その日。


 赤・青・ピンク・黄色
 たくさんの色が店先を彩っている。
 心なしか今日は赤い色が多いようだ。それにいつもより客が多いのかもしれない。
 小学生くらいの子供や、学生くらいの女の子が立ち止まって、たくさんの花を見ている。
 その中を掻き分けるように、一人の少年がバケツに入った一つを指差した。

 「これ…」
 「はい、150円ね。」
 店主はお金を受け取ると、1輪の花を少年に渡した。ピンクのリボンを結んだ赤い花。
 「兄ちゃんも偉いねえ。おかあちゃんが喜ぶよ。」
 「………」
 ほくほく顔の店主とは対象的な暗い顔をした少年はそれを受け取ると雑踏に紛れていった。
 
 赤い花を手に少年は街を歩く。
 なんで、こんな物を買ってしまったのだろう……
 受け取る人もいないのに……

 ふと周りを見ると、花束やプレゼントを抱えて嬉しそうに道を行く人が、たくさんいる。
 日ごろの感謝の想いを込めた品の数々。形は違えども気持は同じなのだろうか?
 『ありがとう。』
 と。

 馬鹿馬鹿しい……
 少年は買ったばかりの花をゴミ箱に捨てた。
 

 少年は歩く。
 流れる街並みは見えているけれど、それは現実感のないスクリーンに映る映像のようだ。
 人々の笑い声も、笑顔も、花の香りの全てをむちゃくちゃに壊してしまいたい。
 腹のそこから湧き上がる、どす黒い衝動をこらえて、少年は歩いた。
 今の俺は醜い顔をしているんだろうな。と、少年は思いながら、今日だけは連れの蛭谷には会わないでいようと、家に帰ることにする。

 少年を待つものなど、誰もいない家に。

 

 家に着くと予想通り誰もいなかった。
 ごみの間を器用に抜けて、自分の部屋にたどり着くと敷きっぱなしの布団に、ごろんと寝転んだ。
 見慣れた天井を眺めていると、何故か赤い花を思い出した。
 

 ごみの中に捨てられた赤い花。
 母に捨てられた、俺。
 そして、最初の疑問にたどり着く。

 どうして赤い花を手にしたんだろう…?
 
 花…捨てなきゃ良かったな…

 少年はまだ明るい窓際に目をやりぼんやりと思う。
 外からは団地に住む子供たちの笑い声や、母親らしき女性の声が聞こえてくる。
 少年は音を遮断すべく目を閉じる。
 

 ここに飾ればよかったかも……な。


 『おかあさん……あ……り…』

 少年の何かが街角のゴミ箱の中から聞こえてきた。
 

 



 はい。
 遅ればせながら、母の日のSSです。今は何曜日やねん。との突っ込みはなしにしてください。
 なんとなく、中学生の城之内を想像しながら書いてみました。
 相変わらずというか、どうしてこんな暗い話ししか思いつかないのやら。普段はおばかなのに。
 きっと、城之内の陽気なとろこに影を感じてしまうのではないでしょうか?(腐ってますから・・・)