嘘と真実




 気だるい午後のファミレス。あわただしいランチタイムも過ぎ、店内の客はまばらだ。

 電子音とマニュアル通りのウェイトレスのいらっしゃいませ。の声が機械的に響く。

 自動ドアを抜けて姿を現したのは、まだあどけない少女。
 およそ中学生、高く見積もっても高校生だろう、少女は濃い目のメイクに夏らしい肌の露出度の高い衣装に身を包んでいた。薄いキャミソールや、サンダル、カバンから小物にいたるまで全身をブランド物で固めたその姿は到底、年齢と不釣合いな姿だ。

 「しず〜こっち、こっち。」
 先に到着していた同じような格好をした少女が手招きをしている。
 軽く手をあげて、”しず”と呼ばれた少女は席に着いた。
 「ねぇ、しばらく見なかったけど、どこに雲隠れしてたの〜?てっきり拉致られたか、鑑別所にでも行ったのかと思ってたし〜」
 先に注文していた、クリームソーダをかき回しながら抑揚のない声で聞く。
 「別に。ちょっと入院してただけ。」
 「ええっ〜入院って、どっか悪かったっけ?」
 少し驚いたように少女は、向かいに座る”しず”をまじまじと見つめる。
 健康そのものの姿からは、入院するような病気も怪我も思い浮かばない。
 「全然。悪いとこなんてないよ。」
 「はぁ?」
 含み笑いを浮かべる、”しず”は何を考えているのか。悪くないのに入院なんてありえない。少女の疑問は消えないが、それよりも目の前にいる”しず”の姿に興味が行った。
 「なんか見ないうちに羽振りが良くなってない?」
 いやらしいくらい、ブランドで身を固めているのがしゃくにさわる。全てをそろえるだけで一体いくらになるだろう。
 「……まぁね。」
 ”しず”はくすりと笑う。
 「良いぱぱでも捕まえたんだ。」
 ずずっと音をたてて、ソーダを飲む。
 このご時勢年齢が低ければ低いほど商品価値が高い。『こずかい』を稼ぐにはてっとり早いバイトは売春だ。ネットでも、携帯でも出会いには事欠かない。きっと”しず”は良いおじさんを捕まえたのだと、少女は思った。
 「…おにいちゃん……かな。」
 ”しず”は注文したオレンジジュースを一口飲んだ。
 妙に余裕のある態度に少し腹がたった。
 「なにそれ?うわっぁ〜なんかムカツクかも。かくさないで教えなさいよ〜」
 ジュースの中の氷がカランとなる。
 ”しず”の新しい金づるが誰か知りたくて、少女は身を乗り出した。
 少女の欲を浮かべた表情がこっけいで面白い。”しず”はもう一口ジュースを飲むと、優越感を露わにして口を開いた。
 「遠くにいるお兄ちゃんに”助けて”ってビデオを送ったら、すぐ、お金を送金してくれたんだ。」
 「それ……まじ?」
 「うん。お母さんが働く病院でね、パジャマを着てさ、こう可愛らしく『もうすぐ目が見えなくなっちゃうんだ。最後にお兄ちゃんの顔が見たかった…』って半泣きでビデオを撮って、お兄ちゃんに送ったの。」
 ”しず”はその時のことを再現するように、両手を胸で合わせる。
 「なにそれ。しずにアニキなんかいたっけ?」
 ”しず”の現実離れした話に、少女は呆れた。
 「いるよ。前に住んでたドミノ町ってとこに。」
 「どこそれ?」
 「遠くの小さな町…くだらない街。」
 「へぇ…で、いくらもらえたの?」
 「内緒。教えてあげない。」
 ”しず”ははぐらかすようにジュースを飲む。
 「ずっる〜い。」
 ふふふ、と”しず”は笑う。少女をお兄ちゃんを…全てを馬鹿にするように。
 「だから、入院してたんだ。」
 正確には入院していた振りをした。
 「疲れるんだよね。病人のまねはさ。」
 栗色の髪を弄る。
 「ふうん。でもさ、お兄ちゃんがちょっとかわいそうかも〜。病気のはずの妹が、実は元気なんですよ。なんて、お笑いだよね。」
 ようやく、入院と羽振りのよさが繋がって少女の機嫌がよくなった。
 「ははっ。だまされるほうが、馬鹿なのよ。」
 「きっつ〜。こんなのが妹じゃ、お兄ちゃんに同情しちゃうよ。」
 見知らぬお兄ちゃんをからかった。
 「か弱い妹も大変なんだよ。つい、地が出そうになるんだから。」
 この前も見舞いに来て慌てたんだと、”しず”は説明した。
 「笑える。変な兄妹……ねぇ、まだおこずかい残ってるんでしょ。おごりなさいよ。」
 「いいよ。」
 「すごっい☆しずと友達でよかったかも☆」
 少女の頭はもう、ショッピングに夢中になっていた。お兄ちゃんのことなど頭の片隅にも無い。


 ありがとうございました。
 誰かがファミレスを出て行く。
 
 おしゃべりに夢中になっている、少女たちをガラス越しに見ると一人の少年は街の雑踏に消えていった。

 
 ウェイトレスが少年の座っていた席を片付けている。
 「……あらっ?」
 ちょうど少年が座っていた位置に綺麗にラッピングされてた小さな箱があった。
 「やだ、忘れ物じゃない。」
 ウェイトレスが店内を見渡すが、少年の姿を見つけることは出来なかった。仕方なく飲みかけのコーヒーと忘れ物をおぼんに乗せると、店長に報告すべくテーブルを後にした。
 

 退院おめでとう

 プレゼントにはそう書かれたカードが添えられている。



 だまされる方が馬鹿なのよ。
 ね、お兄ちゃん。

 









もう、お分かりでしょうが、”しず”は静香ちゃんです。飛び切りブラックな静香ちゃん。きふじんの中の静香は何故かこんなイメージです。再放送(特にノア編)を見ていると、静香が猫をかぶっているようにしか見えなかったりして。「こいつ絶対演技だ。」と突っ込みつつ、城之内も分かっているのにだまされている振りをしてたらいいな〜なんて思ってたらこんなんが出来ました。だから、時間的にはバトルシティ編の直前あたりでしょう。
 昨日も上の妄想で再放送を見ていましたよ〜。
 この、ブラック静香ちゃんにはいつか活躍してもらおうっとvv