元男子校に女子ひとり 1-1


 今年から共学になった元男子校に入ってみたら女子は私ひとりでした

 どうして気が付かなかったんだろう、と入学式の日私はそっと溜息をつきました。入試の時には女子はたくさんいました。当然合格発表の時もたくさんいました。
 私は県外からの受験者で、父が転勤で春からこちらに引っ越してくるので、先に母と私の住民票だけを移して受験をさせてもらいました。
 だから、同じ中学校の友達はいません。この学校のことも、元男子校であることと偏差値が私の出来具合と合致するくらいしか情報がありません。
 入学手続き後、母と一緒に教科書購入にも来ました。やけに男子が多いな、とは思いましたが、元男子校だから男子比率が大きいのだろう、としか思っていませんでしたし、制服は各自採寸をして注文票を出したら後日制服屋に取りに行く方式だったので、そこでも女子を目にしませんでした。
 まさか私たった一人なんて、私も母も思ってもみなかったのです。
 しかも教職員も全て男性でした。校医までもが男性です。学食にはおばさんたちがいますが、パートですし、そもそも厨房から出てきません。
 まったくの一人きりでした。

「どうしてこんなにスカートが短いのかな」
 座っていると腿を四分の一ほどしか隠してくれない短いスカートは、これでもかと細かいプリーツが入っていて、風が吹くとすぐにあおられてしまいそうです。
 上はブラウスの上にブレザーを着ますが、学校指定のブラウスはやけに生地が薄く、それ一枚では下着の柄まで透けてしまいました。ブレザーはことさらに腰のあたりをシェイプしたラインになっており、襟は大きくくれていて一つめのボタンはおへそのあたり。下手に動くと開いた襟から胸が零れてしまいそうです。
 でもせっかく受かった高校です。今日から頑張ります。

 入学式の翌日は身体測定と体力測定でした。
「全員体操服に着替えろ」
 ホームルームの時に担任が言いました。古河先生といい、古文が担当だそうです。年の頃は三十前半、だと思います。大人の男の人の年齢は見ただけではよくわかりません。
「先生、あの……」
 おずおずと手を挙げました。
「ん? どうした、渡辺」
「あの、私はどこで着替えれば……」
 みんなは、着替えろと言われるなり学ランを脱ぎ始めました。でも私も、というわけにはいきません。
「あーそうか。よし、おまえら全員黒板の方を向け!」
 古河先生は男子に、というより、クラス四十五名のうちの四十四名に向かって言いました。
 そうしてつかつかと男子の一番後ろまで来ると、先生もくるりと私に背を向けました。
「先生がこうやって、誰も見ないように見張っているから、先生の後ろで着替えなさい」
 女子用の更衣室は無いようです。
「あ、じゃあ……トイレで着替えて……」
 来ます、まで言わせてもらえませんでした。
「さっさと着替えないと間に合わないぞー」
 その瞬間、男子たちは、というか、クラスのほぼ全員は学ランの下に着ていたシャツも脱ぎ、パンツが丸見えになるのも気にせずにズボンを下ろします。
「きゃっ!」
 見てはいけない、と私は慌てて後ろを向きました。
 手が震えます。ブレザーのボタンを外してそっと袖を抜きますが、しゅる、と衣擦れの音が響きました。
 ブラウスの、小さなボタンを一つ一つ外していきます。薄い薄い白いブラウスの下、ブルーの小花がレースにあしらわれたブラジャーがくっきりと透けています。大急ぎでブラウスも脱ぎ、簡単に畳んで、机の横にかけていた体操服袋から体操服を出そうと振り返りました。
「あっ! い、いやあっ!」
 私は身体を抱くようにしてしゃがみ込みました。
 いつの間にか男子も先生も、クラス中の皆が私の着替えを見ていたのです。
 肩に温かい物が触れました。手です。
「渡辺、早く着替えなさい」
 心なしか古河先生の声は震えていて、息も荒いようです。
「あ、でも……」
「先生、僕らで手伝ってあげましょうか」
 先ほどのホームルームの際に委員長に決まった男子がそう発言しました。
 会田くんです。出席番号が1番だったから委員長に選ばれてしまった会田くんの声です。
「いやっ! ひ、一人でできますっ!」
 私は身を捩るようにして先生の手から逃れようとしましたが、上靴の底が滑り、床の上に倒れてしまいました。
「きゃあっ」
「あ、大丈夫?」
 すぐ側からまた別の声がします。
 起こしてくれようとしているのでしょうが、剥き出しの腕や肩に触れてくる、昨日初めて顔を合わせたばかりのクラスメート、しかも男子の手は、私にとっては助けにはならないように思えます。
「大丈夫です! 大丈夫だから触らないで!」
「そんなに心配しなくていいよ。先生、着替える時間はどのくらい残ってますか?」
「本来なら着替えて体育館に集合する時間なんだが……」
 教室の中の空気が変わったような気がしました。

