父親と再会。 父親の謝罪とあたたかい手と言葉が城之内の止まっていた時間を動かした。 そして、父親と再会した夜。 「海馬………ありがと…な。」 枕元の灯りに照らされたオレンジ色の天井を見上げて、城之内は何回目かの ありがとう を唇にのせる。 「ああ。俺は何もしていないが。」 ふと、隣を見れば並んだ布団に横になった海馬がいて城之内を見つめている。 「ううん。海馬にはいっぱいやってもらったし……それに俺………」 オレンジ色の灯りにも染まらない、海馬の深い蒼い色に、城之内はその続きを言うことを止めた。 『海馬と出会っていなかったら、今頃どうしているのだろうか。』 幼い頃のあの時。 高校に入ってからの再会。 そのどちらが欠けても、今の城之内はここにいないだろう。 城之内の過酷な人生の中で、海馬という存在はなくてはならない物だった。消えそうな命を繋いできた一筋の光。 「……ま、いいか。」 きっと城之内が言わなくても、海馬は分かっているはずだ。 城之内は首を軽く振ると、自分を見つめる海馬に笑って見せた。 「なんか、こうやってるとさ、修学旅行にでも来たみたいだよな。」 ごろんと海馬のほうへ体勢をかえ、枕の位置を直す。 「静かすぎるが、まあ、そんなところだ。」 今、海馬と城之内がいるのは、父親のいる施設からそう離れていない場所にある温泉旅館の一室。 退院したばかりの城之内の体調を考えて海馬は宿を用意した。 もちろん明日も父親のいる施設でこれからの事の説明を聞くことになっていたし、城之内のこれからの身の振り方も考えなくてはならなかったので、都合が良かったのだ。 食事も温泉も堪能した二人は、部屋の照明を落とした中布団を並べて眠りに付こうとしている。 こうして、ゆっくりと穏やかに流れる時間の中で、目を閉じると何もかもが現実感を失っていくような、夢の中にいるような気がしてきてならなかった。 瞬きの次に、元の現実が待っているような背後から暗い何かが手を伸ばして追いかけてくるような、脅迫観念に城之内の体が震える。 「……そっちに…行ってもいいか……?」 城之内の口が無意識に言葉を作る。 夜の嵐に怯えていたあの頃のような城之内に、海馬は身体をずらすと布団を捲り、城之内が入るスペースを作る。 「……いいぞ。」 城之内はすっと海馬の布団の中にもぐりこむと、小さな声で「わりいな。」海馬にしか聞こえないように呟く。 城之内の不安定な心情を察した海馬は、深く問いかけることもせず、城之内を抱き寄せた。 「気にするな。どちらかといえば、俺のほうが……役得だな…」 「へっ?」 海馬の少し高くなった声色に城之内が顔を上げると、思ったより近くにいた海馬と目が合い、城之内の顔が赤く染まった。 「ぅわ……っ…ごめっ…」 無意識にしてしまったとはいえ、予想以上の恥ずかしい行動に、城之内は慌てて布団から出ようとする。と、海馬の腕の力が強くなり、城之内を抱き込む。 「しばらくこうしていろ。」 青くなったり、赤くなったりと忙しい城之内は気が付いていないが、その身体が小刻みに震えていた。海馬は何も言わず、ただ、震えが納まるまで城之内を胸に抱いた。 「……ん…。」 海馬の力強い力と温もりは、城之内の抵抗を萎えさせるには十分なものだった。 「海馬って、あったかい。」 海馬の規則的な鼓動と、暖かな中で身を任せていくうちに、城之内の震えも納まってくる。 ふぅ、と息を吐き海馬を正面で捉える頃にはいつもの城之内に戻っていた。 「褒め言葉として受け取っておこう。」 海馬は金色の髪をかき上げると、普段は隠されている額に唇を落とす。 「…かい…ばっ…」 「嫌な夢を見ないようにとのまじないだ。昔、母によくしてもらっていたのだ。」 唇が触れる一瞬、身体を硬直させた城之内に、まだ時期早々だったかと反省しつつ、海馬は髪を撫でた。 出来るだけ、城之内に性的なものを感じさせないように。 「海馬が…?」 「そうだ。子供のころに眠れなかったときは母がこうしてくれていた…。」 