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雛乃の服を脱がせた所で、龍麻はちいさく咳払いをすると、彼女の両肩に手を乗せた。
雛乃はたった今まであわさっていた唇のせいか、ごくわずかに息を荒げながら龍麻の目を見返す。
小首を傾げるその仕種は、視線の先にある人物を信頼しきったもので、
邪な考えを抱いていた龍麻への先制攻撃となった。
内心のひるみを押し殺しながら、龍麻は口を開く。
「あの……さ」
「はい」
「今日は、その……いつもと、少し違うことをしてみたいんだけど……いいかな?」
「違うこと……ですか?」
その方面のことにまるで疎い雛乃は困ったように眉をたわめながら、静かに尋ね返す。
無垢の圧力にますます劣勢を感じた龍麻は、
神の前で懺悔するときはこんな気分なのか、と頭の隅で考えつつ、
喉でつっかえた言葉の塊を無理やり吐き出した。
「うん……これなんだけど」
そう言ってさりげなく手の届く場所に置いてあった、今日のために用意した道具を取り出す。
道具、といってもそれは、悪い虫でもつかなければ、
雛乃などには一生縁が無さそうないかがわしい類のものなどではなく、
何の変哲もない黒い布だった。
不思議そうに布を手に取る雛乃に、上ずろうとする声を抑えながら説明する。
「これでね、雛乃に……目隠しをしたいんだ」
「目隠し……ですか?」
愛を確かめあう時にそれがどういう意味をもたらすのか、雛乃は首を更に少し傾けて考える。
もちろん雛乃に答えなど出せるはずも無かったが、龍麻は黙って返事を待っていた。

こんなことを考えついたのは、もちろん平均よりも旺盛な性への好奇心があったからだが、
それよりも、いつも従順で、
何事に対しても反対するそぶりさえ見せたことのない雛乃への物足りなさに、
いささか幼稚で、意地の悪い興味を覚えたからだった。
「……はい。龍麻さんが、なさりたいのなら」
ところが、雛乃は瞳にわずかな緊張を浮かべつつも、あっさりと頷いた。
怒るか、そうでなくても拒絶はされるだろうと思っていたから、
龍麻は少し拍子抜けしてしまったが、それならそれで良い、と考えなおして雛乃の髪をかきわける。
深みのある黒い髪はまさしく雛乃に相応しいもので、それに触れた時、深い罪悪感を龍麻に与えたが、
それだけに、きれいに揃えられた前髪が目隠しにかかった時、より深い興奮を覚えたのも事実で、
荒くなった呼気が雛乃にかからないよう注意しつつ肩に手をかけた。

雛乃は視界を奪われても一言も発しなかったが、龍麻の手がブラにかかった時、
はじめて小さく身じろぎした。
身体を、見られる──
普段よりもずっと激しい羞恥の気持ちが、心の奥底から泡立ってくる。
細胞のひとつひとつが全ての感覚器を備えたように鋭敏になり、
龍麻がじっと自分の乳房を見ていること、もう片方の乳房に触れようとしていることまでが、
手に取るように伝わってきた。
自分がひどく淫らなことをしようとしている気がして息が苦しくなり、引き結んでいた唇を微かに開く。
それは、蕾が花へと目覚める瞬間だった。

崩れないように、砂山を取っていく遊び──
いかなる穢れも拒むかのように雛乃の全身を覆い、新雪の白さと絹の滑らかさを合わせ持つ肌、
そして、下着を取り去ってもほとんど形を崩すことなく丁寧な曲面を描いている乳房は、
龍麻に子供の頃にした遊びを思い出させていた。
雛乃の体温が残るブラを未練がましく左手に持ちながら、視線はふたつの膨らみから片時も離さない。
ほとんど肌の色と変わらない、咲き始めの梅の色あいを見せる胸の蕾は、
まだ快感の萌芽も見せず、つつましげに頂に乗っている。
いつも、ただ感じる場所だから、というだけで愛撫を加えていた部分が、
まるで異なる表情を持っていることに気付いて、そっと触れてみた。
「あっ……」
ほとんど触れていない弱い愛撫に、雛乃は自分でも驚くほどの大きな声を出してしまった。
語尾がまだ口の周りでたゆたっているうちに、再び撫で上げられる。
「やぁ……っ」
今度はさっきよりも声を抑えることは出来たが、甘い響きが加わってしまい、
意のままにならない身体に、心が溺れ、理性が蝕まれていく恐怖を覚えて子供のように龍麻を求めた。
「龍麻……さん」
「何?」
声がすぐそばで聞こえたことに安心した雛乃は、肩から力を抜いて手探りで龍麻の膝を捉えた。
辿りついた身体を少しずつ上り、何かを探すような動きを見せる。
「あ、あの……怖い、です」
「大丈夫……ここにいるから」
龍麻がそう言って手を握ってやると、本当に怖いのか、ぎゅっと握り返してきて離そうとしない。
その腕を引っ張って雛乃の身体ごと引き寄せた龍麻は、何の前触れもなく耳に触れた。
途端に豊かな髪が揺れ、どこか猫を思わせる仕種で耳を掻こうとする。
「きゃっ……!」
「どうしたの?」
「い、いえ……どこを触られるのか判らないので、少し驚いてしまって……」
龍麻の問いに雛乃は言葉を濁したが、
もう感じはじめてしまっているのは明らかだった。
それを感じ取った龍麻は、反対側の耳に顔を近づけて素早く舐め上げる。
「ひっ……ん……」
両の耳から入ってくるぞくぞくとする愉悦の波に、雛乃はあられもない声で応えてしまう。
くしゅくしゅという音が響き、耳の中に舌が入ってきて、くすぐったくてたまらない。
しかしそれも、舌が去ったあとにわずかに残る湿り気に龍麻の息がかかると、
化学反応を起こしたように気持ち良さに変わってしまうのだ。
そこに突然、胸の先端から新しい快感が割りこんできた。
「くふぅ……っ」 
たまらず喘いでしまい、慌てて人差し指を噛んでも、
そんな努力を嘲笑うように波は次々と押し寄せ、せき止めた指先からこぼれ出そうとする。
「気持ちいいの……?」
「ち、ちが……あっ……」
否定しても、優しく転がされ、軽くひねられると、寒気にも似た何かが全身を走ってしまう。
もっと、強く。
雛乃はそう願っているのをはっきりと自覚した。
それでも、噛んでいる指がまだ理性を思い起こさせ、かろうじて口をつぐむが、
いつまで我慢出来るか、はなはだ心許無かった。



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