傷痕26




 どうやら俺は死にぞこなったらしい。至近距離で銃弾を2発も受けながら貫通するどころか内蔵にも届いていなかったらしい。
 後で聞いたら、海馬のジャケットが防弾使用だっんだ。らしいといえばらしいけど。でも、海馬は不良品をと怒っていたなあ。まあ、そのおかげで俺は命拾いしたんだ。
 蛭谷たちは逮捕され、刑務所に入るのは確実にみたいだ。本田たちには上手く誤魔化してるみたいだけど、事件が事件だけに俺の処には警察が何回か面談に来たりした。海馬からは「はい。」とだけ言えといわれてたから、俺もうなづくだけにしてた。


 傷は思ったより早く治りってきたけど、外傷的な傷より、使われた薬にやばそうなのがあるらしくて、そっちの治療の為に1ヶ月ほどの入院生活を余儀なくされた。
 出席日数が気になったけど、ちょうど夏休みに入ったばかりなので気にしなくて良いようだ。
 禁断症状とか自覚症状のようなのは無いから、体が動くようになり、ベッドから自由に起きられるようになると、退屈な毎日が続いてしまった。もともと、自由な時間を過ごすのに慣れていないので正直困ってしまった。テレビも雑誌もすぐに飽きるし…。
 遊戯や、本田も毎日見舞いに来た。といっても外は夏真っ盛りだから空調の効いた病院は涼むには格好の場所だったかもしれない。
 でも、みんな時間の許す限り、ここにいて宿題やゲームをしたりと、暇をもてあましている俺を気遣ってくれているのが分かる。
 海馬も夜とか、仕事の時間の合間を見ては病室に来て、これからの生活の為に必要な手続きをしてくれていた。書類にハンコを押すたび、借金から解放されたんだと実感が沸いてきた。
 そうなると一人、家に残してきた、親父が気になったが、なんとかやっていると海馬が教えてくれた。
 そして、長い時間をかけて、海馬は俺が生まれてきたときのことを教えてくれた。
 俺がどうして父さんの子供になったのか。どうやって俺が生まれてきたのか。
 父さんが言っていたのとは少し違っていたけれど、俺の生まれてきた罪には変わりが無い。すごく辛くて逃げ出したくなったけど、海馬は穏やかにやさしくでも力強く、ゆっくりと飲み込んでいけばいいんだと、ゆっくり受け入れていけばいいと、抱きしめてくれた。

 ありがと。かいば。
 いつか、俺は俺を許せることが出来るかな。


「じゃね、また来るよ。城之内くん。」
「また、あした。城之内。」
 本田と遊戯が帰るのをベッドから手を振って見送った。杏子は留学資金を溜めるためのバイトに忙しいようで、本田と遊戯も午後は店番を頼まれている。
 ドアが閉まって、二人の足音が聞こえなくなると、病室は急に静かになる。海馬が病院の中で一番広い個室を用意したために、俺は無駄に広い空間で一日を過ごさないといけなかった。
 がらんとした室内に俺のため息が吸い込まれた。
 海馬には言えないけど、一人になると俺はものすごく不安感に囚われてしまう。
 誰も俺をどうこうすることは無くなったと頭では分かっているんだけど、心と体がまだ囚われている。特に夜が辛かった。海馬も毎晩のように泊り込んでくれるんだけど、たまに、一人の夜を過ごさないといけないときは、怖くて眠れない。
 布団を頭まで被って身体を丸めて眼を瞑るけど、どうにもならなくて一睡も出来ずに朝を迎えていた。
「早く退院したいな…」
 事の重大さを分かっていない俺は、退院して慣れた家に帰れれば、リラックスできて眠れると思い込んでいた。大きく身体を伸ばした俺は、ベランダに出て街を眺める。夏の暑い風がゆるく頬を撫でた。照りつける日差しと真夏の気温ですぐに汗が滲んでくる。
「夏って、こんなに暑かったっけ…?」
 季節を感じる余裕も無かったんだと、忘れていた夏に苦笑いをする。
 暑さも新鮮で心地よくて……俺はしばらくベランダの柵に身体をあずけ、小さく動く車や人、青い空と真っ白な入道雲を眺めることにした。





 海馬が病室に入ると、城之内の姿が無い。とうとう、脱走したのかと一瞬慌てたが、ベランダに佇む姿を見つけて力を抜いた。
 外とはガラスで遮断されているので、海馬の足音も気配も感じないのか城之内は景色を眺めたまま動かなかった。