海馬もまた昔を懐かしむ。 「海馬にもそんな頃があったんだ。」 「当たり前だ。俺だって、生まれたころからこうだったわけではない。」 意外な海馬の一面に、城之内がくすりと笑う。 「こいつ…」 海馬もつられて苦笑すると今度は城之内の額を弾き、布団を整える。 「今日は疲れただろうから、もう寝ろ。少々の寝相の悪さは大目に見てやろう。」 城之内の体の強ばりが解けたことを確認して、海馬も眠りに付こうとした。本当は城之内が側にいるので眠れるはず無いけれど。 そんな海馬の心情を知ってか知らずか、城之内は唐突に起き上がると整えた布団を乱暴に跳ね除けて、海馬の腹の上に馬乗りに乗っかった。 「ばかやろうっ!…っんで、がまんしてばっかなんだっ!」 「?」 突然の城之内の行動に、海馬は戸惑う。真上にいる琥珀が揺れている。 「……城之内…」 「何でだよっ。こんなに側にいるのにどうして……その……なんにも…っ…」 城之内の顔が真っ赤だ。 「んでっ…っ!」 互いの呼吸も心臓の音も分かるくらい近くにいるのに、冷静さを崩さない海馬に城之内は無償に腹がたっていた。一人だけ、ドキドキしているのはわりに合わない。 「俺は……おれは……っ…もっと、海馬に触れていたい…もっと、海馬を感じたいのに。勝手に自己完結させてんじゃねぇっ!」 こんなに近くにいるのに、眠れないのは城之内も同じだ。 好きな人の側にいて、何もしないでいれるほど、城之内は大人でないし、子供でもなかった。 好きだから。 好きだからこそ、 好きな人に触れたい、 実に単純。 策略も打算も何も無い、 海馬が好きだという純粋な感情が、真っ直ぐ、城之内を動かしていた。 「……ばか…が…。」 城之内の挑むような視線を受け止めていた海馬は小さく唇をゆがめると、ゆっくりと起きあがり布団の上に座り直す。そして、浴衣の襟を掴んでいた城之内の手を取り、胸に引き寄せる。 「かいばっ…?」 海馬の鼓動が早鐘を打っている。 「俺だって、平静なわけがない。愛しいものを前にして何も感じないわけないだろう……だが…」 海馬は大人しく腕の中にいる城之内を強く抱く。 「……愛しいからこそ、簡単に城之内を抱きたくわけにはいかない…わかるか?」 城之内とSEXをするのは簡単なことだ。しかし、城之内にとってのSEXはトラウマの塊でしかない。 生きるためだと自分に言い聞かせながら、好きでもない相手に身体を開いてきた。何年もの気の遠くなるような時間の中、心が擦り切れそうになるまで耐えてきたはずだ。 だから、海馬は待つ。 父親や母親との接点を取り戻して、海馬以外に帰る所を見つけ、無くした自分を取り戻した上で、城之内が真実に海馬を求めているのか見極められるまで。 時間は十分にあるはずだ。 「愛しいからこそ……?」 「そうだ。」 不思議そうな表情で海馬を見上げる、金色の髪を梳く。 「城之内のことが好きで、大切にしたいから、俺の欲望だけで城之内につらい思いをさせたくなかった。」 借金も罪も重荷も無くなり、自由になった城之内に選択をさせてやりたい。 海馬の手を取るのか。と。 もし、城之内が海馬を選ばなくても、 海馬にはそれでも良かった。 城之内の笑顔を取り戻せるならば本望だった。 少し淋しいけれど。 「…んとにっ!!ばかだぜっ!!」 海馬の苦悩を吹き飛ばすかのように、城之内は海馬の顔を両手で挟む。 「本当に海馬はばかなんだな。もっと、俺を信用しろよ。俺は海馬のことが好きなんだ。」 海馬の顔をじぃっと見つめ、そして、全快の笑顔を満面にたたえた。 海馬の求めていた太陽のような笑み。 「……城之内…。」 海馬も同じように城之内の頬を両手で感じる。 「……いいのか?」 不思議なことに震えていたのは海馬だった。 「大丈夫。俺はそんなにやわじゃない。それと、ちゃんと言えよ。俺のことが好きだって。」 「好きだ。」 「本当…に?」 「好きだ。城之内が好きだ。」 「へへっ。俺もだぜ。」 