死後の世界?なんだそれ
天国?地獄?
いいヤツが悪いやつを必ず嫌いになると、
どうしてわかるんだ
いいヤツほど、悪いやつのことも
好きになってやるんじゃないのか
マンカストラップみたいにな

好きなやつが苦しんでるのに、
自分だけ綺麗なふわふわしたところにいて、
幸せになれるやつがいるのか

だから猫は、そんなもの信じない
生きている今がすべてだ




猫にはいくつも名前がある、らしい。
平凡で簡単な名前と、
生まれたときから知っている、特別な名前。
仲間だけに呼ばれる名前。

最後に、もっと特別な名前がある。
それは生まれた時には、誰も知らない。
生きて行くなかで見つけるものだから。
自分で見つける猫もいる。
誰かに呼ばれて、初めて気付く猫もいる。

自分は後者だ。




「なんだよ、いないのか」

猫は、頬を膨らませた。

「あいつがいないんじゃ、つまらないな」

虹が、丸い架け橋を続けて二本、太陽の周りに描き出している。
いまはどの生き物も、息をのんで空を見上げているはずだ。

猫と鳥とネズミ。犬。食べるものも食べられるものも、
等しくぽかんと空を見上げているはずだった。
雨露にぬれる草木さえ、
空へ向かって、ぐんと緑の指を伸ばしている。

彼は居ないと知っていて、もういちどそこを見回した。
がらんとしたねぐらは、隠れ家だから光が届かず、暗い。

湿った暗闇に包まれて眠るのは具合がいい。
けれど、目覚めたら一瞬でも留まるもんじゃない。

いつまでもぐずぐず留まろうとする彼を振り切って、
捕えようと腰に回される長い腕を解いて、
無理やり外出した数分後に、
空に奇跡の絵画がかかった。

「帰ってくればいいのに」

一番に見せたいと思ったのは、自分だけだったか?
でもまあ、いいか。

空は続いている。
地面に穴を掘って埋まって居ない限りは、
この空にあいつも度肝を抜かれているはずだ。

帰ってきたら、この話を一番にしよう。
それが、二度目の虹だった。




なぜこんなところにいる。

愛想笑いをして、自分を隠して、どうしてそんな必要がある。
この自分だけには、そんな必要がない。
わずらわしいものなど、すべて、自分の思うままに変える。それが許されている。
世界で唯一の、特別な自分。
世界で唯一の肉食獣。

なぜこんなところに。

「来いよ」

どうしてここにいるのか。自分を隠して、なぜ。

「待って……」

なぜ。




「自分にだけ、良い顔をしてればいい」

そう思っている自分に、びっくりした。

まあ、あいつとはそれだけ気があうんだろう。

深く考えず、誰かと楽しそうな彼を置いて
別のことをしにその場を離れた。




もっといい名前を考えよう。



「ごめんな。もっといい名前をつけてやればよかった」

「例えばどんな?」



「バットマンとか、
スパイダーマンとか、
スーパーマンとか格好いいな!!」

「……」

「ウルヴァリンとか、ゴクウとか」

「…………」

「ピカチュウも強そうだぞ」

「もういい」

「毛並みの色も似てるなぁ」

「もういい!!」


「しっぽひっぱると、噛み付くところも似てるなぁ」
「……もういいって」

ギルバートは歯形のついた手にふーっと息を吹きかけた。




もっといい名前を考えよう。



「黄色いのでいいんじゃないか?」

コリコパットは一秒も考えることなく言い切った。

「いっそのこと、マ…………ィ、とか、な」

ミストフェリーズは口の中で呟いた。

「あ、あはははっははは」
「あはははは」
「ミスト、そりゃあ酷いよ、ハハハッ!」
「ぐぅっ…」

空気の塊を飲み込んでしまった猫が、一匹激しく咳き込み始めた。

「あは、あはは、あはははは…」
黄色い猫は、力なく笑い続けた。

まだギルバートの咳き込みは納まらない。