甘く滴るそれは極上の 2

※ +10雲雀を【雲雀】、現在雲雀を【恭弥】としています。


「良い子だね、上手に言えました。」
小馬鹿にしたような台詞にも既に腹が立たない。
そんなことより、と腰が勝手に揺れた。
一度崩した矜持を立て直すのは難しい。何よりこんな切羽詰った状態で。
「素直な子は嫌いじゃないよ。」
小さな雫が濡らした頬をちろりと赤い舌で舐められた。
「…っ、ぅ、」
そんな小さな刺激にさえ震える。
達したいのを我慢しているだけでこんなに過敏すぎるほどに感じるはずはない。
体がおかしいのは解るが、それを止める手立てなど何一つなく、頭は尚も回らなくなる。
「もう僕が言ってる事も聞こえてないかもしれないけどね。取り敢えず教えておいて上げる。」
小さな笑みを含んだ雲雀の声。彼の手が恭弥のベルトを外し、ズボンを足元に落とした。
顕になった白い太腿を指がゆっくりとなぞり、じわりと未だ下着に隠された性器に迫る。
「あ、…っや、だ…ッ、も…っ」

早く触って、イかせて。
恭弥の懇願は聞き入れられてたと思っていたのに。
いや、叶えてくれないならばいっそ自分で。

焦らす指に限界を感じた恭弥は自ら触れようとしたが、雲雀から手首を捕まれて阻まれた。
「最後まで話を聞きなよ。吸血鬼は魅了を使って心を奪い、牙は理性を潰す為に強烈な快楽を与える。」
「か、いらく…?」
「そう。それも性的な快楽だから、疼いて堪らないでしょ?」

言われるまでもない。
人前であるのに自慰をしてしまいたくなるほど。


         それはそれは強い中毒性をもって君の体を、 ――――― 


雲雀の言葉が頭に沁みる。
この声は毒だ。それだけじゃなく触れる手も吐息も、何もかも。

「貴方、が…な、んでも…いい、から…っ」
「ふふ、そうだね。今は毒くらい強い方がいいだろう?」
こくこくと頷く恭弥の頬にもう一度キスを落し、雲雀は漸く濡れて刺激を待ち侘びる屹立へ手を掛けた。
    ッッ!!ぁ、あ!」
「ん、ごめん。下着を脱がす暇がなかったな。」
下着を軽く指でずらし、少し触れただけで達してしまったせいで、雲雀の手諸共べったりと汚してしまった。

「…ッは、ぁ…ッハ、ッ、」
目の前の壁に何とか縋り、肩で息をする。
整わない呼吸は更なる酩酊状態へと導いた。
「一回イったくらいじゃどうしようもないでしょ?……もっと善くしてあげるよ。」

甘い甘い毒を含んだ声に、恭弥はこくりと喉を鳴らした。



「ァ、ぅ、ァ…ッあ!」
「もっと腰をこっちに出しな。」
雲雀は体を使って恭弥を壁に押し付けながら、片手は先ほどの精液の滑りを借りて後孔を解していた。
既に雲雀の指を二本食んでいる。

快楽は弛緩と緊張を繰り返させ、絶頂を望ませて疲労を蓄積させていくばかり。
自らの体重を支えるのも辛かった。薄汚れた外壁に縋っても足は今にも萎えそうだ。
「…ッ、ハっ、あ、し…ッ」
「足?足がどうしたの?」
答えを求める前に雲雀は指をぐっと奥まで入れて一点を擦り上げた。
並行世界の同一人物。凡そ解る自分の体だ。感じる場所を暴くのは容易い。
「…ッッ!!うァ、あ!」
「ふふ、凄いね。ここに触れてやるだけで見る間に緩んでいくんだけど。」
「ひ…ッ!ァ、や…ッや、ぁ、!」
「感じ過ぎる?」
「や、だ、や、…ッッ、や、ァ!やめ…、ッ」

敏感すぎるその場所を、甘く感じるよう柔らかく擦られることはある。
だが爪を立てられているのかと思うほど強く、摘み上げられているのではと思うほどされたことなどない。
恭弥は強すぎる感覚に怯えながら、息も絶え絶えに喘いだ。

