「情熱は認めるけど…それだけだな」
糸を引くような長いキスを解いて、アラウディの開口一番がこれだった。
ムッとする恭弥を可愛く思いながらも、今までどれほど人と接したことが無いのかが窺い知れた。
腰の抱き方ひとつも知らない子供。
教えるのは楽しかった。反応も愉快だし、覚えたことを必死で試そうとする姿がまた 。
それに覚えは早くて二度教えることは無い。
だが。
「キスだけは上手くならないな。喋るの苦手みたいだし、そのせいか」
「…意味が解らない」
「揶揄だから気にするな。そうだな…しながらだと教えにくいし」
「揶揄って貴方ね!」
「じゃあこうしようか」
憤慨する恭弥の腰を素早く抱いて、引き寄せる。目を逸らさず、ゆっくりと顔を傾けて。唇が触れる寸前には目を閉じ……本来ならここで唇を触れ合わせるはずなのだが。
「ん、?」
「ほら口を開けろ」
恭弥の唇にはアラウディの指が当てられていた。
「何がしたいの、訳が解らな…、ン!」
「そう、そうやってお前は口をあければいいんだよ」
話を遮られ、更には遠慮も許可も無しに指を二本突っ込まれたのだ。思い切り噛んでも構うものか。
「噛むなよ。お前にキスの仕方を教えてやるんだから」
「んんぅ?!」
「なにが、とでも言いたいのか?こうして教えてやるのが手っ取り早いだろう」
見上げるアラウディの目に嘘が無いのは解る。だが納得し辛い。
「いいからほら、ぼやっとしてないで舌を動かしな。始めはいきなり舌を入れるんじゃなくて唇を少し舐めてやるくらいの余裕があれば尚いいね」
不満げに睨みながらも言われたようにゆっくりと舌を動かして指を舐める。
「ふ…そう。ゆっくり絡めて。慌てなくていいから、もっと柔らかく。ほら、その時はこことか」
指が恭弥の舌の側面をなぞる。思わずひくりと震えた肩を見逃さない。
「くすぐったい、という事は感じやすいってこと。後はお前も好きだよね。ここ」
やわやわと舌を撫で今度は上顎をくすぐった。
「…ん、!」
「舌の方がもっと良いだろうけどね。ここも結構…」
今度は頬の内側を擦られ、体の熱が上がる。溢れる唾液を飲み込もうとして、結果アラウディの指を音を立てて吸い上げてしまった。
「…なに、そんなに舐めたいの?」
「ふ、ん、んん!」
違うと頭を緩く振ったが、指は恭弥の口からは出て行かず、先ほど教えられた感じる場所をくすぐりながらゆっくりと抽挿を繰り返す。
それはまるで 。
「く、ん!」
「痛、っ…咬むことはないだろう」
「…ふ、ぁっ…ッ、何するのさ!」
「何って教えてやってたのに」
「絶対最後の違うよね」
「さあ?」
くすくすと笑いながら、濡れた指をべろりと舐めるアラウディにかあと頬が熱くなった。
「……そう。じゃあせっかく習ったんだもの。実践させてもらうよ」
「は?」
密着したままのアラウディが身を引くよりも早く、恭弥は彼の腰を確りと捕まえ。
「まずはこうだよね」
「待て、…ん、!」
ねっとりと唇を舐められ、舌の熱さに驚く。
「ほら、開けてよ」
言うが早いか許可を得る前に恭弥の舌が滑り込んできた。
とりあえず任せていれば思ったよりも落ち着いた動きで舌を絡めてきて全体を擦り合わせる。
ここまでは教えてないなと目を閉じるとじわりと広がるのは快感。だが溺れるほどではない。
『しかしキスで感じる、ということは…僕も大概気を許しているということか』
どれほど甘やかせているのか、薄く苦笑しながら好きにさせた。
しかし、絡め咥内をなぞる恭弥の舌の動きは止まらない。
いい加減にしろと軽く肩を押してやると漸く開放された。
「ふ…、」
「…ねえ、どうだった」
「…何、どうって」
「教えた通りにしたよ。後は考えながらね」
「まあ、及第点」
「でも貴方、顔赤いよ。それに…」
ぐっと寄せられた腰。
密着していれば解るそれは。
「ほら、少し硬くなってる」
「…だから及第点って言ったんだよ。この程度なんだから」
「次は腰砕けにしてあげるよ」
「は、生意気な口…まあ楽しみにしておいてもいいかな」
恭弥の腕の中でふわりと炎が揺らいでアラウディの姿が消える。
「……ちょっと、最後のそれ…卑怯でしょ、貴方」
穏やかで、しかし艶のある笑みが焼き付いて離れなかった。
END