禍福は糾える縄の如し 2 (100Text 049:竜の牙)

「…ンは、ぁ…」
艶やかな溜息混じりの声が濡れた唇から漏れる。



素肌の胸を合わせるのはとても気持ちが良い。
「ふ…御馳走様でした、恭弥君。」
「ハ…ぁ、いつも…御馳走様、って君は言う…よね。」
「はい…。君と身を交えて、生気を頂いてますからね。」
「…何勝手に取ってるの。」

情事のあと。
未だ色香溢れ、濡れた黒曜石のような瞳で見上げられるとぞくりした。

「勝手にじゃありませんよ。それも契約の内の一つですし、何より恭弥君の体に害を及ぼすことなんて全くありませんから。」
「だからと言って…勝手に、持って行かれるのは好きじゃない…」
「10年も経った今、それを言いますか…?」

あの事故から10年が経った。
上位悪魔である自らが正式な呼び出しもなしに無理に人間界への扉を開いた。世界の理に反することだが、背に腹は変えられない。
極上の魂に『竜の牙』を持つ子供を狙う下等とは言え同胞が動くと聞けば、動かざるを得なかった。
万が一雲雀と契約できなければ、消えていたのは自分の方だ。
しかし上手い具合に間に合ったものだ。結果を全て攫うことが出来たのだから。
あとは彼が天に与えられた寿命を全うし、魂が熟成するのを待つのみ。
死するその時まで側にいた記憶と魂はどれほどの甘みを持っているのだろう。

「…ねえ、何を呆けてるのさ。」
気が付けば雲雀が自らを覗き込んでいた。
「クフフ…君の事ばかりを考えていたんですよ。」
「ふぅん…」
ゆっくりと雲雀が体を起こす。

「…骸。」
「なんです?」
「抱かせて。」
「…はぁ?!」

真っ直ぐで真っ直ぐで。
恐れを知らない魂。
よもや悪魔を抱きたいなどと考え付くとは。どれほどこの身が穢れているかなんて思いも寄らないのだろう。

「いえ、あのちょっと…って!恭弥君?!」
あっという間に上下をひっくり返され、雲雀の黒い瞳と天井を見上げることになった。
「駄目じゃないよね。それに体を繋ぐ気持ち良さを教えてくれたのは君じゃない。」
「全く…たった10年で君は可愛くなくなりましたね。」
「君らの10年とやらがどれ程の長さか見当も付かないけど、自分の杓子定規で僕を測らないでよね。」
まあいいか、と。
軽い気持ちでOKを出して六道は抵抗を止めた。


「ハ…ッ、ぅ…ぅ、く!」
「へえ、悪魔って感じやすいんだ。」
雲雀の手と唇が器用に体を這い回る。間違いなくこういう手管を教えたのは自分だ。だが工夫しているのか天性なのか。
余りに巧み過ぎてうっかり理性を飛ばしてしまいたくなる。
「君、が…上手なんです…ッッ、ぅあ!」
「それは良かったよ。」

しかし何の迷いもなく屹立を咥えられるなんて思いも寄らなかった。

「はぁ?!きょ、やく…少しは、ン!戸惑って…っぅ、く!」
「ん…?ふ、ふふふ…っ」
咥えたまま上目遣いでちらりと見上げられ、喉奥で笑われて。その度に狭く締まる喉の奥は眩暈がするほど気持ちが良い。
一旦口から離して、舌を突き出し丁寧に裏筋を舐め上げ。つるりとした先端まで行き着くとまた大きく口を開けて深く咥え込む。
時折悪戯にちゅ、と音を立ててキスをしたり。登りつめそうと思えば、体を離して唾液と先走りにべとべとに濡れた手を舐めてみせたり。
「は、ぁ…そこまで…教えてやった覚えは無い、んですけど…ね…、ふ…」
「何言ってるんだか。全部君仕込だよ。」
にやりと笑って手を舐める仕草は奔放な厭らしさを醸し、いっそその可愛らしい口に猛った物を突っ込んでやりたくもなる。
「ホントに、君には……振り回されっぱなし、ですよ…」
「ふうん、それもいいんじゃないの?どうせ僕は君のだろ。僕が死ぬまで後何年か知らないけど、退屈しなくていいじゃない。」
驚くほどストレートな愛の言葉に、六道は思考が止まりかける。
「恭弥、君……」
「その代わり、君だって僕の物なんだから。好きにさせてよね。」
そう来たか。
だがこうもやられっ放しでは今後の示しも付かないというもの。一応は自分の方が優位であることを示したい。
「解りました……なら恭弥君。…こんな半端で僕を放り出さないで…どうか最後まで…」
ある事を意図して六道は雲雀の首に手を回し、甘える仕草を見せた。
「いいよ…」
雲雀はあっさりと頷いて、きつく張り詰めたままの屹立を口に含む。
熱い咥内に迎え入れられて舌を絡ませられると見る間に頂点が望めた。
「…ぁ、ぁ!きょ…や君…っ!」
今度は焦らされず。強く吸い上げられて、迷うことなく雲雀の咥内に精を放った。
「ん!…ふ、は…」
雲雀はそれにも動じず、あっさりと全てを飲み込んで軽く口元を拭う。
「は…ハ、ァ…普通…初めて、だったら戸惑う、と思うんですけどね…飲み込むのは…」
「そんな物なの?……ん、ぅ!」
唐突に口元を押さえ、雲雀が呻いた。
ふるり、と小さく震えて。体が傾いだ所を六道は抱き留める。
「…クフフ、ちゃんと効いたようですね。少し呪を掛けさせて貰いましたよ。」
「な…に、を…」
カタカタと体の震えが止まらない雲雀の背中を優しく撫でてやりながら、謳うように六道は囁いた。
「そんな大層なものではありません。僕の精を少しばかり強めの媚薬に、ね。」
「び、やく…?」
「ええ…疼いて堪らないでしょう?」
それに頷く雲雀は未だ可愛いものだ。
素直に答えた御褒美に楽にしてやろうとベッドに押し倒そうとして。
肩に掛けた手を引かれた、と感じた次には自分がベッドに押し倒されていた。

「……随分、楽しいことしてくれるじゃない。」

ぺろりと舌なめずりする雲雀の目にはギラギラと欲が耀いていて。
「ちょ、ちょっと恭弥君?!体、重いでしょう?!」
「うん、もうどうしようもないくらい…熱くて重い。君の体で楽にさせてよね。」
慌てて逃げを打とうにも既に足は抱えられ、未だ濡れても居ない後孔に当たるのは雲雀の猛り狂う寸前の屹立。
「せ、せめて少しくらいは解してからとか思いませんか?!」
「……知らない。君が悪い。悪魔なんだから死なないでしょ?」

基本、契約主である雲雀には逆らえない。
彼が望むなら、などと思いもしたが     


このままでは死にはしないが、死ぬ目を見るのは火を見るよりも明らかで。
何とかローションを手渡すことには成功したが、暫く起き上がれなかった。





END