「ッッ、ひ、ぃあ、あ!      ッあ!ああ!」
途切れ途切れの悲鳴を上げて恭弥が大きく痙攣した。雲雀の指がきつく喰い付かれる。
腹に付きそうなほど立ち上がった性器からは薄い液が零れるだけで、射精はしてない。
屹立に触れることなく、後庭の感覚のみで達する、所謂ドライをキメたのだ。

がくりと頽れた恭弥を支えて顔を覗くと力強かった瞳は焦点を結んでいなかった。
頬は涙でぐちゃぐちゃに濡れ、激しい絶頂の余韻に哀れなほどがくがくと震える。
「空イきしたの初めてかな、もしかして。」
「…ッ、は、ハ…ッは、ァ…ッ」
「もう眠りそうだね。だけど満足したのは君だけでしょ?…今度は僕の番。」



力が抜けきった体を引き起こして、壁に寄り掛からせる。
「ほら、いい加減起きな。」
未だに含ませたままの指で緩んだナカを強く擦った。
「…ぅ、ん!」
瞬間目が覚めるも、揺れる視界に眩暈がした。
「恭弥、そろそろ物足りないんじゃない?」
「ふぁ…っ」
低く耳元で囁かれて、恭弥は震える。
またあの毒のような甘い声は、鼓膜を震わせ思考を溶かす。
「挿れて欲しい?」
その誘いにはどきりとした。

そんなことを聞かれたら、どんな状況だろうと即殴っていた、のは      誰をだった、だろう。

「…ッ、ハッ、僕、は…ッ」
「ん、まだ抵抗する思考が残ってるんだ。本当に凄いね。でも……」
ここまでだよ、と再び首筋に牙を突き立てられ。
瞳に甦ろうとした意思の光は完全に潰えた。





「あ、あ…っ、あ!」
揺すられるリズムに合わせて恭弥の声も零れる。
二度目の牙で完全に囚われた恭弥は雲雀に後ろから貫かれ、立ったまま揺すられていた。
身長差がかなりあるせいで、恭弥は爪先立ちで雲雀を受け入れている。
既に力が入らないが、少しでも背を伸ばしておかないと奥深くまで雲雀が侵入して息が詰まった。
「ほら、確り立ってないと。」
「…ァ、も…ッむ、り…ッ、あ、ぁ!」
赤く痕だけになった牙痕や首、耳を舐められ、恭弥が倒れないように支えた右手は時折悪戯に脇腹を擽り。
左手は屹立を扱き立てた。
同時に何箇所も攻められ、もう何度達したか解らない。
「ぁ、ぁ…っ、ま、た…っ」
「ふ…またイきそうなの?仕方ないな。じゃあ僕も付き合ってあげるから少しだけ我慢しなよね。」
「ッッ、いっ、や!」
雲雀の左手が恭弥の屹立の根元を強く握った。今にも溢れそうだった熱の行き場は塞がれる。
引き剥がそうと爪を立てても、ちっとも緩みはしなかった。止まりかけていた涙が再び溢れるように零れ。
ますます強くなる律動に恭弥の爪先が地面から浮いた。
「ひッ、ぅあッ!」
「…ん、」
雲雀の艶を含んだ溜息が耳に掛かり、それにもぞくぞくと震えた。
「…じゃあ、イくよ。」
「ァ、ぁ…ッッ、ああ!」
尚一層強く数回突き上げられ、隘路の奥が熱く濡れる。
同時に戒めていた手も緩められて恭弥も漸く望んだ絶頂を迎えた。