空を見ているのか、街を見ているのか。
それとも、
誰かを待っているのか。

その視線の先にあるのは何だろう。

夏の街を吹きぬける風が、城之内の金糸と戯れて、パジャマのすそを揺らしている。

彫像のように動かない横顔は、施設での城之内のままだ。
城之内の時間はあの頃から止まったまま、迎えに来ない誰かを待っていたのだろうか。


「城之内。」
 ガラスをコツコツと叩いて城之内の名前を呼ぶ。
 音に気が付いた城之内は、ゆっくりと振り返りにっこりと笑顔で海馬を迎えた。海馬は窓を開け城之内の隣に立つと、
「誰を待っていた。」
 子供のころに直感的に感じた疑問を投げかける。
「                」
 城之内はゆっくりと3回呼吸をして、
「海馬を待ってたよ。」
 手すりについていた、手をはたく。
 相変わらず、誤魔化すのが下手だな。と、海馬は感じながら城之内を抱き寄せ、額の汗を拭う。
「そうか。もう、部屋に入ろう。傷口にひびく。」
「大丈夫だって。」
 城之内は海馬の腕からすり抜けると、わざとらしい振りで部屋の中に入り、病室には相応しくない豪華な応接セットの、クッションのきいた椅子に腰掛ける。
「けが人はベッドに寝ろ。」
 呆れ顔で海馬も部屋に入り窓を閉めた。
「飽きた。」
 元来、じっとしていられない性質の城之内に長期間の入院生活は苦行でしかない。海馬が用意した特別室だといえ一日中部屋に閉じ込められているのは性に合わない。
 足をぶらぶらさせて、頬を膨らませている城之内だけど、海馬に会えたうれしさが満面に出ている。
「なあ、いつここを出てもいいんだ?怪我は治ったんだし、そろそろ退院させてくれてもいいんじゃないのか?」
「仕方の無い奴だ……とはいえ、そろそろ退院したいと言い出すころだと思って、先ほど主治医と話してきた。」
「えっ!!マジ!!いつなんだ??」
 ようやくココから出られると、城之内は身を乗り出した。
「今週末には退院してもいいそうだ。ただし、それには条件がある。」
「条件?」
「定期的に受診することを約束できるか。」
 外科的な傷は心配ないけど、体の中に入った薬の影響が気がかりだった。後遺症や禁断症状がいつでるとも分からないので、定期的な検査が必要だ。
「するする。やった!自由の身になれるぜ!!」
 事の重要性がいまいち分かっていない城之内は早くココから出たいが為に、首を大きく振り、ガッツポーズをした。
 ここら辺は回復を如実に物語っているが、海馬にはもう一つの懸念がある。
「それともう一つ、夜は眠れているか?」
「ぇっ………?」
 退院のことで頭が一杯になっていた城之内は、海馬の言葉にドキッとする。
 なんで、知ってんだよ。
 海馬が側に居てくれる夜は、眠りに着くことが出来たが、一人のときは眠れない。昨夜もそうだった。
 海馬には言ってないのにどうしてわかるんだよっ……
 心のなかで汗を流す。
 返答が出来ないのを、肯定ととった海馬は
「別に寝ないのを怒っているのではないぞ。長期間の入院生活で夜眠れなくなることは良くあることだ。しかも、城之内のこれまでを思えば仕方の無いことなんだ。」
「……ごめん…」
 城之内に諭すように語り掛ける口調に城之内も素直になった。
「眠れないようならば、眠剤を出すように言っておこう。」
「気を使わせて悪いな。ありがとう。お願いするよ。」
「今晩から用意させよう。」
 海馬は主治医を呼ぶ為に立ち上がったとき、扉を叩く音がした。

「誰…?」
 遊戯が忘れ物でもしたのかと、城之内は外に声をかける。
「開いてるぜ!」

 扉は中々開かない。患者のいたずらかと思い始めたころ、静かにゆっくりと扉が開いていった。
「……………っ……」
 ドアの向こうにいた人に、城之内の視線は釘付けになり、声を出すことも出来なかった。

 かあさん……

 記憶の中にある姿よりも年を取っているけど、見間違えることのない…一日たりとも忘れたことのなかった人がそこに立っていた。
「  か   つ   や  」
 懐かしい声が俺の耳に届く。
 固まったまま、動けない俺の変わりに海馬がかあさんを病室に招きいれて、さっき海馬が座っていた場所に母さんを連れてきた。
 母さんはゆっくりとスローモーションのような動きで腰を下ろした。視線は下を向いたままで俺を見ない。
「外にいっているから。」
 海馬は俺にそっと耳打ちすると海馬は病室を出て行き、俺と母さんが残されてしまった。






