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女の子の部屋に遊びに行ける。
こんな大イベントを逃がす気などさらさら無い龍麻は、
それでもあんまりガツガツしていると思われるのも嫌で、
逸る心を抑えて5分だけ時間を潰してから葵達の部屋に向かった。
京一に何も言わずに行くのは悪いとも思ったが、
こういうのは「一人で行く」のこそが大事だと考え、あっさりと裏切る事にして、
わざわざ建物の一番端の階段を使って葵達のいる階へ向かう。
廊下の陰から誰もいない事を確認して扉の前に立ち、
ひとつ深呼吸をして気持ちを整えると、控えめに、しかし急いでノックした。
「ひーちゃん? いいよ」
すぐに、そしてやはり控えめに小蒔の返事が返ってくる。
期待に胸高鳴らせて扉を開けた龍麻の目に飛び込んできたのは、真っ白い何かだった。
「ぶッ!」
ぼふっ、という小気味の良い音と共に、よける間もなく顔面に何かが直撃する。
視界を奪われて前によろめいたところで、今度は後頭部に重みが加わった。
たまらず倒れてしまうと、背中に誰かが飛びかかってきて手際良く手を縛られてしまう。
自由がほぼ無くなった所でようやく身体を起こされ、加害者の顔と使われた凶器を見る事が出来た。
「どういうつもりだよ、小蒔」
物が枕だけに頭の痛みはほとんど無かったが、裏切られた不快感は隠しようも無く、
龍麻は思いきり眉間にしわを寄せて尋ねる。
「えへへッ、ごめんねッ。でもどうしてもやんなきゃいけなかったんだッ」
さっぱり要領を得ない小蒔の答えに苛立って声を荒げようとすると、
部屋の奥に隠れていたもう一人の女性が現れた。
「龍麻……ごめんなさい」
「葵……」
謝りながら現れた少女の名を、たちまち怒気を削がれた龍麻が呟くと、
葵は何故か目を合わせようとはせずに、傍らに腰を下ろした。
長い黒髪に隠れてしまったが、心なしかその顔は紅いようにも見える。
ますます不審を募らせた龍麻は再び口を開こうとしたが、小蒔が機先を制した。
「ほら、葵ッ」
「え、ええ……」
しかし促された後も葵は中々喋ろうとせず、
龍麻も何やらただならぬ雰囲気を察して、葵が話すのを待つ。
葵はなおしばらくの時間が過ぎた後にようやく、
バチバチと音を立てる古い蛍光灯にかき消されてしまうほどの小さな声で龍麻に向かって告げた。
「あの…………あのね、私……龍麻の事……前から……好き……だったの……」
「!! そ、そう……いや、俺もだけどさ」
「本当? 嬉しい……!」
あまりに唐突な告白に、龍麻は自分の口があんぐりと開いていたのに気付いていなかった。
想いを寄せていた相手からの告白が嬉しくない訳は無かったが、
その前に葵と小蒔が誰かに操られているのではないか、
と勘ぐってしまうのも彼の経験からするとやむを得ない事だった。
そんな龍麻の困惑をよそに、想いを遂げた葵が抱きついてくる。
それはそれでまた嬉しかったが、今度は別の、そして当然の疑問が首をもたげてきた。
「それで、告白されるのに何で縛られなきゃいけないんだ?」
「それは……」
口篭もる葵に代わって答えたのは小蒔だったが、彼女の答えも言葉によるものではなかった。
前に投げ出されている龍麻の足の上に跨り、ズボンに手をかける。
抗う間もなくトランクスごと一気に引き下ろされてしまい、下半身を露にされてしまった。
「ちょ、何してんだよ!」
「へぇー、これがひーちゃんのなんだ……結構大きいんだね」
何と比較してなのか、さも知った風に小蒔が品評して、
龍麻は恥ずかしさのあまり目の前が真っ赤に染まった。
足を寄り合わせようとしても、小蒔が上に乗っていて出来ず、いいように見られてしまう。
そのうち、ごく自然な反応として下半身に血が集まりだすのを感じたが、
それだけはなんとしても阻止しようと、小蒔を問い詰めるのに集中した。
「説明しろ、説明を!」
「だってひーちゃん、葵の事好きなくせにいつまで経っても告白しないからさ、
ボクが手伝ってあげようかなって」
「……なんで俺が葵の事好きなの知ってたんだよ」
当然のように言ってのける小蒔に、龍麻は置かれている状況も忘れ、毒気を抜かれた態で呟く。
そんな龍麻にどこか勝ち誇った響きを含みながら小蒔は説明してやった。
「だってそんなのバレバレじゃない。アン子もミサちゃんも、醍醐クン以外皆知ってるよ」
「…………」
龍麻は自分が三文役者なのを思い知らされて、がっくりとうなだれる。
何しろ相手は真神一の美女で、非公認ながら親衛隊まで存在するという噂があるほどの相手なのだ。
成り行き上彼女と行動を共にする機会は多いが、
