここは…
 「!!!…痛てっ…」
 次第に思考が戻ってきた克也は、がばっと跳ね起きるが、ズキンとはしる頭の痛みに顔をゆがめる。
 「気がついたようだね。手荒なことをしてすまなかった。」
 「……!」
 声を掛けられて、克也は隣に知らない男性が座っているのに気がついた。
 「誰……?」
 座席に腰を掛けていても判る長身で細面の男性。ちょうど父親と同じくらいの年齢だろうか?
 男の背後を流れる景色と、振動に克也は車に乗っていることを理解した。

 なぜ、俺は車に乗っているのだろう?

 黒服の男達が家に上がりこんできて、母親を運んでいった。覚えているのはそこまでだ。気がつけば車に乗せられているわけで。
 ここはどこ?どこに向かっているのか?
 あまりにも突然の状況の変化に克也の頭が追いつかなかい。
 ガタンッ
 大きく車が揺れた。
 「おかあさん、おかあさんはどこ?」
 克也は男に詰め寄る。俺のことはいい。母親がどうなったのか気が気でないのだ。
 「心配しなくていいよ。後のことは私に任せて。お母さんは私たちが手厚く葬ってあげるから。ちゃんとしたらお母さんに会わせてあげようね。」
 「うそっ。」
 と、男は言うが克也は本能で男の嘘を嗅ぎ取っていた。
 「降ろして!帰して!お母さんを返して!」
 がちゃがちゃとドアを開けて、車から降りようとした克也を慌てた男が押さえ込む。
 「どこに帰るというんだい?君はもう一人なんだよ。これからどうやって暮らしていくの?」
 「やだやだ、帰る!おかあさんとあの家に帰してよ。」
 どうやって生活していくなんて考えられないが、あの家に帰りたい。お父さんと、お母さんと過ごした思い出の詰まった家に帰りたいと、暴れる克也に男が強い口調で言った。
 「身寄りのない君は、私たちのところに引き取られたんだよ。それがお母さんの願いなんだ。」

 おかあさんの…?

 克也の動きが止まり、男を見上げる克也。
 「どういう…こと?」
 やっと大人しくなった克也に、一息ついた男はなるべく簡単な言葉で説明する。

 「私は君のおじさんなんだよ。克也君のお母さんとは兄弟でね。つまり、克也君とは血の繋がった親戚なんだ。」
 「……おじさん…?」
 父と母は一切、親戚や昔のことを口にしなかったから、突然現れた男が叔父だと言われても信じられない。
 不審気な表情で男を凝視して、小さな体は強ばったままだ。
 「そう、私の名前は海馬宗次郎。克也君のお母さんの弟だよ。」
 男…宗次郎はやさしげな笑顔を克也に向けると、恭しく頭を下げる。
 「これから、軽井沢の別荘に行くんだ。そこには克也君のおじいさまがいるんだよ。」
 軽井沢…聞いたことのない地名だった。克也は生まれてからこのかた、街から出たことがない。
 母がいない今、どこへ連れて行かれようとしているのだろうか。いきなり現れて、親戚だと言われても信じきることが出来ない。
 「まあ、すぐに理解することは無理だろうからね。軽井沢に着いたらゆっくりと教えてあげるよ。」

 克也は後部座席の窓から、小さくなってゆく海と街を見る。
 克也の生まれ育った小さな街。
 父親と母親と何度も行った海。
 悪がきたちと一日中駆け回った野山。
 ご飯時には釜戸から暖かな湯気が立ち上り、香ばしい食事の香りが漂って、
 親子3人が生活をしていた家。
 思い出の詰まった景色が遠ざかっていく。

 俺はこれから、どうなるのだろう…

 あの小さな家には、家族で過ごした思い出の品と克也の描いた沢山の絵が残されている。
 何も判らないままに連れられてゆく克也には、胸に光る父の形見の十字架しか残らなかった。涙に霞む窓越しの風景に、2度とここには戻ってこられないことを確信しているのだった。



