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小さな物音に、ブルーソニアは足を止めた。
残響音となった足音が完全に消えてから壁の方にすり足で近寄り、慎重に辺りを見渡す。
広大な通路には自分以外に人影は無い。
それどころか、魔法障壁によって厳重に施された封印は、
外界からのあらゆる生物の侵入を拒むために、
この巨大な墓所には人間以外の生命は一切無いはずであった。
そして今、この時間にこの階層にいるのは自分とあと数人、それと回廊を護る守護者が3人。
しかし守護者は己の持ち場を離れることは決して無いし、
その他の巡回者とも、迷宮の広さと、厳格に定められた巡回路故に出会うことはまず無かった。
では、今のは空耳なのか。
確かに話相手すらいない迷宮警護の任務中では、
幻聴めいたものを耳にすることもないとは言えないだろう。
しかし、この、稀代の大魔道師ワードナを封印する迷宮を警備する栄誉を与えられた者は、
いずれも厳しい選考のもとに選びぬかれた猛者達だ。
このブルーソニアも例外ではなく、しかも彼女は栄えある単身での警護を任された戦士の一人であった。
研ぎ澄まされた感覚は数メートル先の針の音さえ捉え、
そして彼女を一流たらしめているのは、常人よりも遥かに早く危険を察知することの出来る皮膚だった。
他人には説明のしようの無い、「何か」を感じ取る能力。
それが、彼女に警告を発していた。
ランタンを左手に持ちかえ、いつでも剣を抜けるようにする。
小さなランタンのみが光源となる薄暗い通路は、これまでと変わりなく、
ただワードナを鎮める沈黙の歌を奏でていた。
注意深く辺りを探るブルーソニアの呼吸が、長く、細いものになっている。
自らが発する音を極限まで殺す、いつでも事態に即応出来るように身体が覚えた呼吸。
肺に溜まったものを全て吐き出し、新たな空気を取り入れる寸前、何かが聞こえた。
びちゃり。
今度は空耳などではない、はっきりとした音。
重たい泥水が流れるような、厭な濁音が、しかも、確実にこちらに向かってきている。
己の足音さえ反響するこの迷宮で、なぜそれが判ったのか、ブルーソニアにははじめ解らなかった。
この迷宮に入って以来となる緊張が心臓を音高く鳴らし、
剣の柄に手をかけながら、それを抜くことも忘れていた。
何か──何かが近づいている。
しかしこの場所で、何か、と呼べる物など無い。
この階層の中心に安置される存在を除いては。
復活──
伝説の魔導師とは言え、
死んで百年以上も過ぎている彼を何故これほどまで厳重に警備しなければならないのか。
何故死体の周りを見回るだけの仕事で、週に50ゴールドもの大金を得られるのか。
その答えが今、哀れな最初の犠牲者に示されようとしていた。
しかしこの時、彼女はまだおぼろげにしかそれを知らない。
異常な音は非常にゆっくりとだが着実にその大きさを増している。
与えられた任務からすれば、音の原因を確かめ、出来うるなら取り除かなければならない。
行こう。
踏み出した足が、空中で止まる。
理性に勝る恐怖がそうさせたのだ。
数知れない戦闘をこなし、そのいずれにも生き残った彼女は、怖れることの正しさを知っていた。
退くべき時に退けない愚者とは、彼女は一線を画していたのだ。
その彼女が、未だ出会ってもいない恐怖に支配されていた。
逃げたほうがよい。
逃げるべきだ。
逃げなければ──
ランタンが照らす範囲には相変わらず何も映っていない。
それなのに、彼女は既に絶望的な恐怖に身を侵されていた。
悪いことに、この階層の出口は気配を感じる方向の先にある。
迂回することは出来るが、それでは倍以上の距離を往くことになる。
それでも、ここに留まることなど出来ない。
あやふやになり始めた現実から離れないために、壁に触れながら往きたかったが、
不運は重なるものなのか、壁側の手はランタンを持っている。