嫌がらせじみた物を受けたのも一度や二度ではない。
最もいびつな形で葵を自分の物にしようとした佐久間の事さえ怖れなかった龍麻だから、
その程度は気にもしなかったが、何も自分から敵を作る必要も無く、
なるべく気持ちを押し殺していた……つもりだったのだ。
「にしても、やり方が強引過ぎるだろ」
「えへへッ、それはまあ、修学旅行だしさ、思いっきり枕投げてみたかったんだよねッ」
そりゃ関係ねぇだろ。
龍麻は面倒を避けて心の中で毒づくと、何かを吹っ切るように首を振った。
「……で、何でまだお前はここにいるんだよ」
「えへへッ、そりゃボクも興味あるもん」
「興味あるって……好きな男に見せてもらえよ、ンなもん」
「ん? ボクひーちゃんの事好きだよ?」
「いや、だから……」
小蒔の脳天気な笑顔に怒る気もすっかり失せた龍麻は、
さっきから一言も発しない葵に気付くと、やや疲れたように尋ねた。
「葵はこんなんでいいのかよ」
「え? え、ええ……」
龍麻の身体の一点を凝視していた葵は、問いかけに弾かれたように顔を上げた。
葵の反応が遅れた理由に気付いた小蒔が軽く肩を押してからかう。
「葵ったら、そんなに気になるの? ひーちゃんのコレ」
「だって……男の人の見るのなんて、初めてだから」
「せっかくだからさ、触ってみたら?」
実はその言葉を待っていた葵は、獲物に飛びかかる毒蛇のような素早さで龍麻の股間に手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待てって!」
龍麻の必死の制止も空しく、葵はやたらに手を動かして刺激を送りこんでくる。
見られているだけでも危険だったのに、直接触られてしまってはどうしようもなかった。
「うわ、おっきくなってきたよ」
抵抗空しく股間から元気に自己主張を始めた龍麻のそれを、小蒔は食いいるように見つめる。
葵はと言えば、初めて触る異形の物が自分の手の中で形を変えていく事によほど驚いたのか、
塔のようにそそり立った後もずっと握ったままだった。
「こんなに熱くて……硬くなるなんて……」
握ってもなお三分の一ほどが余る屹立は、葵にも小蒔にも未知の興奮を与えていた。
手の先から覗く生々しい肉の色に、二人の呼吸が自然に荒くなっていく。
「うン……すごいね……こんなのがボク達の中に入るんだ……」
「いやだ……小蒔ったら」
「ね、ね、ボクにも触らせてよ」
「ええ……はい」
葵の手が離れても直立したままのそれを、小蒔が無造作に握った。
葵とは微妙に温度の異なる掌が、また違った快感をもたらし、
龍麻は声を上げないよう、奥歯を強く噛み締めないといけなかった。
「うわ、ホントだ、熱い……」
しかし、小蒔はそれだけに留まらず、あろうことかゆっくりと上下に手を動かしはじめる。
背筋を走る戦慄めいた疼きに、龍麻は噛みつかんばかりの勢いで小蒔を止めようと叫んだ。
「ちょ、何してんだお前!」
「へへッ、男の子はこうやってするんだよねッ」
「そうだけどよ……って違うだろッ! 頼む、変な事すンなって!」
激しい反応は、しかし、小蒔を喜ばせただけだった。
足をばたばたさせて逃げようとした龍麻だったが、
何しろ大事な部分を握られてしまっていては動きもままならない。
そうこうしているうちに気持ち良さが腰の辺りから湧き出て来て、
悔しいながらも言葉が続かなくなってしまう。
「んん? 静かになったね。気持ち良くなってきた?」
「そ、そんなんじゃね……っ」
「うわー……なんかまだ大きくなってくみたい。ひーちゃん、トボけた顔して結構エッチなんだね」
「無茶言うな!」
瞳の奥を覗き込むように身を乗り出す小蒔に、龍麻は顔をそむける。
自分達のやり取りを物欲しそうに見ていた葵に気付いた小蒔は、手を取って屹立を握らせた。
「ほら、葵もやってみなよ」
「え、ええ」
葵は、見よう見まねで今小蒔がしていたように手を動かしてみたが、
加減が判らず変な方向に力が入ってしまい、龍麻はたまらず呻く。
「あ、あの……ごめんなさい、龍麻」
「平気だよ、ちょっと力加減がおかしかっただけだから。
もっとさ、力抜いて……そうそう、そんな感じ」
謝る葵に龍麻が何か言う前に小蒔が答え、
何故そんな事を知っているのか、妙にツボを押さえた実技指導をはじめた。
小蒔の教え方が上手いのか、それとも葵の呑み込みが早いのか、手さばきはみるみる上達していく。
それはもちろん、同時に龍麻が追い詰められていく事を意味していた。
「ちょ……頼むよ、頼むから解いてくれよ」
「やだよ、解いたらひーちゃん逃げるもん」
もうなりふり構っている場合ではないと考えた龍麻は思いきり下手に出てみたが、
