J デュエルの世界に一人の戦士が現れた。 名前を『J』という。 世界中を繋ぐネットの世界に突如現れた負けることのない、最強のデュエリスト。 本名。 性別。 年齢。 国籍。 誰一人として、『J』の正体を知るものはいない。 ただ、どこからとも無く現れる戦士のデュエルに、人々の目は釘付けになっていった。 『J』は誰なのか? 世界中のデュエリストの間で話題にならない日は無いくらい、人々は『J』を探し夢中になっていった。 デマや憶測が飛び交い、偽者の写真や似顔絵まで出回るほどの潔いその戦いは注目されていた。 交わされる最低限の会話から性別や年齢をさぐることはできず、ただ、負けることのない戦いに人々は憧れ羨望の眼差しでデュエルを観戦することしか出来なかった。 そして、巷を騒がすようになった『J』の存在はデュエル界でトップの座にいる、あの男の耳にも入るようになっていった。 ***** 「ねぇ、兄さま。『J』ってしってる?」 食後のケーキをつつきながら、モクバは隣でコーヒーを口にしている兄に好奇心を隠すことなく、聞いてみる。 「あぁ、僕は『ジェイ』って読んでいるけど、本当は読み方さえ分からないんだよ。『ジャック』とか『ジョーカー』って呼んでいる人もいるけど、オレは『ジェイ』さ。」 フォークが皿に当たり小さな音を響かせた。 「………『J』…くだらんな。」 カップを持つ手がぴくりと動き、海馬の眉間に皺がよる。 知らないも何も無い。 ネットの世界だけに現れる、最強のデュエリスト。 その見事な戦いぶりに、最近では武藤遊戯や海馬瀬人よりも強いかもしれないと噂されるようになっているのだ。 「兄さまらしいや。」 あまりにも兄らしい返事にモクバは年不相応な苦笑いをすると、ケーキを口の中に放りこむ。 「ネットの中にしか姿を現せない、無様な人間だ。いくら強くとも所詮は仮想空間。生身の人間が対峙する本物のデュエルを制さなければ最強とはいえない。」 デュエルの大会は大なり小なり、世界各地で行われている。大きなものは置いておいて町内会レベルならばほぼ毎週のように行われていた。大抵のものはそれぞれのレベルに合わせて、現実の世界に顔を出すものだった。 が、『J』は違う。 『J』は全く表の世界に顔を出すことは無い。 表に出てこないからこその、神がかり的な存在として、仮想空間に存在しているようだった。 海馬は一向に正体をあらわそうとしない『J』などに興味などわくことはない。 「兄さまが作ったシステムなのに?このシステムのおかげで、海馬コーポレーションは潤っているのに?」 モクバは不思議そうに首を傾げてみせる。 現在、インターネットを通じて24時間行われているデュエルシステムは、海馬が考案し海馬コーポレーションで一括管理をしている。このシステムを開発したのは海馬だ。世界中の人々が垣根を越えてデュエル出来るようにと言っていたのは兄のはずだった。 それを考案した本人が否定するようなことを言って良いのだろうか? 「勘違いするな。モクバ。ネットの世界が駄目なのではない。ただ、仮名を使い素性を一切明かさずに、デュエルだけをしていることが許せないのだ。」 海馬はそう言うと、苦く感じるようになってしまったコーヒーを飲むことをやめた。 「ふうん…」 ほぼ、予想通りの兄の答えにモクバは頷くと、でも気になるでしょう?気に入らないのならデュエルで負かしてみれば?と続けた。 よほどのことが無い限り、ネットの世界でデュエルをすることのなかった海馬は、一つ唸るとそのまま考え込む。 「………。」 そして、考えが固まったようにモクバを一瞥し、自室へと戻っていった。 もちろん、『J』とデュエルをするために…… 忘れられない出会いになるとも知らず、海馬はパソコンを開く。 ***** 小さな起動音の唸りと共にパソコンの画面が立ち上がると海馬は早速『J』がいるという世界へ足を踏み入れる。 『J』を探すのは意外なほど簡単で、すぐに見つけることが出来た。 早速デュエルを申し込むと、これまた簡単にOKされて、海馬と『J』の初対決が始まった。 結果は……『J』の勝ち。 まさか…… パソコンの画面に見入る海馬は、今、起きていることが信じられなかった。 僅かな差だったとはいえ、『J』の勝利は変わることはない。 そして、海馬瀬人が負けたという情報は世界を駆け巡った。 はぁ……やってしまいました。日記に書いていた通り、別のが始まります。 濡れ場は合間にぼちぼち進めますね。 ちなみにこのお話は余り長いものではないと思われます。(本当かな……?) で、オフには向かないという判断で、こちらに上げていきます。よろしくお付き合いください。 背景はこちらでお借りしました。 LOSTPIA |