前方に確実にいる何かに背を向けることなど出来ない以上、心もとないながらも歩くしかなかった。
「はぁっ、はぁっ……」
もはや警戒も忘れ、恐怖が要求するままに酸素を肺に流しこむ。
しかしどれだけ大量の酸素を送り込んでも、肺が満足することはなかった。
遂には肩で息を始める彼女に、恐怖が、不意に足元から襲いかかった。
「ひっ──!」
転んだ拍子に迂闊にもランタンを取り落としてしまう。
たちまち恐慌に陥ったブルーソニアは必死で希望の光を捜し求めた。
腹立たしいほど遠くに転がったランタンへと、なりふり構わず四つんばいで向かう。
あと少し。
拾ったら、そのまま全速で駆けだそう──
あと少し。
精悍な顔を汗と恐怖でくしゃくしゃにして、ブルーソニアは懸命に手を伸ばす。
あと少し。
黄色い光が、緑色に濁った。
「!!」
眼の錯覚ではない。
その証拠に、ランタンを掴む手までもが緑に染まっていく。
瞬く間に手首までを侵食した粘質の物体は、更に肘を伝ってきていた。
「嫌ぁァァッ!!」
涜される──
本能でそれを悟った女戦士は、ランタンを諦め、恐怖の巣食うこの場から逃げ出そうとした。
しかし。
動かない。
腕が。
足が。
身体が。
いつのまにか彼女の全身に取り付いていた数体のバブリースライムが、
獲物をねぶろうと活動を開始していたのだ。
彼女は戦士でありながら軽い身のこなしを優先して革の鎧しか身につけていない。
脛にはやはり革製の脛当てを着けているものの、獣のような筋肉を持つ太腿は露のままだ。
その腿に、スライムが忍び寄る。
温かく、そして冷たい──
本当はどちらなのか哀れな女戦士には解らない。
立ちあがろうと無駄な努力を繰り返し、身体の力を奪われていく自分を知らされるだけだった。
汗でびしょ濡れになっている足が、薄い黄緑に彩られていき、
緊張と恐怖に総毛立っていた褐色の皮膚に、どろりとした感触が染みこんでいく。
毛穴の一つ一つにまで侵入してくるような感触は、どうしようもなく──気持ち良かった。
「助けて──」
身体中をもぞもぞと動き回る異形の物体に感じてしまう。
受け入れる訳になど絶対にいかない事実から逃げようと、彼女は叫ぶ。
もしかしたら他の巡回者が聞きつけてくれるかもしれないと、儚い願いにすがりながら。
そうでもしなければ、まだ20歳をようやく越えたばかりの彼女には、辛すぎる現実だった。
「い……や……んっ、ぁ……」
革鎧の隙間から、バブリースライムが滲み入ってくる。
這いずり回る部分全てが快楽に汚染され、彼女の意識を脳髄から蕩かしていった。
「はぁ……あぁ……あ……うん……」
悲鳴に、そうでないものが混じり始める。
それにブルーソニアは気付いたが、為す術は無かった。
「あ……むぅッ! む、ぐぅ……うう……」
それでも最初に彼女の左腕に取りついたスライムが口許へと到達すると、
下顎を包みこむぬめぬめとした感覚に、慌てて奥歯までを硬く閉ざし、
破れるのも構わず思いきり唇を噛みしめた。
それなのに。
不定形の化物はぬるりと隙間に潜りこみ、たやすく口の中へと入ってきたのだ。
粘着質のものに頬の粘膜を擦られ、気が狂いそうになる。
留まることなく入ってくるスライムは、彼女の口をこじ開け、更に身体の中心をめがけてその食指を伸ばす。
喉を伝う。
胃に溜まる。
内側から身体を犯される。
今度ははっきりと熱さを感じることが出来た──何の意味も無いことであったが。
身体の中心へどろどろと流れこみ、消化器官さえも快感の塊に変えていくスライム。
その余りに強烈な感覚に、ブルーソニアは一気に絶頂を迎えてしまった。
「ごほっ……んぶ、ぅ……! うぅ……ぅ……」
身体の中心から広がっていく快感は、これまでに味わったどんな快感も比べ物にならなかった。
どれだけ身体を震わせても、どれだけ喘いでも、全く引かないのだ。
「ひっ……ん……んぅっ!! ……っく……っん! がはっ、ごほっ、うぅ……」
立て続けに達してしまい、涙と鼻水と愛液を垂れ流す彼女に、新たな絶望が襲いかかる。