 どのくらい車に揺られたのか、わからなくなった頃、克也を乗せた車は軽井沢に到着した。
 長い長い山道を登り、辺りが夕闇に包まれた頃やっと屋敷の入り口が見えた。山奥にこれでもかというほど、豪華な作りの建物が建っている。車が玄関先に滑り込むと使用人たちが”叔父”を出迎える。
 おかえりなさいませ。と恭しく頭をさげる使用人を前に克也は戸惑うが、宗次郎に促されて屋敷の中へと入り、祖父が待つという部屋に通される。
 襖が開くとそこは14畳ほどの和室で、床の間を背に初めて見る祖父がいた。
 60歳を超えるほどの年齢だと教えられていたが、背筋をぴんと伸ばし、白髪も目立たなく、手入れされた口ひげをたくわえた姿からは年齢を感じさせない人物だ。
 春が近いとはいえ、標高の高いこの辺りは特に朝晩の冷え込みは厳しい。祖父の側では火鉢が焚かれてオレンジ色の炭が見える。
 キセルをふかし、克也を見る鋭い眼光に思わす身がすくむ。
 「父上、只今戻りました。この子が例の子供です。」
 宗次郎と共に部屋の中に入る。祖父とは机を挟んで正面に正座をすると、畳に額が突くくらいに頭を下げて挨拶をした。体が震えて声なんて出るはずもない。
 「……。」
 祖父は克也を一瞥すると、手を鳴らして外で控えていた使用人の一人に指示を出す。
 「ほら、頭を上げなさい。克也くんのおじいさまなんだから、硬くならないでいいんだよ。」
 宗次郎は不安と恐怖で震えている、克也にあくまでも優しく声をかけた。
 「はい。」
 克也が恐る恐る顔をあげ、祖父ともう一度目が合ったとき、
 「お呼びですか。旦那さま。」
 部屋と廊下を隔てる襖の向こうから、女性の声がする。
 「静香か。入りなさい。」
 祖父、の許しを得た静香は襖を音をたてないようにそっと開いた。
 「失礼いたします。」
 明るい栗色の長い髪が印象的な女性・・・静香が和室に入ってきた。とほぼ同じくして、静香はちょこんと正座をしている金色の髪をした少年に気付く。
 (……誰?)
 口を出そうになった言葉をとっさに飲み込んで、静香の大きな瞳が更に大きく開かれる。そう、この屋敷にはあまりにも似つかわしくない少年がそこにいるからだ。
 金の髪に青い瞳、白い肌。どこから、どう見ても外国人だ。それも、アメリカを連想させる容貌。もともと、祖父は外国嫌いだったが一人娘の駆け落ち事件以来、一層その気が強くなった。静香は内心首を傾げる。
 「静香がこれとは年齢が近いだろう。今日からこれの世話係をするように。」
 これ。
 初めての克也の呼び名が「これ」だとは…蔑むような痛い視線から克也は歓迎されていないと判っていたが、「これ」という言葉に期待はしていなかったが、胸が痛んだ。
 「まずは、風呂に入れて垢を落としてやるように。潮臭くてたまらん。」
 祖父はそう言うと、キセルを口にする。
 もう、話すことはないと拒絶する空気に静香は、主人の扱いを心得ているのか「大丈夫ですよ。」とでも言うように克也に微笑んだ。
 「では、行きましょう克也様。ご案内いたします。」


 お父さん、僕もこれで失礼するよ。
 宗次郎の目の奥が怪しく光った。


 静香に伴われて、浴室へと着いた克也。
 途中、長い廊下や所々屋敷に華をそえるように飾っている、絵画や美術品に何度も足が止まっていた。
 「うわぁ!広い!」
 屋敷ももちろんだが、風呂もまた広い。ヒノキ作りの浴槽には湯が溢れていた。五右衛門風呂や、昔行った事のある銭湯しか知らない克也は豪華な作りに圧倒される。
 「ここには温泉を引き込んでいるんですよ。ちょっと熱いくらいかもしれないので、水を足して調節しているんです。」
 「ふうん…」
 静香は簡単に説明をすると、外にいるのでなにかあれば声を掛けてくださいと、浴室を後にした。
 ようやく一人になった克也は、大きく深呼吸をする。
 「ふう・・・」
 掛け湯をして、ざっと汚れを落とすと初めて入る温泉に浸かった。
 「・・・おれ・・どうなるんだろう・・・」
 暖かな湯にひたりながら克也は不安がこみ上げてきた。
 いきなり現れた親戚となのった者たちに、母を連れて行かれて克也もまたここにいる。
 祖父の冷たい視線。
 叔父の何か裏を感じさせる物腰。
 そして、母の願い。

 「お母さん・・・おれはここに居てもいいの?」
 克也は窓から見える星空を眺めて、今はもう答えてくれない母に問いかけた。

 ガラガラ…
 浴室のガラス戸が開く音がして、誰かが入ってきた。
 「…静香さん?」
 薄暗い照明と湯気のせいで誰が入って来たのか判断出来なかったが、人がけが近づくに連れて次第に輪郭がはっきりとしてきて、その人が叔父だということがわかった。
 「…宗…次郎…おじさん?」
 克也は身構える。急に鼓動が早くなって、温泉に慣れていない克也はこのままだと逆上せてしまいそうだ。
 「ははは、緊張しなくて良いんだよ。克也くんの体を流してあげようと思ってね。」
 薄暗い灯りのためか、益々何を意図しているのか読み取れない。
 「…一人で出来ます。さっき静香さんには…教えてもらったから…」
 なるべく、宗次郎とは距離をとって湯ぶねから出ようとするが、宗次郎は許さない。克也の赤く染まっている腕を捕まえる。
 「…ぅわ…離して…ください。」
 克也の表情が強ばった。
 「遠慮しなくて良いんだよ。おじさんは生憎一人身でね。なんだか、自分の子供が出来たみたいで嬉しいのさ。よかったら一緒に入ってもいいかな?」
 他意はないのだと宗次郎は言っているようだ。宗次郎の微笑みに克也の緊張の解ける。
 「…はい。」
 克也は母の死の悲しみと長距離の移動での疲れの為に、何でも悪い方向に考えてしまうのではないかと考えるようにした。
 きっと、いい人なんだよ。だってお母さんの弟なんだから…
 背中をながすために石鹸を泡立てている、宗次郎に背を向けて腰をおろした。

