大会まであと二日。 慌ただしく仕事に追われている海馬の元に一本の電話が入る。 ディスプレイに浮かび上がるのは城之内の名前だった。 『かいば………さん……おにいちゃんが…………』 電話をとった海馬は病室まで走った。 仕事を全部放りだして城之内の元へ。 電話を掛けてきたのは城之内ではなく、静香からだ。 そして、電話の向こうから聞こえてくる震える声に手足が冷たくなっていくのを鮮明に感じた。 「城之内っ、、、、、ぃ!!」 病室に飛び込んだ海馬の目に映ったのは ガラスの壁に阻まれながらも、見守る家族の姿と その向こうベッドに横たわる城之内。 距離がある海馬から見ても分かるほど城之内の息が荒く胸が大きく上下を繰り返している。 真っ青な顔色とたくさんの点滴のチューブが痛々しい。城之内の周りでは防護服に身を固めた医者と看護士が処置をしていて、張りつめた表情に城之内の容態の悪さを悟る。 「城之内っ!!!」 海馬はガラスを握りしめた拳で叩いた。何度も、何度も。 強化ガラスは海馬の力で割れることはない。 そして、枯れてしまうくらいの大声で城之内を呼んだ。そこには社長のメンツなど有りはしなかった。 「城之内っ!! 明後日には大会があるんだっ!! 寝ている場合ではないだろうがっ!!! 起きろっ!!! 起きるんだ!!!」 ガラスを叩き大きな声で城之内に呼びかけるが意識のない城之内に海馬の声は聞こえない。 「城之内っ!!!」 「海馬さんっ、もう、やめてっ!!」 静香が海馬の腕にしがみつく。 「おにいちゃんが、悲しむよ……っ……」 海馬は泣いていた。 静香に止められて、初めて海馬は泣いていることに気づいた。 城之内と出会ってから、ずっと感じていた、覚悟していた事。 死。 デュエルをしていても話をしていても、電話をしているときも、会えない時でさえ、 死 をどこかで意識していた。 城之内が笑っている時でさえ、いつ容態が悪くなってしまうか心配だった。 城之内が元気に振る舞えば振る舞う程、その先にある暗い影が見えてしまいそうだった。 今、ココにある小さな幸せさえ、脆くはかないく、壊れやすいものだと 本能が悟っていた。 だからこそ、見ないよう、考えないよう、気がつかないようにしてきた。 今、目の前に突きつけられた現実に海馬は為す術もなく、立ちつくす。 「じょうのうちっ!!!!!!」 恥も外聞もなく海馬は叫ぶ。 その必死の叫びが聞こえたのか、城之内のまぶたがゆっくりと開いていった。 「 か い ば 」 高熱で痛む体にあるだけの力を振り絞り、城之内がこちらを向く。 潤んだ琥珀が真っ直ぐに海馬を捉えた。 「………………ごめん………」 大会 出れなくなった。 ごめんな。 苦しい呼吸の下、城之内の唇が動く。 情けないな。 肝心なときに駄目になるんだから。 城之内が目を細めると、涙が一筋零れ落ちる。 ****** 7月7日 「悪り……いろいろやってもらったのによ……」 スピーカー越しに城之内の掠れた声が聞こえてきた。 「ばか者が。健康管理は十分ではなかったのか?」 海馬は手元にある二つのデッキ。 「せっかく、楽しみにしてたのによ〜。ここで留守番なんてつまんないぜ。」 「……だな。だがその身体では仕方が無い。次の大会に出ればいいことだ。今回は諦めてそこで大人しくしていろ。」 「ちぇっ。」 城之内は大げさに舌打ちをする。 奇跡的に命を取り留めた城之内。しかし、ベッドから起き上がることは出来なかった。こうして軽口を叩いているけど、点滴が繋がっている腕はいっそう細くなり、顔色も戻っていない。 まだ熱のある身体でこうして会話をすることでさえ辛いはずだった。 誰も居ない一人きりの空間で、淋しいはずなのに城之内は笑っている。 