足の方から彼女を侵食してきたスライムが、付け根へと辿りついたのだ。
「! んふぅ……くぅぅ……ん……」
もちろん何のためらいなど無くもう一つの身体の中心へと続く穴へとその食指を伸ばすスライムは、
瞬く間に彼女の女を満たし、彼女に更なる苦痛と快楽をもたらした。
「か、は……あぁ……ぁ……あぅ……っん」
全く硬さの無いスライムも、膣内全てに満ちてしまえば充分な刺激となり得る。
それどころか、その重さによって絶え間無く刺激が続く為に、
女性にとっては拷問に等しい快楽地獄が続くのだった。
「っふ、はぁっ、ひぃっ……ぃ……」
流れこむことを止めないバブリースライムに嘔吐しながら、必死で尻をよじる。
女性としての肉の柔らかさを失ってはいても、全く意識していないその腰の振り方は、紛れも無く女だった。
秘唇を割られ、異物の侵入を許した時、久しく忘れていた情動が彼女にそうさせたのだ。
行き場を求めて入ってくるスライムは、膣だけでなく、子を宿し、育てるための場所まで穢していく。
「ひっ、ん……んぶぅ……うっ、ふぁ……」
胃と子宮に溜まったスライムで、苦しげに収縮する彼女の腹は孕んだように大きくなっていた。
時折身体が滑って床に腹をぶつけると、口と淫裂からスライムが吐き出される。
ブルーソニアの愛液で薄く光っているその表面を妖しく照らし出すのは、ランタンの灯り。
しなやかな手足の七割以上を汚されている彼女の肢体は、もはやただ淫楽に反応するだけの傀儡だった。
「あはぁ、あぁ……う……うふぅ……んぅぅ……っ」
だから、最後の孔にそれが入ってきた時も、堕ちた悦びしか感じなかった。
不浄の場所を押し広げられる魔淫に、先に心が果てる。
否、果てではない、果て無き果てに辿りついたのだ。
「あぁぁ……っ! あひぃ、い、い……も……っと……もっ…………と……」
三方から体を灼かれ、ブルーソニアはだらしなく口を開いて求める。
快楽を。
救いを。
「ひぃぃ……い、く……また……いぐ……の……うううぁぁあぁっ!!」
最後にそのどちらが与えられたのか、彼女以外に知る者はいなかった。
石畳の上に、何者かが座している。
闇に透かしてその姿を見れば、まだ幼き少女だった。
線の細い、整った顔立ちも、小枝の如き腕も、およそこのような場所には似つかわしくない、可憐な少女。
しかし彼女こそはこの階層の最強の守護者であり、
他の冒険者からは畏敬の念をもって接せられる侍だった。
その彼女が、座っている。
あぐらではない、立った姿勢からそのまま膝だけを折り曲げる、忍者と侍のみが行なう独特の座り方だ。
正座、と呼ばれるこの座法には、精神を集中させる効果があると言われていた。
しかし、慣れない者が行なっても足が痺れるだけであり、
慣れていたとしても通常は石の上で行なうものではない。
そのような座り方を、彼女はもう何時間も続けていた。
何時間──正確には、この階層の中心で発生した邪悪な気を感じとってからずっと。
確実に自分の許へと近づいてくる邪気にもいささかも動じることなく、彫像のように微動だにしない。
空気が固形物のように淀んでいるこの迷宮では、細く美しい彼女の銀髪も重たげにあるのみだ。
その銀髪が、俄に踊る。
「ワードナよ、汝に与えられし永久の責め苦へ戻るがよい! この先に待つのは死のみなり!」
彼女の前方には未だ闇が広がるのみであったが、声に迷いは無かった。
美しく、強靭な意志に満ちた声。
惰弱な者は聞いただけで己の罪を悔い、彼女の前にひれ伏し、
そしてただ苛烈なだけでない、外側を包む慈悲の響きに救いを見出すに違いない、そんな声だった。
誇り高き迷宮の守護者。
悪を断罪すべく培われた生命の全ては、まさに今この時、その使命を果たす為にあった。
そして彼女の呼びかけに答えるように、扉が開く。
上層への階段があるこの回廊に続く、内側の回廊からの唯一の扉。
務めを終えた巡回者が地上に戻る時に使うのもこの扉であり、
