「貴方ってくすぐったがりだよね。」
「…は?」
怪訝な顔をしてアラウディは首を傾げた。
「何処も彼処も弱いじゃない。」
「別に普通だろ。」
「そんな訳ないでしょう。」
雲雀が手を伸ばして、アラウディの頬に触れる。
小さく眉根を寄せるのを見逃さない。
「ほら。」
「目の近くに手が来れば当たり前、…ッ」
「それだけでもなさそうだけど。」
そのまま頬を滑り、雲雀の手指はアラウディの首を滑った。
「止めろ。」
「くすぐったくないなら別にいいだろ。」
「そういう、触れ方をしておいて・・・ッ、つっ、」
「そういう触れ方ってどんなさ。」
「意図がありすぎ…ッッ、いい加減に、!」
乾いた音を立てて、雲雀の手が叩き落される。
「痛いな、ああそうだ肝心な場所を忘れてたよ。」
再び顔に向かって伸びてきた手を今度は強く叩き落せば、反対の手が頬に触れそのまま耳まで触れた。
「…ッぅ!」
「ほら、弱点ばかりだよ。」
「いい加減にしろ、お前。」
「ああ、また忘れてた、こっちだったね。」
ほんの一瞬の隙を突いて、雲雀の手がアラウディの左耳をなぞり上げた。
「んぅ、!」
「ホントに面白いくらい感じるよね。そんなところに弱点があると色々と大変でしょ。」
「…煩い。」
立ち上がろうとしたアラウディの手を引き、床に押し倒す。
「貴方は都合が悪いと全部それだよね。いっそ耳に触れられただけでイくくらいにしてあげようか。」
ふ、とアラウディの瞳から感情の色が消える。
拙い、と雲雀が思う間もなく視界が上下逆転した。
それもただ返されただけでなく、背中と肩を酷く痛めつけるような投げ方で。
「…痛、」
「僕を少し侮りすぎだよ、お前。今度は首を折るよ。」
「普段からそれ位の方が良いのに。」
「お前の都合に合わせる気はないね。」
立ち上がったアラウディの足が雲雀の肩を踏み付けた。
「…っ、帰るの?」
「当然。」
「悪戯が過ぎたかな。貴方とゆっくりしたかったのに。」
「知らないよ。」
立ち去る後姿を雲雀は見送る。
「直ぐに追いかけるよ。捕まえたら覚悟してもらうから。」
ドアが閉まる瞬間、肩越しにアラウディは笑った。
「捕まえられるものならね。その時は好きにさせてやるよ。」
挑戦的ではなく、どちらかと言えば穏やかな笑みに、雲雀の心がざわりと揺らめく。
「…、待ちなよ!」
痛む背中を無視して慌ててアラウディを追いかけてドアを開いてみるも、そこは既に無人。
生温い夏の風がゆるりと雲雀の黒髪を揺らした。
END