RM新刊 「甘く滴るそれは極上の 番外過去編」 サンプル

元はヒバヒバのストーリである「甘く滴るそれは極上の」の数百年前。
まだ人間であったころの雲雀(当時25歳)と真祖アラウディの出会い、そして雲雀が吸血鬼に堕ちるまでのストーリー。
ストーリーゲストにスペードもちらちらり。

ちょい微エロのR-15です。




〜以下本文サンプル〜



Side: H
毎日が退屈だった。これと言った変化もない。
それを紛らわす為に暴れてみてもただ孤立するだけ。己にとって孤独は愛すべきものだが、退屈は増すばかりで。
誰かに助けを求めるでなく、男は呟いた。
「…誰か僕を退屈から救い出して」

ひゅんと愛用の武器が空を切る。ついた血糊を飛ばすと、
戻ってくる輝き。
「ああ退屈。毎日こんな雑魚ばかり相手じゃ…」
男はまたふらりと歩き始める。


Side: A
「不味い」
足元に転がるのは物言わぬ冷たい肉の塊。
銀髪の吸血鬼は軽く口元を拭って溜息をついた。特にグルメぶる積もりもないのだが、美味い食事にありつきたいと思うのは、人間も吸血鬼も変わりはしないだろう。
だが最近はなかなか美味い血に当たらない。魂のレベルが高ければより甘みは増すのだが、もうそんな人間はいないのだろうか。
「もう少しこの街を探してみるか」





〜中盤抜粋〜


Side: A×H
雲雀は幾晩も歩き続けた。だが求める標的には巡り会えないでいる。スペードと名乗るハンターに会ってから、吸血鬼による殺人も止まってしまった。
「あのハンターに先を越されたのかな」
「僕があれにかい? は!何の冗談さ」
「っ!」
唐突に耳に飛び込んだ声。しかし姿はなく、声はあちらこちらから反響して聞こえ、位置が特定できなかった。
「ほら、どこを見てるの。この街の秩序君」
あからさまに馬鹿にした声は真後ろから聞こえた。
雲雀は正に脊髄反射で、意識するよりも速くトンファーを抜き、背後へ攻撃を仕掛けた。
「成程。いい動きだね」
トンファーの射程距離外へと軽々と跳躍して見せた吸血鬼を見て、雲雀は息を呑んだ。
「…は?」
「へえ…。これは何の冗談かな」
面差しが似ている、などと言うレベルではない。僅かに吸血鬼の方が幼く見えたくらいで造作の差異がほぼ見当たらない。
ただ髪や瞳の色合いだけは全くの非対称ではあったが。
「気持ちが悪い」
「それは僕の台詞さ」
雲雀が先んじて地を蹴り、吸血鬼に襲い掛かる。だがそれは軽く足を動かしただけで避けられた。
「ふうん。お前、良い匂いだね」
余裕の動きで何をするかと思えば、雲雀の襟足でくん、と鼻を動かした。トンファーで顎を狙うも避けられる。それを計算した上で距離を開けた。
「…何だって?」

「良い匂い、と言ったんだよ。雲雀恭弥」

ぞわりと背を震えが走る。
武者震いかとも思ったが、違う。これは怖気だ。
化け物に名を呼ばれた瞬間、体の内側から撫でられたようだった。
「震えたのか?ふふ、思ったよりも可愛いな」
「誰が」
改めて構え直すも悪寒が止まらない。
「そういう気概もいいね。気に入ったよ」
「言ってな」
「足が震えているのに?」
「余り舐めないで欲しいね」
小さく震える足に力を入れて地を踏みしめ。トンファーが吸血鬼を捕らえた。右手首の骨が砕けるのが雲雀に伝わる。
「へえ…これはこれは」
楽しそうに笑う青い瞳が何時の間にか距離を詰めて、目前で輝いた。
「…っ!」
「ほら、もう動けないでしょ」
「卑怯、だよ…っ」
不自然な姿勢のまま毛の先ほども動くことができなかった。
「そんなことはないだろう?ちゃんとお前の相手をしてやったんだから」
吸血鬼は折れておかしな方向へ曲がった右手首を掴んで引っ張る。すると見る間に腫れが引き、正常な形状に戻った。
軽く振ってせる仕草にも痛みなど一切なさそうだ。
「化け物…」
「は、僕は吸血鬼だよ。治癒力が高くて当たり前だ。それよりも…」
先ほどまで折れていた右手が雲雀の顎を掬う。
「何を、」
「相手をしてやった礼は貰っていくよ」
「…っぅ!」
晒された首筋に小さく痛みが走った。次いで温かく這うのは舌だろう。殴ってやろうと手を振り回すも、既に吸血鬼との距離は遠い。
「ふふ、また相手をして欲しかったら僕を探すんだね。気が向けば名前くらい教えてあげるよ、雲雀恭弥」
雲雀は、鮮やかに笑んで闇に融ける姿をただ見送るしかなかった。










戻る