今扉を開いたのも彼らのうちの誰かである可能性も当然ある。
しかし交代で迷宮を警護している他の巡回者達と、
一人でずっとこの場を守護するガーディアンとは、別格の存在だった。
開かれたきり誰も入ってくる様子の無い扉を凝視していた彼女は、やおら立ち上がって手を振りかざした。
銀細工もかくやという美しい指先から業火が放たれると、
何も無いと思われた地面から、突如厭な臭いと共に黄緑色の魔物がその姿を露にした。
先ほど哀れな冒険者を贄としたバブリースライムは、守護者に触れることなく消滅していった。
魔法によって生み出された炎は、役目を果たして急速にその勢いを弱め、足元にわずかにくすぶるのみ。
だが、気配は減りはしても、無くなりはしていない。
彼女は一瞬の隙も生じさせることなく、腰間の剣を抜いた。
彼女の肌と同じ銀白色に輝く、儀礼用の剣かと見紛うような美しい刀身は、
戦士達の使う剣とは構造から異なる、刀と呼ばれる武器だった。
侍と忍者のみが使いこなせるこの武器を、彼女は己の手の如く操り、敵を切り払う術を身につけている。
「いやぁッ!」
抜いた刀を両手で構え直した侍は、裂帛の気合と共に禍々しい気の根源へと斬りかかった。
ワードナさえ倒せば、後は雑魚ばかり──
一対多数の戦いでは、まず首魁を倒すべし。
修めた兵法にならって、彼女は全身全霊をこの初撃に込めた。
斬撃のあまりの疾さにか、ワードナは避ける気配さえ見せない。
鎧を纏えない魔術師にとって、刀の一撃は致命傷となる。
彼女の目には既に己の刀が敵を両断する軌跡が映っていたが、それが具現化することはなかった。
「!!」
澄んだ、彼女の声にも匹敵するくらい美しい音色が、迷宮に響く。
その音を、彼女は認識することが出来なかった。
あり得ざる事態が起こっていた。
先祖から代々伝わってきた由緒ある刀が、半分ほどの位置から真っ二つに折れていた。
不可視の魔法の壁が、ワードナの前に張られていたのだ。
しかし、ワードナに魔法を唱えた気配は無い。
それどころか、動いた様子すら無いのだ。
一体どういうことなのか、疑問に思った彼女だったが、答えを手に入れることは無かった。
武器を失い、茫然としている彼女の間合いの内側に、複数の影が忍び寄っていた。
ワードナの写し身のような衣装に身を包んだ、暗黒の僧侶が。
「来るな……汚らわしき邪教の者よ、汝の罪を知れ!」
そうすべきではなかった。
刀が折れた時点で、任務も恥も何もかも捨てて階段を昇って逃げるべきだった。
そうすればもしかしたら、千に一つくらいは逃げおおせたかも知れないから。
しかしもう遅い。
勇敢な、しかし何の意味も無い戯言を吐いている間に、彼女の周りを男が囲む。
フードを深く被り、どれも皆同じに見える神官は、聞くもおぞましい邪教に魂を捧げた者共。
光射す場所でならば、彼らは彼女に指ひとつ触れることさえ出来ないだろう。
そんな下賎の者達が、無造作に彼女を引き倒し、その身体に群がる。
「くっ……止めろ、離せ!」
いくら魔法を使い、剣を使わせても並の戦士より強い侍といえども、身体は少女そのものでしかない。
刀を持つのでさえ奇跡と思われるか細い腕はたちまち掴まれ、磔のように広げられてしまった。
自分がこれから何をされるか、知識は無くとも本能は知っている。
だから彼女は、精一杯抗った。
足を押さえつけようとする手を蹴りつけ、闇雲に振り回した。
幾度か鈍い感触がして、呻き声が聞こえた。
わずかに彼女を恐れる空気が、陵辱が支配しつつあったこの場所に漂う。
この気を逃さず、彼女はまさに全身の力で逃れようとした。
腕を押さえつけていた手が緩み、上半身が床から離れる。
もう少し。
その刹那。
熱い痛みが、彼女の頬に走った。
あまりに突然のことで、よける暇さえない。
そもそも彼女には、何が起こったのかさえ判らなかった。
ただ顔の左半分がひたすらに熱く、刺激を受けた血管がどくどくと脈打っている。
