教えていただいたほどにはどうやても面白くできなくて無念です。
というわけで、今回のネタはコビトさまがほとんど作ってくださったものです。ただ、ブリーフとか一部の気持ちわるいネタは私が考えました。気持ちわるいネタはたいてい私が付け足しました。ごめん。
私がお話しを聞いて、大笑いした10分の1でもお伝えできていればいいのですが…
コビトさま、掲載をお許しくださってありがとうございました。
そして、読んでくださった方もありがとうございました!
「どうした? 具合が悪いのか?!」 目の前に紺色のプリーツが揺れる。 助け起こしてくれた腕も、乾いた掌以外は暖かそうな紺色で包まれていた。胸元には、赤いリボンが燦然と結ばれている。 「す、すみません」 「いいよ。どうした? 震えてる。寒いの? もうだいたいの生徒も先生も帰ってしまっているし、保健室も…あ、生徒会室! あそこならきっとまだやってるはず。君、歩ける?」 「せ、生徒会室は嫌です!」 「なに?」 美少女は、ついと眉をひそめた。 そんな顔をしても、麗質はちっとも損なわれない。見れば見るほどびっじーん。かぁーわいーい。 「生徒会室は嫌って…君もランパスに何かされた?」 「ランパス? いえ、知らない人です…」 「そう。ま、いいや。とにかく僕についてきたら大丈夫だから、いったん温かいところへ行こう? 唇まで真っ青じゃないか」 唇に他人の指先が当てられる。 そんなところを触られたのは初めてで、思わず下がっていた血が全身に廻った。 「だ、大丈夫!」 僕っこかぁ。 これだけ可愛いとそれすらも神秘的っていうかなんていうか、すごく似合う。 美少女の長い睫に見とれながら、手を引かれてまた豪華な生徒会室を訪れた。 「ギルバートーいるかー!」 彼女は、見ているだけで手が痛くなるほど強く生徒会室のドアをたたき始めた。応えはない。 「もう帰ってしまっているんじゃ」 ここにくるまでも、廊下の電気は落とされているしほとんど手探り状態だった。 「いや、あいつ今日遅刻して、罰にいのこり勉強させられてるからまだいるはず」 やっぱり遅刻してたのか… 「おーいギルー。あけてくれよー!」 「うるっさいなぁ」 「いるじゃねーか。さっさと開けろよ」 「こっちはお勉強で忙しくってお前どころじゃねえっての。あ、あれ?」 立襟のホックを外し首もとを緩め、髪をかきみだし顔も若干憔悴してはいるが、朝に出会った生徒会長様がそこにいた。いのこりの課題はそうとう難しいものらしい。 目線があうと、自分以上に生徒会長は気まずそうな顔をした。こんな格好をさせられている僕よりも恥ずかしい事でもあるのだろうか。 僕をここにつれてきた美少女だけがひとり、くったくない。 「やっぱり知り合いか。 こいつの着てる制服、生徒会の備品だろ?」 「なんでわかった…」 「こんな寒空に夏服なんて着てくる馬鹿いねえよ。背中のタグに生徒会ってマジックで書いてあったし。 どうせギルが面白半分に着せたんだろうなと思って」 美少女はさばさばと言葉を重ねる。あまりにさばけていすぎて、こっちが面食らってしまう。まるで少年のよう…声も、ってええ? 「き、君まさか男?!」 「そうだよーん。 コリコパットだ。よろしく。」 「なんて格好を?! いや僕も他人のこと言えないけど!!」 「俺はランパスってやつに着せられたんだ。喧嘩しててさ、負けたんだけど、お前はこれでも着てろって投げつけられたのがこのセーラー服。 俺があいつに勝つまでこれは脱げない約束になってる」 「なんでそんな…」 コリコはかばんから写真を取り出して見せてくれる。 そこに写っていたのは、地面にはいつくばって悔しそうな顔をしている少年のコリコと、コリコを踏みつけにしているこわもての男。写りこんだ腕や角度からして、写真はこの男が自分で撮ったものらしい。彼の制服は、一応この学校指定の詰襟ガクランだけれど、なんだかとてもだぼっとしている。これは噂にしか聞いたことのない長ランというやつか?! ランパスは上着を首もとのホックどころかボタンひとつ留ていないので、黒いガクランの下の赤いシャツが鮮やかに存在を主張していた。ズボンが、いやに太い… ランパスという人はいちおう整った顔をしてはいるものの、ピースサインをしている彼の足元では恨めしそうなコリコがレンズを見上げているわけで…。 「俺だって知るか。でも見てろ。今度の決闘の後、セーラー服で自転車登校するのはアイツのほうだ!」 「他にもっと順当な罰ゲームはなかったの?」 コリコは、罰ゲーム言うなと呟いた。 「それでお前こそ、なんの罰ゲームでこんなひどい格好させられてるんだ? しかもこれ、夏服じゃないか。ランパスだって俺に冬服を投げてよこすぐらいの武士の情けはあったぞ」 「コリコお前、わかっていないな」 革張りの椅子が回転して、そこに収まっているギルバートが何食わぬ顔をして室内を見渡す。しかし、僕は知っていた。 