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その考えは正しかった。
ぱっくりと裂けた秘唇を見せつけ、太腿を伝う淫蜜を晒け出した葵は、
まだ勃起している屹立を左手で押さえつけると、裏側から愛撫を始めたのだ。
敏感なくびれから根元へ、ちろちろと蛇行しながら進んでいく舌は、
そのまま止まらず袋をも舐め、中の玉を刺激する。
「う……っく……」
どこからどこまでが性器なのかわからないほど、快感が広がる。
更に葵は右手で足を開かせ、もう片方の玉をやんわりと揉みしだいてきた。
「あっ……うぁッ」
龍麻でさえ知らなかった愛撫を、葵は極上の手付きを以って施してくる。
度を越した快感にまた耳鳴りが始まり、身体全体に痺れが広がっていく。
両手は袋と玉の愛撫に用い、屹立そのものは舌と口唇だけで弄る葵。
破裂しそうな心臓が酸素を求めて龍麻の口を開かせる。
するとそこには甘い蜜が滴り、気道を快感で舐めあげていった。
身体の中心へと落ちていった葵の体液が、アルコールのように胃を灼いた瞬間。
「……ッ!!」
龍麻は下腹を襲った異物感に、声にならない叫びをあげていた。
白い指が、尻孔に入っている──
ただ、快楽を与えるために。
想像を絶する穢れた悦楽に、龍麻は身体を振り乱して悶えた。
上にある淫裂から、糸を引く滴が降り注ぐ。
それは彼女が垂らしているのではなく、龍麻自身が降らせているのだ。
たちまち顔中を、新たな葵の体液に塗れさせて、龍麻は初めて得た倒錯の快感に狂った。
腸(を抉り、掻き回される衝撃。
尻から臍まで突き抜けるかと思われるほど入ってきた細い指は、そこで百足のように暴れ、
丸太かと思われるほどの存在感を示して臓器を犯した。
どんな理性も吹き飛んでしまうかというような淫悦の中、
半ば白目を剥いて悶絶する龍麻に、なお新たな鏨(が撃ちこまれる。
「お……うッ」
もう今日だけで幾度射精したか知れないのに、まだがちがちに固くなっている勃起を、
葵が巧みに手を使わずに咥え込んだのだ。
亀頭を咥えた濡れた唇が、血管の浮き出た茎をなぞり深く呑みこむ。
快感が甦る。
記憶よりも、何倍もの強さとなって。
「うっ……あぁあ……っ!!」
温かな口の中に、龍麻はまた快楽を吐き出した。
何度も、何度でも。
絶頂を超える絶頂の中、ふと龍麻は、自分自身の心、
とでも言ったら良いのか、とにかく自分そのものが減少(しているような気がした。
減少──そう、葵に吸い取られているのだ。
淫楽の果てに浮かんだたわ言であるはずのその考えは、何故か龍麻を虜にした。
怖い。
もう止めたい。
心地良いグレーに染まっていた意識が、急速に黒くなっていく。
まるでもう、本当はとっくの昔に黒く染められていて、
ただ誰かの号令を待っていただけなのだというように。
誰かの。
誰の。
いつのまにか立ち上がっていた葵が、腰の上に膝立ちをして、じっと見つめていた。
黒い、瞳。
ほとんど溶かされてしまった意識の奥にある、最後の理性。
硬い殻に覆われた、人としての根源的な理性すら、葵は奪おうとしている。
それを直感的に知った龍麻は、本当の恐怖を葵に抱き、逃れようとした。
しかし跨り、屹立の真上にある葵の女性器から滴る淫蜜が、
蜘蛛の糸のように屹立を絡めとって動くことを許さない。
くっきりと、網膜に焼きつく彼女の下腹の蔭り。
そこにある裂け目に己が呑みこまれた時、終わる──
何が終わるのか、今はそれよりもしなければならないことがあるはずなのに、龍麻は必死に考える。