生まれてからこの方、顔を張られたことなど無い彼女は、この突然の一撃で、
肉体的には何の怪我も無かったが、心が折れてしまった。
気力を失った背中が、再び冷たい床を感じる。
一度は彼女から距離を置いていた邪神官達も、
再び欲望に取り憑かれた魂で彼女を涜そうと近づいてきた。
さっきより乱暴に腕を押さえつけられても、もう抗う力は無かった。
ただ何も無い宙を虚ろに見つめている彼女だったが、不意に顎を掴まれ、無理やり横を向かされる。
あまりに強引だったために首が痛んだが、その痛みよりも先に、よりおぞましい感覚が彼女を襲った。
口の中に突きこまれた、肉の塊。
焦点が定まっていない彼女の瞳が見た物は、己の腰を突き出している男の姿だった。
彼女にとっては不浄の象徴であり、見たことさえない器官がねじ込まれたのだ。
その崇高な精神が磨き上げた肢体が、唾棄すべき忌まわしい信仰を宿す神官に犯されていく。
「ぐっ、ぐうぅっ……」
あまりに汚らわしい物を噛みきろうと試みた彼女だったが、
口の中で更に膨れあがったそれは喉の奥まで入ってきて、呼吸さえ妨げられてしまった。
たまらず美しく筋の通った鼻を一杯に広げ、酸素を求める。
わずかな酸素と引き換えに得た、耐え難い臭い。
顎を掴まれ、固定された口腔を、肉塊が掻き回す。
上顎も、頬も、舌も、あらゆる所を抉ってくるそれに、彼女はほとんど失神しそうだった。
その彼女の身体を、幾本もの手が毟る。
体格的に鎧を着られない彼女は魔術師のローブを着ているのみで、
少し強引に引き千切れば簡単に破けてしまうものだった。
ローブが破れる音と、男達の下卑た呼吸が重なり、悲惨な光景に昏い花を添える。
破ることそれ自体を楽しんだ男達の手によって、幼い身体を包んでいたローブはたちまち
ぼろきれのようになり、隠している部分の方が少なくなってしまっていた。
剥き出しになった少女の肢体に、再びごつい手が群がる。
掴むことさえ難しい小さな膨らみを、無理やり掴んで揉みしだく。
太陽の下でさえ目を凝らさなければ判らないほどの薄い乳暈も、
泡だった唾液に塗れ、その形を浮き上がらせていた。
更にその中心にある、まだ硬くなったことさえない頂にも、男は容赦しない。
示し合わせたように二人の男が左右の乳首に同時に貪りつき、歯を立てた。
「んくっっ……、む、んふっ、っく」
初めて受ける乳首への愛撫に、少女は悲鳴を上げる。
痛みに続いて生温かい感触がやって来たが、気持ち悪さしか感じることは無く、
そこがやがて女としての反応を見せていることなど知る由も無かった。
膨らんでもようやくわずかに盛りあがっただけの乳首を、男達は責め立てる。
舌を転がし、口に含み、吸い上げる。
時折跳ねる肉付きの薄い肢体に欲情を迸らせつつ、飽きることなく同じ場所を弄り続けていた。
下半身にも、二人の男が取りついている。
男達の腕よりわずかに太いに過ぎない太腿は左右に大きく割られ、
そのそれぞれに男が舌を這わせていた。
その動きは乱暴に胸を吸う男達と異なり、偏執的なものだ。
巧みに肌を舐める舌は、ある種の軟体動物が這った跡のように唾液を残していく。
淫靡に輝く跡が消え去らないうちに新たな跡がつけられ、しなやかな足は斑に汚れていった。
しかし、指先から腿の裏から、所構わず執拗に舐め回す舌に、
ペニスを咥えさせられている少女の口から漏れる嗚咽が変わり始める。
「んう……っ、くっ……」
鼻にかかった声色は、紛れも無く官能の響きだった。
少女自身、絶望的な嫌悪感は消えることなど無いものの、
その上からそれを押し流そうとする、不思議な疼きに翻弄されていた。
身体のあちこちから伝わってくる感触が、奇妙に思考を奪っていく。
どのような状況でも決して乱れぬよう厳しい修行で鍛えた精神が、途切れ途切れになってしまうのだ。
胸の辺りから時々痺れるような刺激が走り抜け、その甘美な痺れを追い求めているうちに、
いつしか臭覚を犯す異臭も気にならなくなっていた。
