土砂降りの、


目も開けられないような土砂降り雨の中。
死屍累々たる中、ただ一人だけ立つ男がいた。


「この仕事には僕を連れて行けって言ったよね。」
雲雀の声は怒気が含まれ、低い。
「お前の言うことなど聞く義理はない。」
男は肩越しに振り向く。その蒼い目は昏く濁って見え。
「あのねえ…尋常ない数だって解ってただろ!」
「だから?僕一人で方は付いた。」
「…っ!それほど怪我をして!」

抱き寄せた体は血の臭いがした。



「ほら、早く!」
近くのモーテルへ車を入れ、アラウディを引きずるように部屋に入る。
安宿には脱衣所はない。直接シャワールームへ連れ込んだ。

そこで雲雀は初めて気がついた。
何故アラウディが然したる抵抗もなく着いて来たかを。

「貴方・・・これ、…ッ」
「これくらい、怪我のうちに入らない。」
平然としているが、ダークグレーのワイシャツが明らかに赤く染まっているのが解る。
「怪我、してるとは思ったけど、こんなに酷いなんて…」
「これくらい怪我に入らないって言ったのは聞いたか?ほら、退け。シャワー浴びるから。」
「…っ、だから僕を連れて行けっていったんだ!」
「済んだことで怒るな。」
雲雀を押し退け、アラウディはシャワーのコックを捻った。
二人の頭上から熱い湯が降り注ぐ。
「僕がどれほど気を揉んだと思ってるのさ!」
些か手荒に壁に押し付け、唇を奪った。



血の臭いに煽られたのは認める、けれど。
アラウディだって興奮していたのだと思う。
こんな怪我で、セックスなんて馬鹿げている。
頭で解っているのに体が止まらなかった。
それは、彼も一緒。その筈。

「ふ…っ、く、う、ぅ」
「何で声を我慢してるの、聞かせなよ。」
それには小さく頭を振って否やを示す。
最早、何を嫌がるのだろうか。
重症とも呼べる怪我のままシャワーを浴びながら、適当に衣服を乱し、立ったままの性交。
アラウディが時折、快楽と違った強い感覚、痛みに苛まされているのが良く解った。
「…ねえ、止める?」
「は…っ!今更?お前、が止めれるわけ、ン…無い、だろ、」
「…ふふ、解ってるね。」
何時もならこれほどゆっくりと動いていれば足りないと甘い声で強請ってくれてるだろう。しかし傷の痛みのせいか今ひとつ興に乗っていない。
雲雀も流石にこれ以上はのめり込むこともできず、止めようかと口にすればこの憎まれ口。
シャワーが当たっているにも拘らず、赤く染まり続けるアラウディの肩に思い切り咬み付いた。
「ッ!…くぅ!!ひ、あ!」
「ん、」
引き攣れるような声を聞きながら、更に強く力を込める。
抱えられ、浮いているアラウディの片足がひくりと宙を蹴った。
隘路に咥え込ませた屹立が、仕返しとばかりにきつく噛み付かれる。
「い…ッッ、あぁ…っも、と、」
「ふ…アラウディ…?貴方…、」
「ほら、もう少し…噛んで、もっと…」
蒼白い顔でほんのりと赤く染まった目元。
先程とは打って変わって蕩ける視線で雲雀を誘う。

箍が飛んだのはどちらもだった。


「は…ッ、ぅ、ん、ぁあ!」
「アラ、ウディ…っ、は、もう終わる、よ」
「…もう、い、っかい…っ、あ、っくぅ、うんッ」
「大概にしない、と、貴方、死に、そう。」
「ふ、ぁ…ッ、あ、殺せる…な、らっ、ン、殺し…てみな」
雲雀の首に縋り付いていたアラウディの腕が雲雀を引き寄せる。
「アラ…、いっ、つ!」
寄せられるままに体を密着させれば、先程の意趣返しとばかりにアラウディが雲雀の肩に噛み付いた。
「ふ、ふふ…ッ、仕返、し、だ、…く、ん、ぁあ!」
「貴方って…本当に煽るの上手、」

もうこの後のことなど知らない。
雲雀は思うままにアラウディを貪った。




それから数回。互いに極めた後。
アラウディは声も上げずに堕ちた。
「貴方って本当に馬鹿。…僕も人の事を言えないけど。」
濡れた服を脱がせてまた更に驚いた。
「……これでよく動いてたよね。その上にセックス…は僕のせいか…」
呆れるほどに傷は深く、未だ出血は止まっていない。
縋り付いてきていたのだから骨や筋に異常はないのだろうが、動かしていいような傷ではないはず。
傷の痛みに声を上げたり態度に表すのが嫌なのは同じなので、彼の気持ちも解らなくもないが、余計な心配を掛けているだろう事は理解した。

傷の応急手当を済ませ、自分も着替えて帰ろうとシャツを脱いで気がついた。
「…ワオ、熱烈だね。」
肩に残るくっきりとした歯形は青紫になっていて。
それを彩るように爪痕だらけだった。




END