腐った日常




  まだ、明けきらない薄暗い時刻に俺はようやく家にたどり着いた。
帰って来たいと思う場所ではないけど、帰る所はここしかない。
そこが安らぎの場所ではないとしても。

気配を殺して部屋に戻る。
父親の大いびきと歯軋りをBGMに俺は泥沼のような眠りに
引きずり込まれた。


どのくらい、眠ったのか部屋の外に人の気配を感じて目が覚めた。
建てつけの悪い襖が嫌な音をたてて開くと、そこには知らない人いる。
寝ぼけた目を擦る俺を、すっかり見慣れた反吐がでる視線が舐めている。
隣にいた親父が

客だ

と言った。
手には何枚かの札が握られている。

サービスしろよ。

と、にやけた醜い笑いを受けべ片手を挙げる、くそ親父。
つい数時間前まで、酷使した場所は熱を持っているのに
まだ、いたるところにつけられた朱の後は消えていないのに。

そして、おっさんが畳の上に足をのせ、襖が閉まった。
唯一の俺の場所が、汚される。

おっさんの体温が俺に移り
たばこ臭い、体臭が染込んでいった。

裸に剥かれ、足を開き、男を体内に迎え入れて
あさましく腰を振る、揺れる視界の先に
黒いランドセルが朝の太陽の光を鈍く反射させている。
あれを背負ったのがどのくらい前だったか、
それすら思い出せない。

穢れのない子供の象徴だとすれば、
もうそれに触れる資格は
ない。

だって、今、俺の背には別の男がいるから。
生暖かい舌が、ナメクジのように這っている。
穢れた背中にそれを背負う場所はどこにもない。

借金も親父も母親も妹も
重い
足枷
背負いきれない、重い荷物
しかし、
放りだすことも、逃げ出すことも
許されず
俺は諦める。

俺には何もないと
諦めれば
少しだけ楽になれるかもしれない。

俺の手の中には何もない
あのランドセルの中は空っぽだ。
俺の中も空っぽ。
それでいい。

ああ、
窓が青い。
澄んだ青。
あいつのような色。

あいつは今頃どうしてるかな。
あの綺麗な青い色に何を映しているんだろう。

あいつに会いたいな。
もう一度だけでいいから会いたいな。

なんてことをぼんやりと考えていたら
おっさんがこずいてきた
手ぇ抜くなって。

俺はうっすらと笑うと
おっさんの不潔な指に舌を絡めた。
そしたら、おっさんは気を良くしたみたいで
にたり
とした。

再開したき律動に俺は揺さぶられる。

もう、あの色さえ思い出せなかった。










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