くるり。
手錠が指先で回る。
くるくる回される度にそれは増え続けていく。
「ワオ、増える。」
「僕も雲の能力なんだから当然。…と、言う以前にお前が僕の真似をしてるのさ。」
「はあ?僕が?」
「これは元々僕のオリジナルの技なんだよ。お前達みたいに匣なんかに頼らなくてもね。」
雲雀がむっと膨れるのが解る。
「ほら、例えばこうして、」
アラウディの指先で回る手錠が回転するごとに明らかにサイズも変わる。
「見覚えがあるだろう?」
「まあ、ね。」
「こんな簡単なことすら、お前は匣動物にさせてる。そんなことじゃ僕に追いつけないよ。」
二周りほど大きくなった手錠の片方が雲雀の首をあっさりと捕らえた。
雲雀は弾く間もなく、冷たい鋼鉄の輪を嵌められてしまう。
「捕まえた。」
強く引かれ、踏ん張る間もなく足が動く。
「…ッ、アラウ、ディ!」
雲雀の手にも手錠。くるりと回せば同じようにサイズが変じる。
その手錠がアラウディの首を狙った。
「ふ、これで捕まえる気かい?まだ甘い。」
軽々と弾かれ、それは所在無く地に落ちる。
「だから、」
アラウディの背後から別の手錠が迫り、彼の腰にかちりと嵌った。
「覚えたよ。どうだい?」
「…自慢げだね、恭弥。」
アラウディは滅多な事では雲雀のファーストネームを呼ばない。
馬鹿らしい、と思うも機嫌が浮上してしまうのが自分でも解って、己を殴りたい気分になった。
「貴方に……褒められたら嬉しいに決まってる。」
何時まで経っても追いつく気がしない、そんな遠い存在。
「へえ、知らなかったな。」
「…何。」
「存外可愛いね。でも褒められたら、じゃなくて名前を呼ばれたらの間違いじゃないの?」
「違…ッ!もう、」
雲雀はアラウディの腰に掛けたままの手錠
「ん、こら、何するの、やめろ。」
ほんの少しだけ癖のある銀糸をくしゃくしゃと掻き混ぜた。指通りの良い髪は、一切引っ掛からない。
「止めろ、って言ってる!」
まだ腰を抱かれた状態だったアラウディは迷うことなく雲雀の脛を蹴り上げた。
「つッ!」
ほんの僅かな隙が出来た瞬間を狙って、アラウディは腰を捕らえた錠に触れる。
すると今まで硬く噛み、一切の緩みもなかったそれが音を立てて地面に落ちた。
「ふざけるな。」
アラウディは軽く手で髪を整え、冷たい視線を投げる。雲雀は痛む足を小さく振って睨み付けた。
「…本気で蹴ったね。今晩、許さないから。」
「今晩?ああそれは残念だ。僕は仕事でもう発つよ。」
「知ってる。ドイツ経由でイギリス行き、でしょ?」
「お前…」
「それ、僕と二人で行く仕事なんだよ。知らなかったの?」
「は?同行者なんか無しのはずだけど。」
「捻じ込んだに決まってる。」
「………今から変更に、」
「それも出来ないようにちゃんと上に話は通したよ。」
アラウディがあからさまに舌打ちをする。
こういう表情は珍しい。
「ふふ、いい物見せてもらった。仕事内容も僕と貴方好みだし。楽しみだな。」
「僕は最悪だ。一人で楽しもうと思ったのに…」
「いいじゃない。夜も僕がいるんだし。」
「だったら夜は僕の下で啼け。」
「お断り、順番から行けば貴方だもの。」
「…今日の仕事で仕留めた数が多いほうが上。」
「ふうん。それいいね、乗った。」
決着の行方は今晩
END