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深谷しな子は掃除の時間に見覚えのある顔を見つけると、
前から気になっていた事を尋ねようと思って呼びとめた。
「あの……槍溝さん」
「何〜?」
しな子の声に立ち止まった槍溝愛はゆっくりと振り向くと、吟味するように視線を上下に動かす。
少しぼんやりとした表情は何を考えているのかは良く判らないが、
瞳が物凄く印象的な輝きを宿しているのがしな子が最初に愛に抱いた感想だった。
「えっと……確か、深谷さん……だったかしら?」
「え、ええ……」
愛は無言のまま三秒ほどしな子を見つめた後、静かな、はっきりとした口調で話しかけてきた。
何故言葉を交わすのはほとんど初めてのはずの愛が自分の事を知っているのか、
しな子は少し怖くなったが、気を取りなおして返事をする。
「あの、ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」
「別にいいわよ」
「えと、ここじゃなんだから……こっち来て」
「……ふ〜ん?」
愛はしな子がこの場で話をしようとしない事に怪しむ表情をしたものの、
口には何も出さずに頷いてくれた。
歩く途中愛が何か聞いてきたらどうしよう、と内心心配していたしな子だったが、
愛は背すじを真っすぐのばした綺麗な足取りで、しな子の数歩後ろを黙ってついてくる。
帰って行く生徒達に逆らうように歩いて、しな子が愛を連れてきた先は体育倉庫だった。
中に入り、扉を閉めた所でようやく振りかえって愛の顔を見る。
「ここなら人来ないと思うから……」
「人が来ないって……深谷さん、まさか私を襲うつもり?」
「そ、そうじゃなくって、……あの、榎木君の、お尻……触ってるでしょ?
あれって、いつから始めたの?」
人を食ったような愛のペースに巻きこまれそうになるのを感じたしな子は、いきなり本題に入る事にした。
少なからず想いを寄せている同じクラスの榎木拓也が
廊下で愛にお尻を触られているのを偶然目撃してから、その事が気になって仕方なかったのだ。
「ん〜……」
人差し指を唇に当てて考え込む愛。
その仕種が、なんだか彼女に取っては適当な事のような気がして、しな子は少し苛だってしまう。
しかし返ってきた答えは、そんな苛立ちを吹き飛ばすものだった。
「半年位前かしらね。拓也君にするようになったのは」
「拓也君には……って、他の子にもしてたの?」
「ええ」
驚くしな子をよそに、愛はさも当然と言った風に頷いたが、突然、何かを思い出したように手を打つ。
妙に乾いた、大きな音が倉庫の中に響いて、しな子は思わず首をすくめてしまった。
立て続けに驚かされてすっかり毒気を抜かれた態のしな子に、愛の言葉が追い討ちをかける。
「あ、でも男の子は拓也君が始めてかな」
「……って、まさか」
「?」
「……その、女の子にも……するの?」
「ええ。可愛いと思ったら」
「そ、そうなんだ……」
またも当然のように顔を振った愛にしな子はそれ以上言葉が続かず、頬を赤く染めてうつむいてしまった
その隙に愛は顔を近づけると、いきなり頬に唇を押し当てる。
「たとえば、今だって」
「なっ、なっ、なにを……」
「可愛いと思ったから」
悪びれずに言い、そのまま体重を預けると、しな子はあっけなくバランスを崩して倒れてしまった。
計算ずくなのか、それともただの偶然なのか、
二人が倒れた先にはマットが置いてあって怪我をする事は無かった。
「や、槍溝……さん?」
「大丈夫よ、唇と大事な所はとっておいてあげるから」
あまりの事に訳が判らなくなっているしな子に顔を近づけてそう言うと、
愛はさりげなく体操服の中に手を忍び込ませた。
「わっ、ちょっと待って、……きゃっ」
しな子は慌てて体操服の裾を押さえるが、
愛の手は表情からは想像もつかない速さで服の中に潜りこんでしまい、
すぐに胸を直接触られてしまう。
「お願い、止めて……やだってば………んっ!」
初めて他人に胸を触られる嫌悪感から、しな子は本気で抵抗するが、
愛の指が意識したことも無い胸の頂に触れた瞬間、身体を走った衝撃に思わず動きを止めてしまった。
「…あら? あなた、まだブラしてないの?」
「んっ、だ、だって……お母さんに言うの、恥ずかしいし…」
愛に指先で胸の頂をつつかれながら尋ねられると、
前々から興味があったけれど人には聞けなかった質問だった事もあって、思わず答えてしまう。
「そう……でも、そろそろしないと形が崩れちゃうわよ」
「ぅ……ぁ……そう、なの?」
「ええ」
愛のアドバイスはしな子を納得させるだけの真剣さが含まれていたが、
している事に説得力がまるで無かった。
むず痒い感覚が、愛の触れている部分から胸全体に広がっていく。
愛はお椀の形を作るようにしな子の、まだ乳房とは言いがたい胸を揉む。
「ほっておくとどうしても垂れてきちゃうし、
ブラしないと揺れるから、体育の時間に男子に見られるわよ」
「っふ……ゃ、だ……」
しな子は指を噛んで声が漏れるのをこらえるが、
だんだんそれでは堪えきれなくなって、甘い声が遠慮がちに漏れはじめる。
「感じてるの……? 気持ちいい?」
「わかんない……でも、頭がボーっとして、なんだか、お腹の辺りが熱いの」
クラスの友達が持ってきている本をたまに見せてもらって、
そういう事をすると気持ち良い、というのはなんとなく知っていたが、
自分でそういう本を買った事は無かったし、
興味はあったけれど立ち読みする勇気も無かったので、しな子にその手の知識は無いに等しかった。
「それがね、気持ちいいって事なのよ」
愛は偉そうに語るが、もちろん自分も目の前で同級生の少女が
感じている光景など見るのは始めてだったから、いつのまにか声は上ずり、呼吸は荒くなっている。
「それじゃ、こんなのはどう?」
愛の手が激しさを増しながら執拗に乳首を責める。
自らの指の動きに敏感に反応して身体をくねらせるしな子に興奮したのか、
指先に力が入っていく。
「ん、んん、痛い、槍溝さん、痛い、止めて、ぅ、ぁああーっ!」
少し力が強すぎたのか、しな子は突然悲鳴と嬌声の混じった声をあげると、
ガクン、と身体を大きく揺らして崩れ落ちた。
二人は無言のまま乱れた体操服を元に戻すと倉庫を後にした。
「…ごめんなさい。それじゃ」
目を合わせないまま、愛が普段よりも幾分ちいさい声でそう言うと、
扉の前で立ったままのしな子に声をかけた。
その場を動こうとしないしな子に、愛はそれ以上何も言う事が出来ず立ち去ろうとする。
しな子は顔を伏せて歩き始めた愛の足元をぼんやりと見ていたが、
やがて意を決して呼びとめた。
「あの、槍溝さん、今度の日曜日、あたしの買い物に付き合って…くれる?」
愛は足を止めると、ゆっくりと振り向く。
しな子が思わずどきっとする微笑をたたえながら。
「…買い物〜? 何を〜?」
「…いじわる」
「冗談よ、冗談〜。日曜日ね、いいわよ。
でもせっかくだから、思いっきり凄いの買って榎木君に見せる〜?」
「もう!」
二人は笑いながら、いつしか肩を並べて歩き始めていた。
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