 克也は背を向けているために、宗次郎がどんな顔をしているのか気付かない。
 「…ゆっくりとな…時間はたっぷりとある…」
 にやり。といやらしい笑みを浮かべた宗次郎は唇を一舐めして、あわ立てた石鹸を付けた掌を克也の肌に滑らせる。
 (ぅ……やっぱり…やだなぁ…)
 宗次郎の手は背中から首筋や、脇腹を越えて胸まで撫でていた。克也は気持ち悪さに身を竦めながらも、悪い人じゃないから。と自分に言い聞かせてじっとしていた。
 「ふふ。」
 宗次郎は身体を強ばらせて、じっと耐えている克也が面白くて仕方がないようだ。
 克也の身体を泡だらけにしながら、きめ細やかな白い肌を堪能する。
 小さく主張しているピンク色の乳首を悪戯に引っかくと、息を詰めてピクンと反応する身体。わきの下から二の腕、指先と丁寧に”洗う”とやはり反応を示すところがあって、宗次郎の目を楽しませた。
 「…ぃ…ぁ…」
 大人しくしている克也に気分を良くした、宗次郎は次第に下半身に手を這わしていく。
 「あっ!!そこっは、やだ…っ」
 宗次郎の手の中に克也の小さなモノが納まる。泡だらけの手でやわやわと揉まれて、とっさに身体が前かがみになる。筋張った大きな手に自分の手を重ねて動きを阻止しようとする。
 「ありがとう…ございます。もう、じ…ぶんで出来ますからっ…」
 動揺する心を悟られないよう極力平静を保ち、背後から覆いかぶさっている宗次郎に伝えた。しかし、宗次郎は手を止めない。それどころかお尻にまで手を入れてくる。
 「ひぁ…っ!」
 予想しないところを触られて、今度は反対に身体が弓なりに反った。
 「もう、、、いいです、、、から、、、」
 なんとか手を止めてもらおうと静止の言葉を口にするが、宗次郎は一向に聞き入れない。それどころか後孔に指が石鹸のぬめりを借りて進入してきた。
 「やぁ、、、やめて!」
 もう我慢の限界だと克也は宗次郎の腕の中から逃れようと身を捩った。そこで、ようやく宗次郎の手の動きが止まった。指は第一関節辺りまで埋めたままになっている。
 「どうして、いやなの?せっかく洗ってあげているのに。」
 あくまでも、身体を洗っているのだと悪びれもなく宗次郎は言う。
 「そこっ、汚いからっ!」
 克也は身体の中で感じる指の不快感に身を竦ませながら、首を振って宗次郎の手から逃れようとする。叔父の機嫌を損ねず、出来るだけ穏便にこの状況から脱出したいのだ。
 「汚いなら、なおさら綺麗にしないとね。ここは身体を綺麗にするところなんだよ。」
 宗次郎は克也の考えてることはお見通しだと言わんばかりに、動きを再開させる。小さくてやわらかいモノの先端の皮をそろりと剥き指を這わせる。後孔に埋った指はゆっくりをした速度で出入りを繰りかえす。
 「、、、や、、、ぁ、、、だ、、、め、、、」
 次第に奥に入り込んでくる感触に克也の身体に緊張が走る。広い宗次郎の胸に柔らかな金糸を擦り付け、克也の受ける刺激と同じ動きをする腕を握り締めた。
 腰の辺りが溶けそうになる。
 そう感じ始めたとき、ようやく宗次郎の手が離れた。
 「綺麗になったよ。」
 ざぱんと、湯を頭からかけられて克也も我に返った。

 なにが起こったんだろう…

 生きることに必死で性に対して全く知識も欲望もない克也は、宗次郎の行為の意味がわからない。
 宗次郎は戸惑って固まっている克也を軽々と抱き上げると湯に浸かった。
 膝の上に克也を乗せて、肩に湯をかける。その姿は本当の親子のようだ。
 抵抗もせずなすがままの克也に宗次郎の気分はいい。
 (なかなか、いい子じゃないか。)
 しっとりと濡れた髪が赤みを帯びた肌に張り付いて、子供ながらに妙に艶かしい。
 (今日はお互い疲れているからね。ここまでだよ。)

 克也は宗次郎の思いを知ることもないまま、緊張が一気に解けたために襲ってきた睡魔に飲み込まれ、宗次郎の腕の中で眠りについていた。
 「おや、おや、子供だねえ。」
 こくりこくりと、船を漕ぎ出した克也に苦笑すると、外に控えている静香を呼ぶのだった。





中編?何事?っていやはや、もうすぐ14日です。
仕事をもつ働く主婦としてはここで切らないと、14中にUP出来ません(泣)他のサイトさんは纏まってるのに〜かなり自信喪失です。しかも、”子”城之内に全然見えない!!!パラレルということで逃げていいですか?「克也」の表記に慣れないせいなのか。城之内はもっと活発で勝気で能天気なはず。
と、貴腐人は勝手に妄想してます。後編ではもうちぃっと城之内らしい克也になるはず・・・急いでUpします!!
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