そんな少女の変化を見計らったかのように、男達が動いた。
暗き迷宮にあって薄白く光を放っているかのような少女の身体の大部分が黒く染まっている。
この世のものとも思えない凄惨な光景を助ける者など誰もおらず、
陵辱の宴は、いよいよ本番を迎えようとしていた。
されるがままに口や胸や手、果ては足まで使われて男達の欲望を高めさせられていた彼女の股間に、
一人の男がのしかかる。
初めての快楽に流されつつあった彼女は、
何かが入ってくる感覚で初めて処女が奪われようとしていることに気付いたが、
もう暴れようとしても全身が押さえつけられていてどうにもならなかった。
自慰すら知らぬ幼き性器に、勃起しきったペニスが入っていく。
初めこそその硬さで抵抗を示した秘唇も、無慈悲な挿入に遂にひれ伏し、侵入を許してしまった。
「ぐ……ぅ……ぁ、が……」
火焔の魔法を体内に撃ち込まれたような衝撃に、少女は苦痛の叫びさえあげられなかった。
これまでに負ったどんな怪我よりも酷い痛みが、下腹から溢れて止まらない。
苦痛で死を意識することは無かったが、それ故に永劫に続くのではないかと少女は恐れる。
少女の心配は杞憂だった。
より激しい苦痛が顎を開いて待ち構えていたのだ。
少女の奥まで貫いた邪神官は、ひとしきりその狭隘な肉壷の締め付けを堪能すると、
容赦無く腰を振り始める。
臍の裏側から襲いかかる激痛に、もう少女は身動きすら出来なかった。
死んだように投げ出された手を、邪神官の一人が掴み、己の欲塊を握らせる。
口の中に突き込まれているものよりも太く、熱いそれは、残酷に少女の意識を繋ぎとめた。
程なくもう片方の手も同じものを掴まされ、
両手と口と膣と、あらゆる場所でペニスを慰めさせられる少女の心に、一度消えた炎が再び灯る。
蒼く、蟲惑的な炎は、掌に感じる熱の象徴であり、意識を溶かす邪な輝きだった。
時に強く、時に揺れるその煌きを、少女は求める。
それが破滅の炎と半ば知り、半ば知らず。
掌が擦られ、熱が昂ぶっていく。
口の中の塊がいよいよ硬さを増し、舌にのしかかってくる。
そして、下腹を貫く焼杭は、苦痛と快感を乗せて体内を抉っていた。
「ふっ、んふっ、ぅっ、むっ」
頭を包む銀糸が弾み、それに合わせてリズミカルに喘ぐ。
吐き出す呼気に合わせて逃げていく快感を惜しみ、
吸いこむ息に合わせて身体を焼く苦痛を求める少女の姿は、もはや誇り高き守護者の物では無かった。
抱かえられた足が惨めに揺れ、少女を哀れむ。
しかし、少女は哀れみなど必要としていなかった。
開いた淫らな花は、ただ蜜を流し、受粉することをのみ望んでいたのだ。
生物としての本能は、もう理性を必要としていない。
心を失い、魂を喪った彼女の裡で、これまでに無い感覚が目覚めた。
身体中が、どろどろに溶けていくような感覚。
何も無い闇の中で、ただ気持ち良さだけが永遠に続くという錯覚。
そのただなかで腰さえ使い始めていた彼女は、ある物に気付いた。
身体中を嬲られ、卑しい感情に身を委ねる自分を見つめるひややかな瞳。
それに気付いてしまったことが、誇り高き守護者の運命を定めた。
「ふっ、んむぅぅ……っ!!」
淫欲に溺れた自分を見られる。
その認識は、最後まで残っていた小さな光までも守護者から奪った。
代わりに既にほとんどを覆い尽くしていた昏い闇光が彼女を支配する。
「はふ、ぅ……あっ、んっ、んっ……うふぅぅっ!!」
初めてあげた歓喜の叫び。
その響きに凜としたものは既に無く、男達に組み敷かれる悦びがあるのみだった。
魔淫に堕ちた彼女を祝福するように、熱い精液が肌を、口の中を穢し、そして最後に胎内を涜す。
濁った体液が肌に塗れ、異臭を染み込ませても、もはやその迸りを快楽としか感じない彼女は、
かわるがわるのしかかる男達を悦ばせようと幼い腰を揺らし続けていた。
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