ななし


 「お〜い、帰らへんのか?」
教室のドアの向こうで先輩が俺を呼んでいる。
「あっ、帰る帰る、ちょっと待っててや、先輩。」
俺は慌てて、教科書をカバンに詰め込んだ。


「先輩〜今日はどこ行くの?」
昇降口で靴を履き替えながら、俺は先輩に聞いた。
「先輩って言うなよ。」
「ははっ。しゃーないやんか、口が覚えてんねんて。」


俺の隣にいるのは、一つ年上の同級生。
去年までは同じ野球部の先輩だった。でも、試合中にあっけなく肩を壊して、野球が出来なくなったんだ。小学生の頃から、エースをはってきたプライドが邪魔をして、登校拒否になって結局出席日数が足りなくて、留年・・・ダブリ・・・になったらしい。


先輩曰く、
『あほやから、ちょうどええわ。』
と言い訳しているけど、俺は本当の理由を知っている。
大好きな野球を続けている仲間を見ていたくなかったんだ。
だから、放課後は絶対に校庭には行かない。

俺は先輩が投げている姿を見たくて、野球部に入ったくちだったから、先輩のいない部には何の未練もないわけで、先輩が部をやめたのに合わせて、野球をやめた。
当時は丸坊主だった頭も、今は髪の毛が風に吹かれるくらいに伸びた。ついでに色も入れてみた。先輩には不評だけど、俺は結構気に入ってる。


「なぁ、腹減らんか?」
ポケットの中の携帯を弄りながら先輩が聞いてきた。
「減ってる減ってる、なんか食べよう。」
健康な高校生だから、昼ごはんはもう消化されていて夕飯まで持ちそうにない。
「駅前のたこ焼きやさんに行こうか?」
「ええよ。」

高校から、駅まで道のりは俺と先輩だけの世界だ。
先生の悪口とか、テレビの話とか、取り留めのない会話を垂れ流しにしているだけだったけど。


でも、俺はそれで良かった。
先輩の綺麗な顔が間近に見れるから。
真っ黒なさらさらした髪も、日に焼けなくなったせいで少し白くなった肌も、少しだけ淋しそうに笑うのも、今は俺だけが知っている。
こうして、先輩の隣にいれればそれだけで良かった。


「何、見てんの、気色わるい。」
俺がじっと見ているのに、気が付いた先輩がふいにこっちを向いた。
綺麗な先輩の顔が近くにあって・・・・俺の心臓がどきどきしてくる。
やばい。まじでやばい。
「えっ・・・・あの・・・その・・・鼻毛出てるで。」
俺はとっさに言い訳した。
「!!!!!」
まじかよって、先輩が慌てて手鏡と取り出した。
「どこやっ」
顔を赤らめて鏡を見てる先輩は、可愛い。
「うっそ。」
俺はげらげらと大げさに笑った。
「この野郎っ〜」
先輩が俺の頭をはたく。
思ったより先輩の力は強くてちょこっと涙が出たけど、よかった誤魔化せたみたいだ。


「たこ焼き、おごれよな。」
少し怒った先輩が早足になった。
「怒らんといてくださいよ〜」
俺も慌てて足を速めた。


いつもと変わらない帰り道。


「はい、先輩どうぞ。」
俺は先輩に、鰹節と青海苔が踊っているたこ焼きを手渡した。
「サンキューな。」
俺におごらせたことで、機嫌の直った先輩が楊枝いに刺したたこ焼きをはふはふと頬張る。
「やっぱ、ここのたこ焼きが一番やな。」
唇にマヨネーズがくっついている。
「俺はお好み焼きのほうが好きやわ。」
「そうか?」
「うん。」
俺も、お好み焼きを食べる。
「先輩も一口食べる?」
うんうんと、先輩が頷いた。
俺は割り箸で一口大に取り分けると、先輩の口にお好み焼きを運んだ。
先輩の口の中に納まる、俺のお好み焼き。


その光景は俺の頭にダイレクトに焼きついた。
やばい、やばいよ。
今晩のおかずにしてしまいそう・・・・・だ。


「たこ焼き、やろうか?」
「えっ、いいの?」
俺の頭にさっきと逆の光景が浮かぶ。
「ええよ。」
先輩が俺の口にたこ焼きを運んでくれるという淡い期待。
俺の心臓がまた、どきどきしてくる。
先輩が・・・・・あーんって・・・・


「ほら。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
先輩が爪楊枝を一本渡してくれた。


がくっ・・・・んなことないか・・・・
俺は少し肩を落として、楊枝を受け取った。


もちろん、そのときに少しだけ触れた指先に、俺の心臓はもう一回どきどきしたけど。


先輩の好きなたこ焼きは、美味しかった。
次は、これを食べてみよう。







 少し前に書いたBLものをアップしました。ここは遊戯王サイト。果たして読んでくれた人はいるのだろうか・・・不安だ。
 このSSは『GREEN FILM 慧』さまが消化中の100Qのイラスト「方言」に悶えて、脳内の妄想をこっそり、送りつけた一物です。何回もでしつこいですが、ほんとにここの管理人さんの描かれる絵が好きなんです〜☆あっ、ここにはありませんが、慧さまのところには上のSSのイラストまで付けていただきました。とっっっても素敵なブツですので、ぜひ覗いてみてくださいね。へっぽこな話なんてすっ飛んでしまいますよ〜
こっそりと、この後の二人はどうなったのか妄想が膨らみつつあります。先輩と後輩、どっちが受けになるんだろうな〜いつか続きを書いてみたいと野望をこっそりといだいていたり・・・
素材はこちらからお借りしました〜