「で、どうしてカッサンドラはこんな場所へ来たんだ? 今まで近寄ろうとしなかったじゃないか」
「…肝試し」
「はあ? 俺を馬鹿にしてるのか?」
「……」
「カッサンドラみたいなちびりが、そんなこと一匹でするわけないじゃないか。するとしたら、他の女の子に誘われて断りきれなくてとか、そんな理由でもないかぎり……」

がちり。

「まあ、本当はカッサンドラが怖がるようなことは何にもないんだがな。幽霊なんて、馬鹿らしいものはこの世にいない」

がちり。がちり。

「女の子たちは、怪談とかそういうくだらないものが好きだからなぁ。ジェリーロラムも、おとなっぽいふりをしてまったく、いつまでも子供みたいなところがある。まあ、それが女の子たちの可愛いところだけどな」

がちりがちりがちり。

タンブルブルータスがくるりと振り返ると、人形はおとなしく横たわっていた。
…………

「そもそも、幽霊などというものは怖い怖いと思う心が見せる幻であって」

タンブルブルータスの肩越しに、人形がぐるぐる目を回しているのがカッサンドラにだけは見えた。
気配を察したように、タンブルブルータスがまたいきなり首をよじる。人形の頬には、睫の影が深く静かに差していた。

タンブルブルータスは、満足したように話を本題に戻した。

「だからカッサンドラも、その尋常でない怖がりをもうそろそろ卒業しないと。お姉さんだろう」

がちりがちりがちりがちりがちり。
演説を揮うタンブルブルータスのすぐ後であからさまな霊現象が続く。

――わあ、このひとってすごく鈍感。
カッサンドラはちょっとタンブルブルータスのことが嫌いになった。


めでたしめでたし





「UFOも地底人もツチノコも雪男も、科学的根拠のない妄信にはひとかけらも信を置く必要はない!」

タンブルは身振りを激しく主張するついでに、ちらりと後方へ視線をやった。がちり。

「……」 ←タンブルブルータス
「……」 ←カッサンドラ
「…………」 ←人形

しーん。

「だから怖がる必要はまったくないわけで逃げろカッサンドラ―――――ッ!!!!!!!」

と、言葉では言いつつもタンブルブルータスの身体は自分の言葉を裏切り、カッサンドラをひょいと胸に抱えて走りだした。

「ええーと」
ひとりずつ走ったほうが速いと思うんだけど……

そうは思いつつも、カッサンドラは無意識らしいタンブルブルータスの振る舞いにきゅんきゅんするのだった。先ほど、ちょっと目減りしたタンブルブルータス好き率が、怒涛の勢いで盛り返す。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「大丈夫?」

ねぐらに駆け込んで、それだけでは飽き足らずねぐらの更に暗くて狭い場所にぎゅうぎゅうに詰まりながら、タンブルブルータスは荒い息を静めようと試みていた。額の汗を、カッサンドラは自分の毛並みでぬぐう。

「だいじょうぶだ」

息をとぎらせながら、タンブルブルータスはおびえたようにさっと視線を動かす。実際おびえているのだろう。

「あれは、一体…」

と、言いかけたところで、タンブルの顔が硬直した。
小首を傾げてカッサンドラが彼の背後を覗き込むと、そこには彼の長いしっぽにひっかかるように金髪の人形が……がちり。

そしてにやり。

二人は水道管から飛び出して、それぞれ駆け出した。やはりその方が効率がよかった。

「きょっ…! 教会へ。きょかいへぇえええええ!!」
「ラジャッ」

へろへろなタンブルブルータスの手を引いて、カッサンドラは彼の言うとおりに教会へ進路を定めた。
生まれたばかりの朝日がまぶしくふたり(+1)を照らしていた……



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