 突然現れた母親に俺は何を言えばいいのか分からない。
 かあさんも俯いたままで、指先が白くなるくらい両手を握り合わせている。
 息をすることもはばかられてしまうような、無音が俺を包んでいた。
 どうしよう…なにを言えば……考えれば考えるほど、頭の中が真っ白になっていく。




「ごめんなさい。かつや。」



 長い長い沈黙のあと母さんがようやく顔をあげて、何年ぶりに母さんを間近に見ることができた。
「もっと早く、会いにくるつもりだったのだけれど……遅くなってごめんね。」
 母さんの目が真っ赤になっていて、涙が溢れてしまいそうになっている。
「海馬さんが、克也の入院のことを知らせてくれたの。」
「海馬が……」
 海馬ならやりそうなことだなと、変なところで納得した。
「ごめんね。克也。ごめんね。もっと早く母さんが迎えに来ていたら、こんなことにならなかったのに……母さんのこと許して………」
 とうとう、堪えきれずに母さんは泣き出してしまった。両手で顔を覆い、肩を震わせている。嗚咽が両手の中からこぼれていた。



 増えた白髪。
 痩せて薄くなった肩。
 顔の皺は深くなっていた。

 今までの苦労が、母さんに刻みこまれている。
 俺が苦しんだように、母さんも苦しんできたのかな?
 愛する人を裏切った罪に苛まれていたのかな……
 ごめんね。おかあさん。
 生まれてきて、ごめんなさい。


「かあさん……」
 やっぱり、母さんにかける言葉は見つからない……



「克也。ここを退院したらお母さんのところに来ない?お父さんは……だし…静香の手術も成功したし、きっと、克也が来てくれたら静香も喜ぶと思う。贅沢な暮らしはさせてあげられないけど、何とかなるからね……」

 母さんは一緒に住もうと言っているみたいだ。
 俺のこと迎えに来たんだ……
 うれしいけど、一緒には行けない。

「ううん。母さん。俺は行かない。父さんの事ほっとけないよ。父さんは俺が居ないと何にも出来ないし……それにこっちにいる友達と離れたくないんだ。」
 俺は、父さんの子供として、答える。
「克也……」
 また、母さんが泣き出しそうだ。でも、一緒には行けないよ。
「心配しなくても大丈夫さ。もう、高校生だし、卒業したら就職するつもりだから、仕送りも出来るようになるからさ。」
 ごめんね。かあさん。本当は海馬と離れたくないんだ……


 俺の気持ちが変わらないと悟った母さんは、「たまには顔を見に来てもいい?静香のところにも来てやってね。」と諦めて帰っていった。
 
 ごめんね。おかあさん。
 いつか、俺が俺のことを許せたら、今度は俺から会いに行くよ。
 手の中にある母さんの電話番号を大切に握った。








 退院の前日、いつものように顔を見に来た海馬が親父に会いたいかと聞いてきた。
 いま、親父はアルコール依存症から抜け出るために施設にいるという。
 長年体にしみこんだアルコールを抜くのは容易なことではないらしく、まあ、意志の問題もあるが。独房にまだいるらしい。
 おれも、前に進む為には避けて通れない道。だから、親父に会うことにした。



 退院の日に親父の入院している施設に向かった。
 親父のいるところは世間とは隔離されたところにあった。都会の喧騒とは遮断された山奥に施設は建てられている。




 無機質な廊下を抜けるとセキュリティーで管理されたドアがあった。
 独房だ。
 つんと消毒液のにおいがする。城之内は震える脚に気合を入れて中に進んだ。
 この先に父親がいると思うだけで心が萎えてしまいそうだ。海馬に支えてもらいながら一歩一歩進む。
 ドアを抜けると6畳ほどの部屋があって、一面だけ壁が鉄格子になっている。その先にもう、一つの部屋があり、その中に父親がいた。
 こちらからは丸めた背中しか見えない。
「おやじ・・・?」
 城之内は言葉を失った。そこにいるのは紛れもなく父親なのだが一回り小さくなったように感じるのは何故だろう。壁に向けて何かを投げている仕草をしている。投げては受け取りまた投げ返す。
 そうだ、キャッチボールだ。
 父さんはキャッチボールをしているんだ。
 ボールを投げ、帰ってきたボールを受け止める。
 何回も何十回も、何百回も……同じ動作を延々と続けている父親。その眼に見えないボールを投げている相手は誰なのか。