海馬の迷いも苦悩も、馬鹿らしくなるくらい、 城之内はあっけなく海馬を選んだ。 城之内の見つめる先に、海馬がいて 海馬の先にも城之内がいた。 求めるものはきっと同じだろう。 柔らかで、穏やかな視線が交わって、その距離が縮んでいった。 最初は触れるだけ。見た目よりもずっと柔らかい感触を感じて、でも、すぐにもっと欲しくなって。 お互いの舌を絡め合い、歯がぶつかるのもかまわず、呼吸も忘れて求め合った。 「……なんか…甘い…?」 海馬の舌を受けとめるとき、混ざり合うものが甘く感じて、唇が離れたとき城之内は感想をつぶやく。 「海馬のって、甘い感じがする…なんでだろ?」 海馬の首に両手を回したまま、城之内はもう一度海馬の唇を啄んだ。舌でもう一度海馬の中を味わい、チュっと音をたてて唇を離す。 「やっぱ、甘い。」 不思議そうに首をかしげている城之内。海馬は城之内を膝の上に乗せて好きなようにさせている。珍しいのもを発見した子供のように目を輝かせている城之内の姿が愛おしくて。 「変だよな………何で甘いんだろ…?」 今まで数えるのも嫌になるくらいの口づけという行為をしてきた城之内。しかし、一度も『甘い』など感じた事はない。タバコのヤニで苦かったり、脂ぎったオヤジの腐った肉のようだったり、見知った組長や専務とするときでさえ、一番嫌いな行為の一つだった。 なのに、海馬とは違っている。 どうしてだろうか。 海馬の膝の上にちょこんと腰を掛けた体勢のまま、うすい唇を指で辿る。指で押すと柔らかくその形を変えた。少し湿っているのはさっきのキスの名残。 「城之内のも甘いぞ。」 潤んだ琥珀色で唇をつついている城之内に優しく微笑む。 「マジ?」 「甘いぞ。砂糖のようだ。」 城之内が感じたように海馬も同じように感じている事にうれしくなった城之内は、海馬の肩にあごを乗せて抱きついた。 「変だよな。俺、キスが甘いなんて一度も無かった。ずっと、まずくて苦くて気持ち悪かったんだ。」 「………そうか……。」 海馬は静かに頷くと、そっと、金糸を梳く。 「ちんこを銜えるより、精液を飲むのより、キスは嫌いだったんだ。」 城之内は今まで誰にも言えなかった事を言葉にしていった。 その行為は心の中にある傷を癒していく為に本能の行動だろう。一番信頼して心を許しているものに、自らの犯してきた苦痛を告げることにとって、トゲを一つずつ、少しずつ抜いていくのだ。 父親との再会によって、失っていた五感を取り戻した城之内は、これからも沢山の事を海馬に話していくのだろう。時には耳を塞ぎたくなるような事も話すはずだ。城之内のこれまで強要されてきた辛くて、悲しくて苦しい事をもう一度疑似体験しながら見えない傷を塞いでいく。 「どうして、甘いのか教えよう。」 「 ? 」 その時は海馬が受け止めればいい。 「甘く感じるのは、俺が城之内の事が好きだからだ。」 「好きだから?」 「そうだ。」 海馬は穏やかに微笑む。 「ふ……うん。」 城之内は分かったような分からないような表情で考えている。 城之内の受けた苦痛を受け止められるのは海馬しかいない。終わりの見えない心の治療は始まったばかりなのだから。時には嵐のようにぶつかることもあるだろう。心が揺さぶられることもあるはずだ。聞きたくも無いときだってあるかもしれない。だけど、海馬には城之内の全てを受け止めなければならない責任がある。 「好きだ。」 だから、何度でも告げよう。 城之内に、 『好き』 と言うことを。 そして、その両手でしっかりと固く城之内を抱きしめる。 もう二度と離れることが無いように。 「俺も好きだぜ……もっと甘いのが欲しい。」 「ああ。」 ようやく何かを納得した城之内は再び海馬の唇に触れる。 溶けてしまいな甘さを感じて、海馬を求めて下を絡ませあった。その動きは稚拙で単純なものだったが、その分お互いを感じていたいという熱を高めあうには十分すぎるものだった。 