大会まで一週間をきり海馬の時間は慌ただしく過ぎていくが、城之内には平穏な時間が流れていた。 もう一人の大切な友人の遊戯と、対海馬用のデッキを構築してみたり、遊戯が家から持ってくる新しいゲームを楽しんだりと、変わらない時を過ごす。 だからなのだろうか、海馬への想いが日ごとに膨らんでいき、もう、押しとどめることが出来ない位になってしまっていた。 直接会えない日がもう3日ほど経っている。さっき海馬からこれから見舞いに来ると連絡があり、城之内は病室の扉が開くのを待っていた。 海馬が好き。 そう自覚してからその思いは膨らむばかりで、せき止めることが出来ない。 しかし、治る見込みの無い身体ではこの想いを伝えることは出来なかった。ここへ足を運ぶだけでも、社長業をしている海馬には負担になっているはずだ。 友達としていられるだけで十分だと、城之内は何度も自分に言い聞かす。 何も無かった城之内の人生に初めて出来た友。 それでいい。 海馬の友で入れればそれでいいんだ。 城之内は想いを振り切るようにカードを手にしたとき、扉が静かに開いた。 「ぅわっ!」 思わずカードを落してしまいそうになった。 「何を驚いているのだ。さっき電話したではないか。」 慌てている城之内に顔を綻ばせて、海馬は椅子に座る。 「だって行き成り入ってくるんだぜ?誰だって驚くだろう。」 城之内は顔が赤くなるのを隠すために、コップの水を一口飲んで心を落ち着かせた。 「驚かせて悪かった。次から気をつける。」 「えっ、いいって。そんな意味で言ったんじゃないからさ。」 いつもより素直な海馬に城之内は戸惑う。 「それより、仕事は平気なのかよ。」 「少し時間が取れたからな。最近城之内の顔を直接見てなかったから、どうしても来たかったのだ。」 海馬の青が真っ直ぐに城之内を捉える。 「………っ…」 海馬の真摯な青に城之内の心がぐらぐらと揺れた。 言ってはいけないことだと、心の奥にしまった想いが溢れてきてしまいそうだ。 城之内の心臓が早鐘を打つ。 海馬が好きだ。 言ってしまいた。この想いを伝えたい。 言えない。 この不完全な身体で、伝えたところでどうにもならないんだ。 海馬に迷惑をかけてしまうから。 本当の気持ちを言ったところで、願いが叶うわけでもない。 それどころが、友を失ってしまうかもしれない。 城之内は拳を握りしめる。 「どうした、調子が悪いのか?」 俯いてしまった城之内を海馬は覗き込んできた。 「ううん。平気。元気だぜ。」 海馬に余計な心配をかけるわけにはいかない。城之内は大げさに笑顔を作る。 「なら、いいんだ。もうすぐ大会が近いから、十分身体を休めておくんだ。当日に熱でもでたら大変だからな。」 「ああ。分かってるって。大丈夫、体調管理はしてるからさ。」 海馬の気遣う声が心地よく響く。 「それとこれは俺からのプレゼントだ。大会のときに着るといい。」 海馬は紙袋の中から洋服を取り出した。 「ええっ!いいのかよ。」 「ああ。まさか、大会にパジャマで出るわけにもいかんだろう?せっかくの晴れ舞台だ。城之内に似合いそうなのを選んだんだ。」 ガラス越しに洋服を広げてみせる。 「マジでうれしいぜ。ありがたく貰っておくよ。」 城之内は満面の笑みでシャツに手を伸ばした。もちろん直接触れることは出来ない。 「看護婦に渡しておくから、あとで受け取っておくといい。」 「そうする。ありがとうな。海馬。」 海馬のさりげない気遣いに鼻が熱くなる。 城之内は鼻を指で擦ると、壁にかけられたカレンダーを見る。カレンダーの7のところには赤丸が書いてあった。城之内が楽しみにしている、デュエル大会の日。 優勝者の願いを一つ叶えられる、七夕デュエル大会。 願い事を一つ。 賭けてみよう。 もし、大会で優勝したら、海馬にこの想いを伝える。 七夕の神様 優勝したら、海馬に告白する 勇気を俺に下さい。 城之内は会社に戻るために席をたった海馬を呼び止めた。 「………海馬……。」 「??」 「あのな……俺が、大会で優勝したら………聞いてほしいことがあるんだ……」 「なんだ、改まって。大会まで待たなくてもいいぞ。今言えばいい。」 城之内の真剣な表情に海馬も緊張する。 「ううん。大会が終わってからでいいんだ。大会が終わったらで。」 城之内は両手を振り、海馬を送り出す。 「仕事頑張れよ。」 扉がゆっくりと閉まるまで城之内は手を振った。 「うわぁ、何がなんでも優勝しないとな。」 優勝したら…… 海馬に伝えよう。 きゅうです。 オフの原稿がどうしようもないほどいきずまったので、こちらを書いて見ました。 散文で、うなっていますが、別人な二人ににやにやしてしまいました。 BL風。海城ですから。 また、明日から、原稿だ。 背景はこちらでお借りしました。 LOSTPIA |