だが、それも葵が微笑を浮かべ、腰を沈めるまでのことだった。
亀頭が彼女の膣に消えた瞬間、龍麻は果てた。
屹立が脈打ち、精液を彼女に向けて吐き出す。
また減っていく。
生命が。
緋勇龍麻が。
俺が。
意識が錯綜する。
その意識を、生温かく、抗うことの不可能な肉の記憶を以って葵は包みこんでくる。
気持ちいい。
どうしようもなく。
「あ……お……」
だが赦しを請うて龍麻は泣く。
その、涙にあふれた瞳に映るのは、原初の母性を宿した葵の笑顔だった。
縋(ってはいけない──しかし拒むにはあまりに愛おしい、顔。
その顔が近づいてくる。
何の為に。
自分を包みこむ為に。
最も敏感な器官が、これ以上ないほどの快楽に浸され、哭いている。
本能的な恐怖に脅かされ、龍麻は最後の抵抗を試みるが、身体は全く命令に従おうとしなかった。
「た──」
何を言おうとしたのか自分でも解らないまま、龍麻は口を開ける。
救いを求める言葉が、発せられることはなかった。
「ねぇ、龍麻。お願いがあるの」
葵の手が体液に塗れた屹立に触れる。
肉棹から、その下に位置する袋まで、優しく、淫靡に。
それをぼんやりと見ている龍麻に、濡れた囁きが染み入ってくる。
「あのひとと……一緒に闘ってあげてほしいの」
あのひと……? あのひとって、誰だ……?
意識の波間に漂いながら、龍麻は考えようとした。
それを妨げる、悦楽。
「ね? あのひとと、あのひとの仲間になって、一緒に東京(を」
誰、だ……?
東京を、どうするんだ……?
億劫だった。
何もかもが、面倒になっていた。
ただ自分は、葵の声だけ聞いていれば良い。
そう頭の内側から囁く声に、龍麻は頷いた。
「ありがとう」
葵の声が、右の耳から聞こえてくる。
それは空気を通さず、直接肌に触れて伝わってきているような気がした。
でもどうでもいい。
葵の声が聞こえる、それだけで良かった。
「あなたの力……これからは鬼道衆(のために使ってくれるのね」
その言葉を聞いた一瞬、龍麻の瞳に往古(の輝きが戻る。
鬼道衆……闘わなければならない敵。
東京を滅せんとする組織。
葵はいつのまに、その軍門に下ったのだろう。
自分はいつのまに、その軍門に下ったのだろう。
だが浮かんだ疑問も一瞬、本当に一瞬の泡沫となっただけで消えた。
わからなかった。
もう考えるのは、厭(だった。
「いいの……あなたはこれからは、何も考えなくて。
あなたは私の頼みを聞いていてくれれば。
そうすれば、私はあなたの傍にいてあげる。ね、龍麻」
聞こえるのは葵の囁きだけ。
感じるのは葵の体温だけ。
下腹に凝縮している全てが、葵に包みこまれ、龍麻の意識は、快楽の闇へと墜ちていった。
龍麻は眠っている。
死んだように。
いや、龍麻は死んだ──もう以前までの龍麻はいない。
次に目を覚ました時から、彼は己の意思を持たぬ傀儡(として生きるのだ。
精魂尽き果てた龍麻を跨ったままじっと見下ろしていた葵は、
彼の額に淡くくちづけると身体を離した。
一糸まとわぬまま立ちあがり、窓辺へと向かう。
外は暗く、龍麻の部屋は二階だったが、葵は小さく窓を開け、何者かに向かって囁いた。
「『龍』は手に入ったわ……そう伝えて」
「御意」
気配はすぐに消え、闇だけが残る。
その闇を見つめる葵の瞳も、同じく闇だった。
彼女の後方に広がるものも、そこに囚われたものも。
葵は生臭い呼気を吐き出し、目を閉じる。
何か呟くように唇を動かした彼女は、再び目を開けたが、闇はどこまでも闇だった。
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