どのくらいしていたのか分からなくなるくらい、キス、をして満足したのか城之内はようやく唇を離す。 上がっきた体温につられて、城之内の目元が桜色に染まっていた。 ほうっ。と息を吐き海馬にもたれ掛かる。 「……ふっ…」 海馬の肩にもたれて体重をあずけていると、呼吸にあわせて僅かに上下するのが楽しくて、城之内はくすりと笑う。 「どうした。」 「なんでもないぜ…」 海馬の匂いを胸一杯に吸い込んで、海馬を確かめる。 もたれたまま動かない城之内の金糸を指で遊びながら、 「城之内はどっちがいい?」 と、海馬は聞いた。 「どっち?」 海馬の質問の意味が理解できず鸚鵡返しに聞き返す。 「抱くのと抱かれるのの、どちらがいいか聞いているのだ。」 「へっ????」 言っている内容と海馬の真剣な眼差しが不釣合いで城之内はポカンと口を開きっぱなしになる。 「今、馬鹿にしただろ。これでも真剣なんだぞ。 城之内も男だからな。 俺も一応覚悟しているんだ。」 「覚悟?」 「そうだ。城之内が俺を抱きたいといえばそれに答えねばなるまい? 動揺しないように、心の準備はしている。」 要は、 海馬は城之内が望めば抱かれても良いと言っている。 「俺が…海馬を抱く……って、ことか?」 「………。」 目の前にいる海馬の丹精な顔が、真っ赤になって縦に動く。プライドの塊のような人物が“男に抱かれてもいい”と思っている。 あの、海馬。が。 「ぷっ!!!」 城之内は噴出した。 「おっ…待て!笑うな!!俺は扱く真面目にだなっ…考えてっ…」 「わはははっ!!やべぇって、海馬。面白すぎだぜっ!!」 真面目に海馬が話せば話すほど、城之内はお腹を抱えて笑う。目尻に涙を浮かべて笑う城之内。 ひとしきり笑うと、城之内がふぅっと大きく息を吐き、呼吸を整えた。 そして、次は城之内が真面目に答える番。 「海馬を抱くのは次に取っておくぜ。」 ぺろりと舌をだし、笑顔を作る。 「正直言って、そんなこと、今まで考えたこと無かったけど、海馬を抱くのも面白そうだよな。だから、楽しみは先に残しておくぜ!」 「良いのか?」 海馬はもう一度、聞く。 「ああ。今夜は海馬に抱かれたい。ありがとう。すっげえ、うれしかったぜ。」 城之内は再び海馬に抱きついた。 「でもよ。天下の海馬瀬人を抱く男なんて俺ぐらいだよな。俺ってすげえじゃん!!」 「ああ。そうだな。」 背中に回される城之内の腕を心地よく感じながら、海馬もまた強く城之内を腕に抱きしめる。 「好きだ。城之内。」 「俺もだぜ。」 二人の唇がもう一度重なった。 やわらかく重ねた唇を離すのとタイミングを合わせて、城之内は海馬の浴衣の帯を解いていった。そして、緩んだその合わせ目を開いて唇を伝わせていく。 「……城之内。」 「ん?」 少し上ずった声で名前を呼ばれ、城之内は上を向くと小さく笑い、 「俺にまかせて。」 と、再び動きを再開させていく。 思ったよりも高い体温を感じながら、城之内は慣れた手順で海馬の下半身にたどりつき、するりと下着を取り去って海馬を含んだ。 「、、、、っふ、、、」 口内を唾液で潤して海馬に触れる。 海馬を体の中に迎え入れることの出来るうれしさをかみ締めながら、城之内は懸命に舌を這わせた。 濡れた音を惜しげもなく立て、両手も添えて城之内はそれを喜ばせようと必死になって、あごが疲れるのもかまわずに海馬にむしゃぶりついていた。 しかし……… 「……じょうのうち…。」 ようやく手にした城之内との時間になのに、海馬は切なくて泣いてしまいそうになっていた。健気に奉仕をするその術は城之内が幼いころから仕込まれてきたものそのものだったから。 ほんのりと額に汗をにじませて、海馬のそれを起たそうとすればするほど、海馬の胸は締め付けられてしまっていた。ずっとこうして、夜を過ごしてきたのだ。きっと。 幸せな時間の時にさえ、食い込んでくる影の濃さに、海馬は唇を噛んで、 「……もう…いい。」 海馬は上下する金糸に手を添えて動きを静止させると、ほのかに上気した頬を包み込む。 