短い半被と赤いふんどし

白い捻り鉢巻に腰までの短い祭半被、それに赤いふんどし。
 
 御神輿の担ぎ手はこの格好でなければならない。
 
 ……と鷹人と和彦は、おじいちゃんやお父さんから教えられていた。
 
 別に恥ずかしいと感じたことはない。
 
 この山奥の、二人が小さい頃にはまだ村だったような町では当たり前の行事
だったから。
 
 でも、山が切り開かれて分譲住宅ができて、JRの駅もできて、新しい住民
が増えてくると事情は変わって来た。
 
 神輿を担ぐ小学生の大半は恥ずかしがって体操服、大人もジャージに半纏を
羽織っただけの人が増えた。

「山の神様は女だから、若い男の尻が好きなのになあ」

 おじいちゃんはそう言いながら溜息を漏らす。

「だから、ぼくらはちゃんとふんどし姿じゃないか」

 鷹人は、お尻を突き出すようにして示す。

「お前等じゃ、ちょっと若すぎるよ。せめて5年、15歳ぐらいじゃないとな」

 おじいちゃんは苦笑する

ずっと昔は、若い衆が裸で相撲を奉納したり、柱に白いモノをかけたりした
ものだったが。

 そんなことを想い出したりするが、最後の若い衆が自分であったことを思う
ともう歴史の中に埋もれてしまうような昔のことだと実感する。

 ここに限らず、山の神様は女性だということで風紀的に問題のある祭が多い。

 その殆どは戦後の近代化の流れの中で消滅したり形を変えたりしてきた。

 最後に残ったのが、腰より短くて赤ふんが丸出しになる半被。

 でもこれも着る人が少なくなった。

 鷹人達が最後の世代、いや鷹人達だってあと何年かすれば着なくなってしま
うのかもしれない。 
 
「和彦が悪いんだからな!」

 鷹人はかなり怒っていた。

「ごめん」

 和彦が申し訳なさそうに頭を下げる。

 二人が準備に手間取っている間に御神輿は出発してしまったのだ。

「ごめんじゃねえよ。年に一度のことなんだぞ」

「だから、ごめんって」

 そう言いながら二人は神輿を追いかける。

 子供の足でもゆっくりと進む神輿には追いつける筈だ。

「和彦が悪いんだぞ。何がふんどしは細い方が粋きなんだよだ」

「だって、おじいちゃんがそう言ったんだもん。だったら半分の幅にしようぜ
って言ったのは鷹人じゃないか」

「はみ出すなんて思ってなかったんだよ。あんな格好で外に出たらいい笑い者
だよ。まったく」

「だから僕は18センチを15センチにしようって言ったんだよ。それなのに」どうせ
なら9センチにしようなんて言うから」

「過ぎたことをゴチャゴチャ言うなよ」

「だったら、始めから僕に文句なんか言うなよな」

 角をふたつばかり曲がったところでやっと追いついた。

 
「ふ〜っ、疲れた疲れた」

「今年は担ぐ前に少し走ったからね」

 二人は神輿を担ぎ終えると神社の境内の一角で休んでいた。

 遠くに縁日の賑わいが聞こえるがこの場所には人気が無い。

 境内の隅、目立たない位置、普段から誰も来ない秘密の遊び場だ。

「こんな所に居ないで、屋台に遊びに行こうぜ」

 鷹人は秘密の隠し場所から小さなバッグを取り出した。

 夢中になって落とすと困るからここに隠して置いたのだ。

「待てよ。こんなの持ってるんだ」

 と和彦が取り出したのはセブンスターだった。

「タバコじゃないか」

「お父さんのを1つくすねておいたんだ」

 どうしようかな?

 鷹人は迷った。

 興味はある。でも……

「それじゃ、せーので煙を吸い込むんだぞ」

 迷ってる間にタバコを口に押し込まれる。

 げほげほげほ……
 げほげほげほ……

「うげ〜!」
「うえ〜っ!」

 二人は蒸せ返る。

「な、なんだよこれ」

「こ、ここまでとは思ってなかった」

 げほげほと咳き込んでいると人影が近づいて来た。

「た〜か〜と、か〜ず〜ひ〜こ〜」

「げっ、おじいちゃん!!」

「な、なんでこんなとこに?」

 よりによっておじいちゃんだよ。

 お父さんやお母さんの方がまだマシだった。

 祖父に何度もお仕置を受けている鷹人は恐怖した。

 だが、それは和彦にしても同じだった。

 良くも悪くも自分の孫と区別するような人じゃないってことは知っていた。

 お年玉をくれる代わりに、しっかりお説教やお仕置もされて来たのだから。


「タバコは20歳になってからだって知ってるな」

「し、知ってる……」

「よりによって、祭の日に神社の境内でタバコを吸うとは罰当たりが」

「ご、ごめんなさい」

「キツイお仕置が必要だな。二人とも地面に手を付いてお尻をこっちに向けろ」

 顔を見合わせる二人。

 でも従わないわけにはいかない。

 足を少し曲げて地面に手を付く。

 たったそれだけだが情けない格好だ。


なあ、鷹人。ふんどしって楽だよな。パンツと違ってめくらなくてもお尻を
叩いてもらえるんだもんな」

 祖父は、木の枝でペタペタとお尻を撫でる。

 その度にゾクゾクと体が冷たくなってきて、おしっこが漏れそうになる。

「不公平がないようにちゃんと交互に叩いてやるからな」

 和彦に対しても遠慮というものがない。

「100回ぐらいでイイかな?」

 ひゃ、100回?

 そんなに?

 ビシッ!

「いっかい!」

 ぎゃっ。

「痛てえ、マジで痛いよ〜」

「お仕置が痛くなくってどうする」

 数が数えられる度に悲鳴をあげてしまう。

「ごめんなさい」
「許して」
「もうしません」
「反省してるから」
「頼むからやめて」
「良い子になるから」

小学生のボキャブラリーにあるあらゆる許しを請う言葉が発せられる。

 だが、許してはもらえない。

 ビシッという音が響く毎にお尻には激痛が走る。

「☆△□……」

 最後にはもう言葉にならない言葉で許しを請う。

「ひゃくいっかい」

「おじいちゃん、もう100回超えたよ〜」

「わしは100回ぐらいとしか言ってないぞ」

「そんな〜」


 やっと許してもらった時、鷹人と和彦の顔は涙で、グシャグシャだった。

 お互いのお尻を見ると真っ赤になってミミズ腫れのようになっている。

 風が吹いただけでも痛くてズキズキする。

 ずっと無理な姿勢を続けていたから座り込んで休みたいのだが座ったら跳び
上がってしまいそうだ。

「相変わらず、おじいちゃんってキツイよなあ」

「これじゃ痛くって明日の朝、パンツも履けないよ」

鷹人は、ハッとあることに気がついた。

「なあ、和彦、俺のお尻って目立つ?」

「うん、真っ赤になってるから」

「……こんなお尻丸だしのカッコでどうやって家に帰るんだよ?」

「あ、途中って屋台に来てる人でいっぱいなんだ」

 だからと言って人ゴミが引くまで待ってたら遅くなってしまって怒られる。
 
 そしたらまた、おじいちゃんが嬉しそうにお尻を叩くんだろうな。