予兆



 海馬邸で働き出すようになって以来、納まっていた胸の痛みが次第に間隔を短くし、不規則にやってくる痛みが城之内を苦しませていた。
 早朝から働き、深夜まで休むことのない城之内に心臓が軋みを上げて歯車が狂い始めていた。



 胸の痛みに涙を滲ませながら、城之内はその鼓動が止まる瞬間が近いことを本能的に悟っていた。



 でも、まだ死ねない。
 静香がいるから。
 静香が目を覚ますまで死ぬわけには行かない。



 妹の未来を奪ってしまった罪を償うために、城之内は生きていた。


 母の未来を奪ってしまった罰を受け、城之内は痛みを和らげる手段を使うことはしなかった。


 父の苦悩を一身に受けて、


 ただ、そのために悲鳴を上げる身体に鞭打って働いてきた。




 でも、そんな心の奥底に眠る、



 城之内も気が付かない本能がいつ止まってもおかしくない命を動かしていた。







『生きたい。』





と。











「………っふ……」
 長い発作がようやく納まった城之内は、ゆっくりと深呼吸をして、呼吸と整える。
 時計を見れば、もう、海馬の屋敷に行かなければ行けない時間を過ぎてしまっていた。

「…遅刻……だな…」

 汗で張り付いた前髪をかき上げると、城之内は布団から起き上がり家を出る。



 プレゼンの日を翌日に控えて、屋敷にいるモクバの相手を海馬から、頼まれているのだ。



 城之内はリュックを背負い、海馬邸に向かっていった。