「、、、、、、、ごめん、、」 瞳を潤ませて、反射的に謝る城之内。 「ごめん……おれ、下手だったのか…気持ちよくなかった?」 唾液で濡れた唇を拭うことも頭にないまま、目を伏せる。それもそのはずで、城之内の懸命な奉仕にも係らず、海馬のそれは緩く反応しているだけで城之内の知る男の形状とは程遠いものだ。 「だめだったら……言ってくれ…俺、ちゃんとするから…」 今にも涙がこぼれてしまうのではないかと思ってしまうくらい、瞳が揺らいでいた。上昇していた体温も平常時よりも冷たくなっていて、海馬自身を握る手が震えている。 「違うのだ。」 海馬はその涙を唇で吸い取り、抱き寄せる。 怯える城之内に大丈夫なのだと、教えるために。 城之内の細胞の一つ一つに沁みこんでいる、暗い影に言葉は通じないだろう。耳に聞こえる言葉の意味はまだ、城之内の心には届かない。 海馬の言葉の意味がちゃんと、聞こえるようになるまで一つ一つの時間を大切にしていこうと。震えている城之内に海馬は心に誓った。 「城之内だけでは、ずるいではないか。俺にもさせろ。」 「へっ?」 不思議な顔をしている城之内に、いやらしく微笑むと、海馬は城之内をそのままにごろんと布団の上に寝転んだ。 「……海馬?」 海馬の意図が掴めない城之内は軽く首をかしげて、 「跨れ。そうすれば二人でできるだろ?」 海馬は自分の顔を差しながら、城之内を促した。 「………!」 海馬の意図が判った城之内の顔が真っ赤に染まった。いわゆる69を求められているのだ。 「やったことないのか?」 「ばかっ!!無いわけ無いだろっ!俺をなめんなっ……」 いとも当たり前のように城之内を求めてくる海馬に、城之内は恥ずかしくてたまらない。 ぷいっと視線を逸らす城之内は、さっきまで海馬に奉仕していた姿とは別の人間のようだった。 「それでいい……こい。」 海馬は浴衣の裾を引っ張って、再度、促した。 「…スケベ親父みたいだぜ……。」 「俺は真面目だぞ。」 「…んな、ところが、エロいんだ…」 寝転んでこちらをニヤニヤと見ている海馬に、城之内は小さく呟くと、ゆるゆるとした動作で海馬の顔を跨いでいった。 「これで、同じだな。」 「うぅっ…めちゃくちゃ、恥ずかしい……ぜ。」 「俺は気にしない。」 「エロ親父…。」 と、会話をしている間にも、海馬は穿いているトランクスをずらし、海馬と同じように、ゆるく反応し始めている城之内に触れた。 途端に城之内の腰が跳ねる。 「んっ、、、ぁあっ、、」 思わず逃げ腰になるのをがっつりと、押さえ込まれ、すぐに熱い口内へと導かれていく城之内。 すると、城之内の手の中にある海馬がどくりと脈打つ。 「、、、ぁ、、海馬も大きくなった、、おもしれ、、、。」 まるで、城之内自身が大きくなるのに呼応するかのように、海馬も大きく育っていく。 なんだかうれしさがこみ上げてきて、城之内もまた口を開いていった。 「、、、んっぁっ、、」 海馬の熱い口内に包まれて、そこから広がる熱に腰から下が砕けてしまいそうで、城之内は海馬に集中することにした。 「ふぅぅ、、、んんっ、、」 しかし、海馬の愛撫は巧みで城之内の感覚を翻弄していく。 海馬としているということを、考えるだけで昇天してしまいそうになるのを堪えて、懸命に舌を使った。 お互いのそれを口にする。 城之内が愛撫に反応して声を漏らせば、手の中にある海馬もまた大きく硬く育ち、弱いところを愛でるように吸い上げられる。 「ぁあっ、、、、かいばっ、、、」 吐精を促すような行為に思わず腰を引くが海馬は、それを許さず、さらに奥の秘められた部分にまで唇を合わせていく。 「か、、っ、、いばっ、、そこはいいからぁ、、」 奥の窄まりに熱い肉を感じた城之内は海馬を離すと、声を上げる。 「んなとこ、、、舐めんな、、汚ね、、、えからっ、、」 「ほぐしておかないと、城之内が辛いのだ。」 