ギルバートが、髪をなでつけ服を調え、けしごむかすだらけのノートを鞄に隠すところを、漆黒の闇を隔てる窓ガラスに映して一部始終目撃していた。 そのことにはもちろん気付かぬまま、ギルバートは演説するように両手を天に向かって差し上げた。 「セーラー服といえば夏服。それ以外は邪道。紫紺のセーラーは純白のシャツにこそふさわしい。 たよりないかろやかなシャツ、腕をあげたら肌の見えそうなぎりぎりのライン、うつむいたときに盆のくぼから華奢な骨の立つ薄い背中まで、がっつり深く覗くセーラーの襟は、白にふちどられてこそ引き立つというもの! 濡れたら透けそうな白以外、セーラー服とはみとめん!!」 「あほかー!!」 死ぬほど寒さが苦手なのに、今日一日シベリア寒気団と戦ってきた僕は、思わずギルバートにむかって突っ込んだ。先輩とか後輩とかこのさい関係ない。 「あほかー!あほかー!あほかー!!」 「おちついて…くやしいのはわかったから、おちついて」 思わず、美少女改め美少年のコリコパットの肩に顔を埋める。嗚咽が込み上げる。 「こ、こんなアホに…先輩とはいえ」 「いや、ギルは中等部からこの学園に通ってるけど、僕らと同じ高等部一年だよ」 「え? だって生徒会長だって」 「そうなんだよねー…どう考えても、二年のマンカストラップ先輩とかのほうが適任なんだけど、前生徒会長がさー…何を思ったかこいつを次代生徒会長に指名してから講壇を降りちゃってさー。あの人変わり者だったからなぁ」 そして人気だけはあったんだよ。 諦めの表情で語るコリコは、遠い目をしていた。 「はっ、想い出に浸っている場合じゃなかった。 ギル、いいからこいつに制服返してやれよ。こいつ、寒さで身動きできなくなりかかってたんだ」 「本当か?」 ギルバートは、執務机を立つと、つかつかと歩み寄ってきた。 「そういえば、顔色が悪い。今朝会ったときはピンクだったのに。 すまなかったな。ちょっと待ってろ」 よかった。どうにか普通に帰れそうだ。 このままの格好で帰ったら、まちがいなく転校先でいじめられてると思われてしまう。 肩を温かいものが覆った。 頬にふわふわと柔らかいものが触れる。襟元につけられたファーだ。 「俺のコート。貸してやる。これでもう寒くないな」 問題解決という顔でギルバートは膨らんだ鞄を手に取った。 「じゃあ、そろそろ帰ろうか」 「課題は?」 コリコ、聞いて欲しいのはそこじゃない。 「課題? そんなもんはやめだやめだ! …明日早朝に来てすませる」 「ぼ、僕の制服は」 「何をいう! お前はセーラー服が似合うんだからそれでいいんだ!」 「困ります! 家のものに心配されます!」 「そうか。それは困ったな。しかし、ちょっと考えて見てくれ。 ほら、窓ガラスに自分を映してみろ。 金色の髪、大きくて白目の部分の少ない子犬みたいなつぶらな目、適度な細さの手足。特に足。ほそいなー。 これをガクランなんかに押し込めてしまうのはもったいないだろう。お前はこれからずっとセーラー服で登校すればいい。生徒会長が許す」 「僕の制服返して!!」 「お前センス悪いなー。 それと、言ったら悪いがいまどきその年で白いブリーフはどうかとおもうぞ。どこのイ●ーヨー●ドーで買ってきたんだ」 「それは、無理矢理他人のズボンを剥ぎ取るようなひとが普通の学校にいると思わなかったから…っ!」 「それと、その黄色いのか茶色いのかはっきりしないルーズソックスもどきを脱げ! 俺の完璧なコーディネイトがそこだけ台無しじゃないか!」 「やーめーてー!」 「いまどきこんなの渋谷でも見かけないぞ!」 「そ、それは自分のすね毛だから脱げないーっ」 「ただいま…」 自宅の中は、外環気温より10度は上だ。 暖めすぎのあまり空気が白くかすんで見えそうだが、寒がりは家系なのでしかたがない。 「おう、おかえり」 そう言ったきり、父は背中を向けた。 息子の変化にあまり興味がないようだ。まあ変わった人だから。息子の僕さえ、父の職業が何なのか知らない。 もそもそ父の向かいのコタツにもぐりこんだ。足がさらに暖かくなり、気持ちよさに解けそうになる。 「で、ジュニア。転校初日はどうだった?」 僕の名はマキャヴィティだけれど、父の名前もなぜかマキャヴィティである。親子で同じ名前なんて珍しいけど、きっと変わった人だからそういうこともしてみたかったのだろう。 ちなみに、祖父はもっと普通の名前だ。アドメトゥスという。 「う…ん。前の学校とあんまり変わらないよ」 「そうか。よかったな」 何がよかったのかは分からないが、とりあえず僕は明日の登校にそなえて、貼るタイプのカイロがどこかになかったかを頭のなかで忙しく思い出そうとしていた。 「…オールデュトロノミー校長とは、もう会ったか?」 「ううん。校長ってそんな名前なんだ?」 「うん、まあ…」 父ももぞもぞとコタツの掛け布団を肩にひきあげる。二人で背中を丸くしながらこたつを囲んでいるうちに、夜はふけていった。 父の秘められた職業が、後々CATS学園に大騒動をひきおこすのは、また別の話。 |