気がつくと、黄色の猫が上から顔を覗き込んでいた。
ぼんやりした視界の中で、少し心配そうな表情を浮かべて…って
あれ?どこだ、ここ。
ガスの酒場にいたはずなのに

「酔っぱらって潰れちゃったんだよ。覚えてない?」

…あー…そうだ。思い出した。
そうか、俺、潰れたのか。迷惑かけたな。

「いいよ。気持ち悪くない?」

ん、大丈夫。

すまない、ちょっと、起こしてくれ。
よっと。ありがとう。

…あー…流石に呑みすぎたかな。ふわふわしてる。変な感じ。
大丈夫だって。そんな顔すんな。
ちょっと眠ったから少し酒抜けてきてるし。
…ぁ?体傾いてる?俺が?
そんな訳ないだろ。傾いてるのはお前だ、お・ま・え。
お前こそ酔っぱらってるだろ。すっげーぞ、その角度(クスクスクス)

「ずいぶん御機嫌だね」

ん。すっげー気分いい。

なぁ、今日楽しかったな。
皆で呑む機会なんてないから、かえって新鮮だったな。
言い出しっぺは誰だったっけ?
あー、そうだ。スキンブルだったな。
久々に戻ってきたから土産話を肴にして皆で呑もうって。
でもさ、途中でコリコがガスのマタタビ酒呑んでぶっ倒れてから、しっちゃかめっちゃかになったよな。
そのおかげで、俺もマタタビ酒の御相伴に与れたから良いけど、あれは流石になぁ…。
ランパスもちゃんと自分の弟分の事見てろっての。
マンカスはいつも以上に説教に力入ってたし。
あれは酒が入ってたから尚更だな。
途中で「最近バブが一緒に寝てくれないんだ〜」って泣き出すし。
結構覚えてるだろ?
だから酔ってないんだって。わかったか?

なんか、まだ呑み足りないかも。
なぁ、もうちょっとだけ呑んでいいか?
つーか、自分だけ呑むな。俺にも一口よこせ。

へへ、うまい。
お前、これマタタビ酒だろ。どうしたんだよ、こんな高い酒。
まさか盗んできたなんて…貰った?ガスとジェリーに?
本当か?

…あ、そ。俺を運んだお駄賃ね。

それは失礼しました。
せっかく良い気分で楽しく呑んでいたのに、酔い潰れたお荷物を運ぶなんて、面倒な事を嫌々やったんだもんな。
そりゃこんな良い酒貰えるわけだ。
もういいぞ。俺は大丈夫だから、お前酒場に戻れ。


…ばーか。冗談だよ、冗談。本気で怒ってないって。
ホント、ホント。だからもう一口よこせ。
…え、一口じゃなくても良いのか?やった。
んじゃお前にも御返盃っと。


(クスクスクス)
なんか贅沢だな。
こんな良い酒、二匹だけで呑んでさ。
ガスとジェリーに感謝、感謝。
お前、明日にでもちゃんとお礼言うんだぞ。俺も言うけど。
もう言った?えらいじゃん。
あー見えてもジェリーは礼儀にうるさいからな。
あれ?知らなかったのか?
前にコリコとミストの三匹でジェリーが作ってくれた料理食おうとした時にさ「『いただきます』は?」って、あの綺麗な顔でにーっこり笑いながら睨まれた事あったぞ。
ちょっと…いや、かなり怖かった。
…ん、だからさ、こう…両手合わせて、やった。いただきますって。

笑うな、ばか。
本気で怖かったんだって。
美猫が怒ると怖いって言うけど、本当だぞ。
だからお前もジェリーを怒らせるような事はするなよ。

ほか?ほかは…そうだな…
あー、ほら、今日ガスが話してくれた…覚えてるか?昔からの親友の話。

あ?途中で寝てただろって?
俺は前聞いた事あるからいいんだよ。ほっとけ。

なんて、あんな詳しい話じゃなかったんだけどな。
前聞いた時は「空気みたいに当たり前のように傍に居てくれる猫は大切にしないといけないんだ」って言っててさ。
その時はジェリーの事なんだなって思ったんだけど、あれってそれだけじゃないんだな。
もちろんジェリーもそうなんだろうけどさ…

…あー…でもガスだけの話じゃないよな。
俺にも言える事なんだよなぁって、話聞いてて思った。

今夜みたいに、なんとなく皆集まって、わいわい呑んで。
これって、実は凄い事なんだよな。
だって、全員この街で産まれた訳じゃないだろ?
みんな違う街で産まれて育ったのに、こうして出会ってさ。
この街に住むようになって、遊んで、狩りをして、月に一回は集会を開いて
真剣に説教してくれる猫がいて、泣き言を笑いながら聞いてくれる猫がいて、礼儀を教えてくれる猫がいて、俺達が知らない土地の話を聞かせてくれる猫がいて
酔い潰れた俺をねぐらまで運んでくれる猫がいて

今は、こうして後ろから抱きしめてくれる猫と出会えたのって、凄くないか?

ガスの話を聞いた時にさ、いつかはお前にちゃんと言わなきゃって、ずっと思ってたんだ。
お前と出会えてよかった。
いろいろあったけどさ、ずっと大切にしたいって思える猫に出会えてよかった。
お前から見たら、俺なんてまだ子供で、頼りにならないかもしれないけどさ。
強くなるから。
一日でも早く強くなって、お前をしっかり支えられる猫になるからって。
ちゃんと伝えたいって、思ってたんだ。

でもダメだな。俺、口下手だから、うまく言葉に出来ないし。
少しでも酔えば勢いで言えるかも、なーんて思ってさ。
あん時気合い入れてかぱかぱ酒呑んでみたけどさ。
普段出来ない事は酔ってても出来ないって事だな、これは。
ごめんな。
ちゃんと伝えられなくて、ごめん。


…お前、それ、クセだよな。
額じゃなくて、ここ。眉間にキスするの。
んーん、嫌じゃない。きもち、いい。
ヒゲがあたってくすぐったいけどな。
でも、きもちいいから、それ、好きだ。
だからもっとしろ。

鼻はやめろって、ばか。そこ舐めんな。
くすぐったいだろ。
どうせなら、こっち


やばい…目ぇ開かない。
なんか、このまま寝ちまいそう。
もっと起きていたいのに。
まだ、お前と、話たいのに。


そうだな。明日もあるしな。



それ、好き。頭なでるの、きもち、い…








なぁ このまま ねて いぃ?















ん   おれも… 






『酩酊』



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ふにゃさま、掲載許可をありがとうございました!
お許しいただけて心底幸せです。本当に。