「ぃいい、、俺はいいからっ、、、」 そんなところを舐めさせることは出来ないと、やめさせようとするけれど、海馬は聞き入れるつもりはないようで、 「辛くなんか、、ねえよ、、平気だから、、慣れて、、、ぁ、、」 「ばか者。平気なわけないだろう。」 平気なわけはない。 もともと、受け入れるべきない器官を使うのだから、それなりに苦痛があるはずなのだ。 それを慣れてるの一言で片付けようとする、城之内に海馬はむっとしつつ、 「それに、俺が舐めたいのだ。城之内のここを。」 と、更に愛撫を深めていった。 「ぁあああっ。」 背徳の場所を愛されて城之内の体が桜色に染まっていく。 身の内に海馬の細く綺麗な指を感じた瞬間、城之内の体が緩やかに反り返っていった。 「かいば、、、かいば、、ぁ、」 熱病のように何度も海馬の名を呼び、城之内もまた、海馬自身に奉仕していった。 それは不思議な感覚だった。 手の中にある、すべらかに鼓動する肉の塊が愛おしい。 こんなものは小さなころから見慣れていたし、数えるのも億劫になるほど口にしていた。そのから吐き出されるものも、多少の味の違いはあれどみんな同じようなものだった。ただ、早くこの時間が終わることを念じながら、口にしていた。 でも、海馬は違う。同じもののはずなのに違うもののように感じる。 城之内の愛撫に答えて大きくなるのも、時々息を詰めたように腹筋に力が入るのも、全てが新鮮で初めて感じる感覚で、戸惑いながらも、純粋にうれしさを噛み締めていた。 何度も同じことを繰り返して、やがて、海馬を手で支えなくても天を仰ぐようになるころには、城之内の腕に力が入らないようになってしまう。 ぐったりと海馬に体を預けて、荒い息を吐く城之内をそっと布団に寝かせると、崩れた浴衣の帯を解く。 オレンジ色の灯りの下に、城之内のしなやかな肢体が照らされて海馬はあふれてくる唾を飲み込んだ。 「、、、、かいば、、」 海馬の視線に気づいた城之内は浴衣の前を合わせようとする。しかし、それをやんわりと静止されて、見上げた先で海馬も同じように浴衣を脱ぎ、その下から現れた均整の取れた綺麗な身体。 城之内の顔が思わず顔が赤く染まった。 「城之内。好きだ。」 「………おれも…。」 ずっと好きだった青色が近づいてきて、城之内はそれを離さないように両腕で抱きとめる。 「かいばっ、すき……大好き。ずっと……一緒にいたいっ。」 「……じょうのうち。」 栗色のさらりとした髪を頬に感じながら、城之内は海馬を求めた。 眠れない夜を過ごしながら、心のずっと奥の深いところに閉じ込められていた、城之内の魂の呼び声に、海馬は首に回っていた手を解いて、城之内の前でしっかりを握った。 「大丈夫。ずっと側にいるから。こうして、手を離さないから。何があっても、俺は城之内の側にいる。 友として、大切な人としてだ。」 遠い昔に忘れていた約束がようやく果される時がやってきた。 城之内が羨望した遠い昔の約束。 「ありがと…海馬…」 城之内が安心したように微笑んだ。 その琥珀色があの夜と変わらない色で、二人は引き寄せられるように、もう一度唇を合わせ、互いを求め……城之内にとっても、海馬にとっても忘れられない濃密な時間が過ぎていく。 「んんぅんん、、、」 二人の身体に挟まれたものがこすれあって、熱い。 海馬もそうであるように、城之内もまた、限界のようだ。二人とも健康な高校生なのだから。 城之内は恥ずかしそうに、もぞもぞと腰を動かしていて、顔を真っ赤にしている。 「………。」 海馬はゆっくりと上体を起こし、城之内は海馬を向かいいれる。 「んっ」 「……城之内…。」 熱さに触れた瞬間、一瞬身体が強ばったが、深いところまで繋がるとほっと力が抜けて、城之内は満面の笑顔になる。 「……お前、でかすぎ。」 「最大の賛辞として受け取っておくぞ。」 ああ。 城之内はやっぱり城之内だった。 身体を繋げても、変わること無い城之内に、海馬は目頭が熱くなるを感じた。 「だが、まだコレくらいではない。」 