気を抜くと涙が出てしまいそうなのは海馬のほうで、ぐっと歯を食いしばる。 「変わりに俺が大会に出るのだ。城之内のデッキと共にな。」 海馬側のテーブルにある二つのデッキ。 大会用に組み上げた、海馬と城之内のデッキだった。 海馬は二つのデッキを合わせる。 「城之内、何回だ?」 「7回でいいぜ。」 7月7日だからな。と、城之内は鼻を擦る。 海馬の手の中にあるカードの束を静かに7回シャッフルする。そして、ソレを二つに再び分けた。 「これで城之内と共に戦えるな。」 海馬はカードを手にすると、城之内に見えるようにする。 「ははっ。やってることはむちゃくちゃだけど、なんだか、一緒に戦ってる感じだ。 頑張れよ。 応援してるから。」 海馬の手にあるデッキは二人の魂がこもったデッキになった。 そこには海馬にも城之内にも分からない未知のデュエルが広がっている。 きっと、海馬のように強引で力強く、城之内のようにしなやかで折れないものが出来上がっているはずだ。 もしはしたら、むちゃくちゃで手に負えない暴れ馬のようなデッキになっているかもしれない。 だけど、海馬なら使いこなせるはずだ。 城之内の想いのこもったものなのだから。 そして、海馬が優勝したら……… 「あ〜ぁ、親父たちを温泉旅行に連れてってやれないな…残念。」 城之内は見慣れた天井を追いかける。 優勝したら、 海馬に って 言えないな…… 「旅行のことは気にするな。俺が優勝すればいいことではないか。」 「へっ?」 目を丸くする城之内に海馬はカードをもう一度見えるように掲げる。 「このデッキで俺は戦ってくるのだ。半分は城之内のものだぞ。だから、大丈夫なのだ。」 「へぇ……イマイチ、強引だけど、ありがたく受け取っておくぜ。」 海馬の論理に首をひねりつつも、大会を楽しみにしていた城之内を想うことが伝わってきて、素直に海馬の言葉を受け取った。 「それから、もし、俺が優勝したら、 城之内に聞いてほしいことがあるのだ。」 「はっ?」 「前に言っていたではないか。俺に何か言いたいことがあるのだろ? 半分は俺のカードだからな、優勝した暁には俺にも権利があるだろう?」 「まじですか……」 城之内が言わんとしていることを見透かされているようで、ふん、と、鼻をならす海馬のいたずらっこのような顔に、城之内は汗が噴出してきた。 こいつには勝てそうに無いぜ。 病気より怖いかもな……。 その時、海馬の携帯が鳴る。会場にいるモクバからだ。 「頑張って来いよ。 絶対に優勝だぜっ!!!」 城之内は拳を上げる。 「ああ。もちろんだ。」 海馬はデッキをしまうと、城之内と同じように手を握った。 ************** ありがとう。 海馬。 俺、海馬に出会えてうれしいぜ。 本当の本当さ。 ありがとう。 大会は海馬の宣言通り、優勝と言う形で幕をとじた。 病室でその戦いの一部始終を見ていた城之内の頬を止まらない涙が伝っている。 「海馬……」 ああ、 きっと海馬は ここに向かってきてるんだろう。 走って息を切らせて、ここにとびこんで来るはずだ。 ほら、足音が聞こえてきた。 もう、すぐそこまで来てる。 海馬、大好きだぜ。 七夕の神様 ありがとう おしまい。 これで、終わりです。 終わりです。 当初はこれ、城之内くん、お亡くなりにするつもりだったんです。 何回も、一度くらいシニネタでも良いじゃないかと、自分を励ましつつも、やはり駄目でした。 まあ。 これもち中途半端ですがね(苦笑)でも、こんな終わり方も好きです。 このあと、二人がどうなるのか、 城之内は元気になるのかは、皆様のご想像にお任せします。 背景はこちらでお借りしました。 LOSTPIA |