二人は全く取り合わず、一杯に大きくなった屹立を好き勝手にしごき続ける。
「あ、なんか出てきた……これが精液なの?」
「多分違うわ……精液って、もっと白くてどろっとしてるらしいもの」
「そうなの? ひーちゃん」
「し、知らねぇよ」
「またまた。その歳で自分でした事無いなんて言わせないよ。ね、何コレ?」
相手が小蒔だけなら追求をかわせたかも知れないが、
じっとこちらを見ている、訴えかけるような葵の目に、龍麻は弱かった。
何もこんな場合にも。
自分でもそう思うが、何か遺伝子の奥底に刻み込まれているような、
そんな強制力が葵の瞳にはあって、結局知っている限りの事を説明する。
と言っても、正式な知識がある訳でもなく、経験に基づいたわずかなものだったが。
「良くは知らねぇけど、ちょっと気持ち良くなってくると出るんだよ」
「ふーん……ボク達のと同じようなヤツかな? ちょっと粘っこいのも似てるもんね」
「そ、そうね」
小蒔一人が何を話しているのか判っておらず、
言わされた葵と聞いていた龍麻は一瞬顔を見合わせ、慌てて俯く。
「どしたの?」
「な、なんでもない」
揃って答える二人に、小蒔は明らかに勘違いした表情で、
最初は葵の、次いで龍麻の二の腕をつついた。
「やっぱりさ、ひーちゃんと葵ってお似合いだよねッ」
「そ、そうかもな」
龍麻はかろうじて返事が出来たが、葵は恥ずかしさのあまり俯いたまま、
やたらに手だけを動かす。
「っ………っぅ、葵……」
明らかに息が荒くなった龍麻に、小蒔も何事が起こるのかと身体を崩して先端をじっと注視した。
「ね、この後どうなるの?」
「ッ……!!」
小蒔が葵に尋ねたのと、龍麻が歯を食いしばった声を上げたのとはほぼ同時だった。
ほとんど触れるくらいまで顔を近づけていた二人は、
突然吐き出された白濁をよけられるはずもなく思いきり顔に受けてしまう。
最悪のタイミングで射精してしまった龍麻は、なんとか葵達への被害を食い止めようと試みるが、
もちろんそんな事が出来る訳もなく、結局、腰が砕けるような快感と共に、最後まで精を放ってしまった。
「きゃッ……!」
「うわッ、何コレ……!」
二人はどういう偶然か、ほぼ均等に顔の半分以上にかかってしまった精液を、たまらず手で拭う。
拭っても拭いきれず、不快な感触が手と頬の両方に移り、更に鼻をつく匂いまでが襲いかかり、
小蒔はたまらず悲鳴をあげた。
「……うぇ、ドロドロしてる……気持ち悪い……」
「…………これが、龍麻の……」
「ほら葵、顔洗ってこよう!」
嫌そうな顔の小蒔とは対照的に、葵は指先についた白い液体を、
どこかうっとりとしたような表情さえ浮かべて眺めていたが、
小蒔に手を取られて洗面所に姿を消した。
騒ぎながら襖の向こうに行った二人をぼんやりと見送っていた龍麻は、
我にかえるといつからか緩んでいた紐を解き、慌ててズボンを履く。
立ちあがってボタンを止めた所でちょうど戻ってきた小蒔は、
ズボンを履いてしまった龍麻を見て残念そうに言い放った。
「まだなんか変な感じするよ……あれ、なんだ、もう止めちゃうの? 葵はその気なのに」
「……もう、勘弁してくれよ」
初体験というのはもっとロマンチックにするべきだと思っている龍麻は、
半ばトラウマにも近い今の体験の後では、とてもこれ以上続ける事など出来なかった。
心底疲れた様子の龍麻の声に、小蒔は諦めたように首を振り、葵の方へ振り返る。
「ちェッ。残念だったね、葵。また今度だって」
「……そうね」
激しく気落ちした様子の葵の声に、
龍麻は自分が取りかえしのつかない決断をしてしまったのかと胆を冷やしたが、
それは全く杞憂に過ぎなかった。
「……ね、今度する時もボクを混ぜてよねッ!」
龍麻は何をとんでもない事を言い出すのかという表情で小蒔を見たが、
葵は更にとんでもない事を言い出したのだ。
「ええ。一緒にしましょうね」
唖然として自分を見る龍麻に、葵ははにかんだように微笑む。
それは倫理とか善悪とか、そういうものをすっかりどこかに置き忘れた微笑みだった。
「ちょ……葵……」
「だって、小蒔は私の親友だもの。ね、いいでしょ、龍麻」
「親友って……」
言葉を失う龍麻に変わって、小蒔が身を乗り出して葵と龍麻の肩を抱く。
「ね、ね、いつにする?
……そうだ、修学旅行から帰ったら一日休みがあるよね。その日にしようよッ」
「そうね、その日にしましょうか」
さして迷いもなく頷いた葵に、龍麻は既に自分の命運がこの二人に握られた事を悟り、
がっくりとうなだれる事しか出来なかった。



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