 父親がゆっくりとこちらを向いた。どうやら城之内がいることに気づいたようだ。
 アルコールの影響で足腰が立たないのか、床を這うようにこちらに向かってくる。
 城之内は動けなかった。

 鉄格子越しの再開。

 父親の手に反射的に身体をすくませる城之内。
 父親の大きくて暖かな手が城之内の頬をそっと包む。思いのほか痩せた手はごつごつしていた。

「すまなかったな。克也。本当にすまなかった。」

父親からの思いがけない謝罪の言葉に城之内の目が見開かれる。

父親の手が頭を、顔を、肩を背中を、城之内を確かめるようになでてゆく。最後に指が白くなるほど鉄格子を握り締めている城之内の手を包んだ。かつて幼かった城之内を育んきたやさしい手。ずっと待ち焦がれていた手。城之内の目頭が熱くなる。

「大きくなったな、克也。ずっとそばにいたのになぜ気がつかなかったんだろう。お前にはつらい思いばかりさせてしまった。私は父親失格だ。」

「おやじ……」

「お前は俺の息子さ。血のつながりなんて関係ない。お前が生まれたときから、いや生まれる前から判っていた。そのことで一番傷ついたのは母さんなのにちっともわかってやれなかった。血がつながっていようがいまいが、克也お前が俺の息子にあることは間違いない。母さんにも静香にもつらいことばかりしてしまった。」

父親の目は声は昔のように優しい。

「………」
城之内の大きく見開かれた瞳から、涙が溢れ頬を伝っていった。

「なんで忘れていたんだろう、今ならこんなにも鮮明に思い出せる。克也をはじめて抱き上げたときの感動も。公園で暗くなるまで一緒に遊んだことや、お前の運動会に母さんたちと応援にいったこと。あのときの母さんの弁当は美味かったなあ。克也はリレーで3人抜いたよな。」

親父の無骨な手が城之内の頬を伝う涙を拭う。しかし、拭っても拭っても涙が途絶えることはない。6年間存在を忘れていた涙はしばらく止まりそうもなかった。

「うん。」

「克也は運動ならぴか一だったから、よく母さんと将来はオリンピックに出れるとか、野球選手だのサッカーがいいと話していたよ。」

「うん。」

「お前は静香が泣かされるたびに仕返しに行って、相手を怪我させてよく謝りに行ったんだぞ。」

「うん。」

父親の言葉の一つ一つが、優しく城之内を見る表情が、棘を剥いていく。心をやさしく溶かしていく。

「お前が熱を出したときなんかは父さんが病院に連れて行ったんだ。あの時はあせったよ。赤信号にも気がつかなくてさ。」

「うん。」

「なに、ひとつ忘れていることはないさ。すばしっこくて、負けず嫌いの喧嘩っ早くて、だけど、誰よりも優しい心を持っている克也。いつも太陽のようなお前の笑顔が家族を明るく照らしていた。父さんの自慢の息子だ。」

「うん。」

「なのに父さんは…とうさんは……お前につらいことばかりしてきた。許してもらおうなんて、許してもらえるなんて思っていない。だけどな、とうさんはもう一度やりなおしてみようと思う。」

「うん。」

「家族4人で暮らしたいなんておこがましいことは思っていない。とうさんはここでアルコールを抜いてまっとうな人間になって1からやっていこうとおもう。」

「…………。」

「おまえは自由だ。もう、お前を縛り付けるものなんてない。克也の想いどおりに進むといい。」

「…とうさん…」

 止まらない涙が俺の顔をぐしゃぐしゃにしている。シャツにも床にも染み込んで色を変えている。俺は声をあげて小さな子供のように泣いていて、どうやったら涙が止まるのか分からなくなっていた。
 父さんは俺が泣き止むまで、ずっと俺を撫でて、何度も俺の名前を読んでくれた。

「克也」って。
 俺がずっと会いたかった、とうさんを見つけることができた。






 施設からでた二人は手入れされた芝生の庭を歩いている。施設は高原に建てられているので、真夏でもここを吹いている風は心地よく感じる。

 
「しんじられない。」
 城之内は流れる白い雲を追って、空を見上げた。
 アルコールを抜いて、まともな人間に生まれ変わろうと戦っている父親との再開が、夢の中の出来事のように感じてしまう。
 父親の言葉の一つ一つが城之内の心の中に、繰り返し響いていて、胸が熱い。

「夢ではないぞ。」
 ずっと城之内の後をついていた海馬が口を開いた。
「だよな…夢じゃ やだよ。なぁ、海馬、俺のほっぺたを摘んでくれ。」
「いいのか?痛いぞ?」
「いいって。思いっきりやってくれよ。夢じゃないって、分かるようにさ。」
 城之内は眼を瞑る。


いっでででででっ!!