「う、、、、あっ、、ぁ、、」 城之内が慣れてきたのを見計らい、海馬はゆっくりと身体を動かし始める。 ゆっくりと、でも確実に、一緒に頂点を目指すために。 「かいばぁ、、、」 慣れてきた身体は海馬を確実に、体内で感じていて、その脈打つ鼓動でさえ判るような気がしている。徐々に存在を増す海馬を受け入れていくにつれ、徐々に城之内の身体に変化が出てきた。 「ひゃぁっ!」 熱い。 熱いのだ。 手が、唇が、身体の奥から、海馬の触れるところ全てが、まるで火がついたように熱い。その熱は全身に広がっていって、城之内を覆いつくしていく。 「ぅぁあっあぁっ!」 それは、初めての感覚だった。海馬と繋がっている所から沸き起こった熱で、そこが溶けてしまいそうな錯覚さえある。 視界に入る景色の輪郭もぼやけていって、白く霞んできて、熱に犯された頭では何も考えられない。 ただ、ひたすらに中で感じる海馬の存在を本能で追っていった。 「かいばっ、、」 激しい奔流に流されてしまいそうな恐怖に、城之内は思わず海馬にしがみ付く。 「あぁ、、こ、、わぃ、、せとっ、、」 感情の高ぶりで緩んだ涙腺からはひとりでに涙が零れ落ち、頬を濡らす。 「、、、だめっ、、、だ、、へんに、、、、なぁ、、、こんなのっ、、、しらない、、、っぃい、」 今までに一度も感じたことの無い、SEXの衝動が城之内には怖くてたまらないのだ。 海馬にしがみ付く腕に力が篭る。 「大丈夫だ。怖くなんか無い。」 海馬が流れ落ちる涙を、唇で受け止めて、きつく回されていた手をやんわりと解く。 「もっと、感じていいのだ。へんじゃ、ないから。」 「でもっ、、、、せとっ、、んんんっ」 「俺はここにいる。」 震える指を絡め、揺らぐ琥珀色を見つめる。 「せと、、、あああっ!!」 激しく揺さぶられていても、潤んだ視界に海馬だけはしっかりと映っていて、城之内は目を細めた。 「かつや」 海馬も限界が近いのか、一層、大きさを増し、切羽詰ったように力強くなる。 「かつや。好きだ。」 繋いだ手をきつく握り締めて、何度も城之内の名前を呼ぶ。 せと かつや あつい。なにもかもがあつい。 あたまも、からだも、こころも つないだゆびのさきまで つながっているすべてがあつい。 「ああああああーーーっ!」 さらさらと、金糸がシーツに散る。 「せとっせとせとっぉ」 身体がふわふわとして、何処かに飛んでいってしまいそうだ。 「ぃいっぁああ、やめっ、、、、こわぃっ!!」 わけのわからない情動に城之内は目を閉じられず、意味を成さない言葉の羅列が口をついて出る。 「はぁっ、、はぁ、、んんっ、、はぁ、、」 でも、海馬がいるのなら、平気なのかもしれない。 海馬なら 「かつやっ、、、愛してる、、」 海馬の声が鼓膜を震わせる。 熱い吐息と共に名を呼ばれ、全身にぞくりとしたものが津波のように駆け巡って、城之内は一気に頂点へと押し上げられていく。 「あああああああああっ せ と っ 」 甘く掠れた声を上げ、 城之内の身体が海馬の腕の中で、しなやかに反り返り ゆっくりと、力が抜けていった。 固く手を繋いだまま。 「城之内…。」 海馬はそっと身体を起こすと、夢の世界に行ってしまった城之内の乱れた髪を整える。 「んっ……。」 幼い寝顔に、ほのかに残る情事の跡。 海馬は赤みの残る痛々しい背中の傷跡に口付けを落して、上掛けを掛け直した。 二人の体温で布団の中はすぐに暖かくなり、海馬は城之内を起こさないように、腕の中に抱き寄せる。 違和感なく納まる城之内を近くに感じて、 きっと、間違いなく、照れて恥ずかしがって、真っ赤になっている、明日の城之内を想像して、くすりと一人笑う。 目が覚めた時、海馬の側で素っ裸で寝ていたのだと、気づいた城之内は、怒るだろうか。 数時間後にまっている 賑やかな朝を描いて、 海馬も、心地いい眠りへと 落ちていった。 ずっと、この幸せが続いていくと、信じて……… おしまい 拍手を移動してきました。 海馬も城之内も別人ど120%デス。 |