 幾人もの手によって身体を支えられて起こされます。足が床に着いていないのに立っているときと変わらない視界なのは不思議な気がします。
 一年生の身体測定は、一年一組から順番に行われるのだそうです。体育館に集合し、あちらの隅で身長を測り、こっちで体重計に乗り、座高、前屈したときの手の位置などあれこれ測るのですが、一クラス四十五名が十クラスですから、そうとうな数の人間が入り乱れます。
 私のクラスは一年十組。順番から行けば一番最後です。
 多少遅れていっても構わない。遅れていった方が混雑緩和になるだろう。
 そう古河先生は言いました。
 腕を、腋を、腰を支えているのはまだ名前も覚えていないクラスメートです。宙に浮いた状態の私に手を伸ばしてくるのもそうです。
 スカートのホックが外され、ファスナーが下ろされました。
 するすると抜き取られます。
 ブラジャーとショーツ、靴下に上靴という恥ずかしい格好にされてしまいました。
 男子の視線が突き刺さっているのかと思うほど、肌にくまなく小さな痛みを感じて、私は震えました。
 男子の輪の向こうに古河先生が腕組みをして立っていました。
「身長や体重の測定の後は、保健室で診察があるから、下着は取っておいた方がいいだろうな」
 うそ……。
 すう、と血の気が引いていきます。かくん、と後ろに落ちそうになった頭を誰かの手が支えてくれました。
 別の手が後ろから回ってきて、ブラジャーのフロントホックを外します。
 ぷちん、という小さな音に、全員がごくりと喉を鳴らしたのが、まるで合唱のように聞こえました。
 ホックを外した手が左右に開いていきます。
「ぁ…… ぃや、み、ないで……」
 胸を整えていた下着が取り去られ、私の胸はぶるんと揺れながら重力に従い、適当な位置でそのふくらみを描き直しました。
「す……げぇ」
「生でおっぱいなんて初めて見る」
 ひそひそと聞こえる声が私の羞恥心をあおっていきます。
「ゃ… ぃゃ……」
 その時です。
「あ、あああんっ!」
 後ろから、だったと思います。二本の手が伸びてきて私の胸を下からすくい上げるようにして掴むと、指を自在に動かして揉み始めたのです。
「あっ! あ、あっ! いやあっ!」
 藻掻いて逃げようとしましたが、私の身体は男子の手に支えられていて、足は床に着いていません。その足も今は左右から誰かに掴まれています。
「先生、下着は取っておいた方がいいんですよね」
 その返事を待たずに、ショーツが引き下ろされました。
「やあああっ!」
 靴下と上靴だけは相変わらず身につけたままの格好で、私は足を左右に広げられました。
「は…っ、はぁ…っ」
 涙がぽろぽろとこぼれていきます。
 胸を揉む手、胸にしゃぶりついてくる唇、肌を撫で回す無数の掌。
 足の間に熱い息がかかったかと思うと、そこへも指が伸びてきました。
「おい、押すなって」
「バカ。見えないだろ」
 がたがたと机を動かす音が聞こえたかと思うと、私は机を並べて作った即席の台の上に寝かされてしまいました。
 手足は大きく開いて、誰かの手に固定されています。

2009年4月13日