「だから、言ったではないか。痛いぞと。」
 摘んでいた頬を離すと、紅くなった頬を大げさに撫でる城之内に海馬は苦笑いをする。
「ばかっ!!手加減しろよっ!!!」
 目尻に涙を浮べて、うれしそうにしている城之内は今までで、一番幸せな顔をしている。



 真っ青な空を背景に立つ海馬を城之内はじっと見つめた。
「ありがとう。海馬が親父をここに連れてきてくれたんだよな。」
 空の青より青い海馬の瞳に、城之内が映る。
 太陽のように人をひきつけてやまない琥珀に、海馬が映っている。
「海馬が居たから俺はここにいるんだ。ここまで来れた。ありがとう………おれっ…その…海馬のこと好きにな……うわっ…」
 城之内が話し終わるのを待てない海馬が、城之内をきつく抱きしめる。
「城之内……」
 そして、真っ赤になっている城之内に口付けた。


「俺でいいのか?きっとおまえとじゃ釣り合わないぜ。知識も教養もないし。その上男だぜ?」
 長いようで短く感じた口付けから、解放された城之内は海馬にもう一度聞いてみる。
「貴様は俺を見くびり過ぎている。俺様を誰だと思っている?」
「…やなやつ…」
「お前が劣等感や後ろめたさをを持つ必要はない。俺にとってお前に変わる存在はいない。もっと自信をもて。」
「…おう。」
「早く俺様に追いついてこい。誰にも文句をいわせないくらいにな。」
「ああ。そのうち追い越してやるよ。」
「期待しておこう。」




城之内は思う。
海馬がいれば俺は自分のことを許せるかもしれない。
海馬が俺を好きって言ってくれるかぎり、
俺は俺のことを好きになってもいいのかもしれない。
ありがとう。海馬。
好きだぜ。
恥ずかしくて、もう言わないけどな。


ゆっくりと背中に回された城之内の手を感じて、海馬は目を閉じ城之内を全身で感じた。



全てを許すことで過去の束縛から解き放たれた城之内。
全てを背負いながら歩いていかなければならない海馬。


海馬は思う。
もし、あの時義父を許し、自殺に追い込まなければ俺の人生は変わっていたのだろうか。
と。

だからこそ、城之内に惹かれてやまないのかもしれない。
どんなに辛くても、ひどいことをされても、
人を許し、
前を向いて歩いていける
強さを持った
純粋な心に。



ようやく交わった、二人の道。
この先も穏やかに続きますように……。





傷跡《おわり》








終了です。これで終わりです。25ではあと2話続くっていってたのに…うそつきですみません…
書きながら、分けるより一気に行ったほうがいいぜぃ!!って、思い一気に行ってしまいました。

ようやく、ハッピーエンドにこぎつけましたよ。あちこちに暗い影は残したままですけど…これは続編で拾っていこう・・・(ニヤリっ)
勢いで書いてしまったところがあるので、後で書き直したくなるかも知れないですが……今は考えないでいます(汗)
で、ここまで読んでもらった方はお気づきですが、超ちょう素敵な可愛い城之内くんを書いてもらっちゃいました。前の2点と同じ慧さまです〜〜〜〜〜〜〜実はこの城之内君はずっと以前に頂いていましたが、、、、、、、、、今になってしまいました、、、、、、ごめんなさい、、、、、ようやく日の目を見せてあげることが出来ました。ありがとうございますっ!!!!慧さまの素敵サイトはこちらから☆


このサイトを立ち上げてからずっと書き続けていた記念のお話なので、あとがき的なのを書きたいのですが(お礼も書かないと…)現在午前2時…続きは後ほどにさせてください。

最後にここまでお付き合いいただいてありがとうございました。拙い文章や表現で気を悪くされた方もいたと思いますが、もし、ここまで読んでもらえていたら、うれしいです。

拍手やコメントを頂いたかたにも、ここの場を借りてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
2007.1.16 脱稿