ダブルベッド 1






 まだ、夜の開けきらない薄暗いマンションの寝室の、ダブルベッドで、城之内は混乱していた。




 隣で眠っている裸の男。
 そして、自分自身も裸。





 どうして、自分はここにいるのか。
 隣で眠っているのは誰なのか。





 全く覚えていない。





「んで、男なんだよ。女だろ……。」
 一人ごちると、眠る男を起こさないようにそっとベッドから這い出し、床に散らばっていた、スーツを拾い集めていく。
 ガラステーブルには簡単なつまみと、グラスが二つ放置されていて、この男と飲んだ形跡が残されていた。
「っつ!!」
 腰を屈めた瞬間、下半身に鈍痛が走り抜け、おぼろげながら数時間前のことを思い出す。
「!!!!!!!!!!」
 靄のかかったような記憶の中での自分の痴態に、城之内は思わず上げそうになった声を飲み込んだ。



 そう、城之内はベッドの男と………。



「やべっ!!遅れる!!」
 城之内は鞄から手帳を取り出すと、無造作に1ページを破り、ペンで走り書きをし、男の側へ置いた。
「も、会わないだろうけど。」
 サンキュと、礼をいい、部屋を出る。
 




 それが、城之内と男との出会いの夜。







*******





「おはようございま〜すっ!!」
 早朝の新聞配達店にいつもの威勢のいい声が響いている。


「相変わらず元気だな。」
「おはようっ!」
 ジャージやラフなスタイルで、部屋の中央に置かれた作業台でチラシを挟み込んでいる、オヤジたちが手を休めることなく日常の挨拶を交わしていった。
 そんな中、
「かっちゃん。朝帰りかい?隅に置けないなぁ。」
 マルボロを咥えた、オヤジの一人がスーツを着た、この場所には相応しくない恰好の、城之内を冷やかす。
「あーーーっ。昨日は徹夜っス。急な仕事が終わんなくて。新人の辛さッス。」
 まさか、本当のことを言えるはずもなく、咄嗟に誤魔化す城之内。
「でも、ちゃんと休まずにくるかっちゃんはえらいよ。たいしたもんだ。」
 事情があるとはいえ、無事に就職した後も、真面目に配達を続けている城之内に、オヤジは大げさに頷き、俺の息子にもかっちゃんのつめの垢でも飲ませたいぜ。と愚痴をこぼす。
「さてと、今日も張り切っていきましょう〜。」
 城之内が鼻歌まじりに、シャツのボタンを二つ外すと、不意にタオルを渡された。
「????」
「若いっていいな。見えてるぜ。キスマーク。他の奴にゃ、刺激が強いから、隠しとけ。」
 目ざとく、首筋に付いた朱色の跡を見つけたオヤジの一人が、囁いた。
「!!!!!!」
 真っ赤になる城之内の頭をごつんと叩き、ま、ほどほどにな。と、意味深な言葉を残し、配達に出ていった。
 冷や汗の流れる額をタオルで拭うと、城之内のキスマークに気が付いていた、何人かのにやっとした視線とぶつかり、逸らしていく。




「たまんね〜ぜ……。」
 城之内は嫌な唾を飲み込みながら、配達の準備をするのだった。







*****



 




「いって〜〜〜。」
 出社早々、顔をしかめて机に付く城之内に、同期の本田が振り返る。
「んだ?具合でも悪いのか?」
 書類を手に城之内の顔を覗き込む。
「あ…あっ…違うよ。全然元気だぜ。さあ、今日も張り切って仕事しようぜっ!!」
 本田の背中をばしっと叩いて誤魔化すと、城之内も手帳を開き、今日の予定を確認していく。
 まだ、入社して一ヶ月しかたっていない、新人の城之内に休んでる暇などない。覚えなければならないことは山ほどある。





 高校を卒業と同時にカイバコーポレーションに採用された城之内は、今や立派な社会人だ。
 城之内を知る友人や教師は奇跡だと言っていたが、もぐりこめればこちらのもの。持ち前の明るさと体力で日々の仕事を精力的にこなす。






 しかし、一日中、夕べのことが頭から離れなかった。
 男としてどうなのだと、自分に問いかけることは数え切れず、仕事がはかどるわけが無い。
 考えないようにと仕事に集中しようとすれば、夕べのことが脳裏に過り、そのことを考えようとすれば、仕事が気になって。
 気が付けば、夜も遅い時間になっていて、広いフロアには城之内一人となっていた。
「しゃーないな。今日は、帰ろう。」
 一向に進まない仕事に見切りをつけ、城之内は社を後にした。 






「はぁ……。」
 大通りに出ると、大きくため息をつく。
「めしって感じじゃないな。」
 華やかなネオンを背に、城之内の足はある店へと向かっていった。





 



 
*****








「いらっしゃいませ。」

 扉を開けると、マスターの低い声が城之内を迎えてくれる。
 ドミノ町の片隅にある、小さなカウンターバー。
 カウンターと小さなテーブルが2組あるだけの10坪ほどの小さなバーが、城之内のお気に入りの場所となっていた。
 間接照明だけの店内には静かな音楽が流れていて、日々の忙しさを忘れさせてくれるような空間だ。
 そしてなにより、マスターの作る酒が美味い。
 



 入社してからすぐの時、なんとなく気になって店を覗いてみたら一目で気に入ってしまったのだった。
 それ以来、時々足を運ぶようになっていたのだった。 



「ちっぃ〜す。」
 城之内はカウンターの隅に腰を下ろすと、
「いつもので。」
 と、注文をした。


 シャカシャカと小気味いい音がして、やがて城之内の前に一杯のカクテルが置かれた。
 それを一口、口にすると思考が冴えてくるのが自覚できた。



 昨日も、ここで、あの男と出会ったのだ。






















 こんなの出ました〜〜
 発作的に燃えてきた、リーマン海城です。
 おっと城之内くん、未成年の飲酒は駄目だぞっていう、突っ込みはなしにしてくださ〜い。
 次はちゃんと社長がでてきますっ!!(汗)

 原稿がエロばっかなので、書いてみました〜〜vv
 全体のキーワードは次回くらいに出てくるので、あえては書きませんが、自分的には好きな世界です。


 ぼちぼちお付き合い下さい。




 背景はこちらでお借りしました。
 NEO HIMEISM