『J』6





『ケーキやさんになれますように。』

『サッカー選手になれますように。』

『妹がほしいです。』

『野球が上手になれますように。』

『お花屋さんになれますように。』



 短冊に願い事を一つかいて笹につるして、空の上の神様に願い事をしましょう。





 ここから出たい。

 病気が治りますように。





 サンタさんにも七夕様にも、初日の出の太陽にも、神様にも仏様にも

 たくさん願い事をした。

 何年も何度も……

 叶うことは無かったけれど。








「願い事はこれでいいのか?」

 消灯後、こっそりと病室を訪れた海馬が城之内に確認している。
 昼間、城之内がエントリーした内容の余りにもの欲の無さに心配になったのだ。
「いいんだ。
 俺さ、今まで家族にしてもらってばっかで、何もプレゼントしたことないからさ。
 少しでも親孝行したいなって……な。」

 城之内が生まれてから両親に苦労ばかりかけてきたから、たまにはゆっくりと骨休みして欲しいと城之内は願い事を書く。

「そうか。ならば、チケットは4人分用意しておこう。」

「4人?」

「そうだ。城之内の分も入っている。退院祝いも兼ねて豪華な旅行を俺からプレゼントするぞ。」

「えっ〜っ  いいって。3人分で。ここからいつ出られるなんて分からないんだからさ。」
 この病気が簡単に治るものではないと一番良く理解しているのは、城之内だ。
 原因も治療法も分からない、
 難病なのだから。

「大丈夫。俺が必ず治す。約束するから。城之内も諦めるな。」


 多少、言動に強引なところはあるけど、海馬なりに城之内を励ましていた。
 城之内にない強さと、自信に満ち溢れた海馬。


 仕事を終えたからだろう、Yシャツの襟は弛められて開いたところから健康そうな胸元が覗いている。
 まくった袖から伸びる腕には程よく筋肉が付いていて、切りそろえられた指先が魔法を唱えるように動いている。
 部屋の照明は落しているから、陰影が濃く長いまつげが強調されていた。
 そして、その下にある深い瞳。快晴のチリ一つない澄んだ青であり、瞬く星を抱えた宙の蒼でもあった。
 青い深い眼差しが城之内を捉えて離さない。

 

 やばい……
 海馬の顔を見れない。




「どうしたんだ?体調が悪いのか?」




 どきんっ



「い、、、いやっ!!!元気だぜっ!!!めっちゃ調子はいい!!」



 心臓がバクバクしてる。



「顔が赤いぞ。熱があるんじゃないのか?」
 海馬はガラスに顔を近づけて真っ赤になっている城之内を覗き込んだ。



 ああっ。
 駄目だ。海馬。
 見るなっ!!
 恥ずかしいじゃないかっ!!



「心配性だなぁ。大丈夫だって!!!
 あっ!!それより、時間はあるんだろ?デュエルしようぜ。大会用にデッキを組みなおしたんだ。」
 城之内は話を逸らす。

「いいだろう。ちょうど俺も手直しをしたところだ。」
 海馬は鞄の中から、カードの束を取り出す。城之内も合わせてベッドサイドの引き出しからデッキを持ってきて、もとの位置に座りなおす。

「んじゃ、デュエル開始な。何回切ればいい?」
「5回で。」
 城之内は手の中にあるカードの束を海馬が言った回数だけシャッフルした。
「俺は13回だ。」
 海馬もまた同じようにした。




***********





「じゃな。海馬。気をつけて帰れよ。」
「ああ。デュエルに熱が入ってしまったから、城之内もゆっくり休め。また明日な。」
 あれから何度もデュエルをして時間が経つのを忘れてしまっていた。気が付けば日付が変わろうとしている。
「ごめんな。海馬も疲れてるのに、つき合わせちまってさ…」
 カードを纏めながら、城之内は謝る。
「俺のことなら心配するな。そんな軟にはできていないからな。
 反対に、城之内と共に居る事で力が出てくるんだ。」
 海馬は真っ直ぐに城之内を見つめる。
「お世辞でもうれしいぜ。
 俺も、海馬に出会えてから元気になってるような感じがするんだ。
 ありがとう。海馬。」

 城之内は太陽のように笑う。
 海馬の心を離さない笑顔で。




「おやすみ。」

「おやすみ。」 



 
 そう言って二人は別れる。






*******







 いつものように海馬が居なくなり、一人病室に残された城之内はベッドに向かった。
 海馬には疲れていないと言ったけれど、横になるとどっと疲労感が襲い掛かってくる。



「なさけねぇな……」


 自分の体力の無さに呆れて城之内は瞳を閉じた。



 瞼を閉じると、海馬の姿が鮮明に浮かんでくる。

 カードを手繰る指先や、心地よく響く声にちょっとした仕草まで鮮明に思い出されてきて、城之内の喉の奥がくんと熱くなった。








「海馬………好き……」




 誰にも聞かれることのない告白。
 決して叶うことのない、城之内の想い。
 
 誰にも気づかれてはいけない、秘めた想い。

 城之内は心に蓋をした。


 叶わない、叶ってはいけない想いだからこそ、せめて海馬の「友人」で居るために。













 もし、神様がいるのならどうか城之内の願いをかなえて下さい。















 
 ななです。
 毎度のことですが、城之内も海馬も、別人を200%!!!
 でも、そんな彼らが大好きだ☆
 
 BLふううううう海城さんにもうすこしお付き合いください。
 
 背景はこちらでお借りしました。
 LOSTPIA