達したと同時に気を失ってしまった恭弥の衣服を整え、雲雀は改めて恭弥の顔を覗く。
泣き濡れて、目元が赤く腫れているが本当によく似た造りの顔。

「ふうん、それがお前が言ってたよく似た子供?」
「やあ、何時来たの?そうだよ、でも僕より貴方に似てる気がするけど。」
「そうかな。」

雲雀に声をかけた男が恭弥を覗く。銀色の髪がさらりと音を立てて頬に沿って動いた。
「似てるよ、アラウディ。貴方にそっくり。」
「…でも髪の色はお前に似てるじゃないか。」
どうでも良いといった風にアラウディは答える。
「ふふ、そう言えば瞳の色も僕とそっくりだった。」
気丈に睨み返してくる黒い瞳を思い出し、雲雀は笑う。
「アラウディ。僕この子が気に入ったんだけど。」
「それは血の味?それとも体の具合って意味で?」
「どっちもだよ、どちらも凄く良かった。貴方も気に入ると思うんだけどな。」
「…へぇ、お前がそう言うのは初めてだな。」
雲雀の言葉にアラウディが僅かに目を瞠った。
他者への興味を示さないのは自分も同じだったが、雲雀もまた人間に興味を持たなかった。
偶に出会う血が美味い者を 『可愛がり』 ながら弄り殺すことはあっても、だ。
故に。
恭弥の存在はアラウディにも深い興味を沸かせた。
「ねえ、堕とす許可を頂戴。」
「そこまで言うんだ。…いいよ。」
「じゃあ仕上げは任せるから。」
「当然だろ。幾ら優秀なお前でも真祖の僕が手を貸さなきゃただのアンデッドになる。…今からしようか?」
「初めから任せたら貴方にばかり懐くから嫌だよ。堕とす経過も見たいしね。」
「ふ、お前みたいに僕にべったりも可愛くていいのに。」
くすくすと笑うアラウディに雲雀はむっとする。
「僕は初めから貴方にしか興味がないよ。」
「そう言えばそうだった。」
絶対強者であるアラウディに興味を持ち、自ら人間を捨てたのはもう何百年前か。
「じっくり時間を掛けるのも楽しそうだな。」
「まあ好きにすればいいさ。藍色髪のハンターももう暫くはこないだろうし。」
「……あのジグサグ頭、まだ貴方を追ってるの?」
「しつこさは折紙付だよ。また殺せなかったし。」

アラウディを追い続ける面倒なハンターがいる。
幾年月を生きるか解らないアラウディを追うハンターもただの人ではないのだろうが。
いつも殺すまで行かない。雲雀からみればじゃれ合っている様にも見えた。

「そう。あんなのにばっかり取り合わないでよね。」
「知ったような口を聞くんじゃないよ。ほら、その小さいのの記憶を消してやらないと。」


******


ふぅ、と骸は溜息をついた。
ここは恭弥のテリトリー内、並盛中学校の応接室だ。
彼の腹心の部下に(無理矢理)聞き出したら、今は町内の見回りに行っているらしいのだが。
「…帰ってきませんねぇ。」
窓の外にはもう闇の帳が下りている。
迎えに行こうか、と骸は腰を上げた。見回りのルートは概ね決まっているので逆に辿れば出会うだろう。



「いません、ね……、ッ!」
大通りから少し外れた裏通りのそのまた影に、人影を見た。
街灯の明かりからも外れ、それが人間であるかどうかも認められないのに骸は恭弥と確信した。
「恭弥君!」
近寄れば彼は壁に身を預け、両足を投げ出し ―――― 眠っていた。
暗がりで良く見えないが、微かに眦が紅い。だが見る限り外傷はなかった。
「…恭弥君!恭弥君!」
目を覚ませばいいのだが、と不安になりつつ声をかけて軽く揺すると恭弥の目が薄らと開いた。
「…ん、むく、ろ…?」
「ええそうです。全く…心配しましたよ。」
「…僕、何して…ここどこ?」
「え?覚えていないんですか?」
小さく頷く恭弥に違和感を覚える。
「見回りをしてて…群れを見つけて咬み殺した、けど…」
それから先の記憶がない。
骸に時刻を聞けば、恭弥は一時間程度の記憶が抜けていた。
「取り敢えず…家まで送ります。怪我はありませんか?」
「多分、無い。」
それに安心して、先に立ち上がり恭弥に手を伸ばした。
暫し逡巡した後、その手を取って立ち上がろうとした時。
「…ッ!」
がくりと膝から力が抜けた。
「ッッ、恭弥!」
骸が慌てて恭弥を支える。
「え、何…?どうして、こんな…」

骸が手加減してくれなかった時の朝のような。

「…恭弥君、足を怪我してるんですか?」
「……うん、少し捻ってるみたい。」

咄嗟に嘘を付いた。
骸には言えなかった。
体の奥に残る熾火のような熱と疼痛。
たった今まで性交していたとしか思えなかった事を。

全く記憶に無かったけれども。




END