君のキスは抗生物質

「ふ、ふふ…ッ」
「…っ、つ、」
「今日こそ僕の勝ちだよね?アラウディ。」
「全く…呆れる執念だね。」



膝を付いたアラウディにトンファーを突きつけて、雲雀は勝ち誇る。
「ああ、今日は僕の負け。」

それには思わずふるりと震えた。
今までどれほど挑んでも敵わなかった相手。
傷をつけたい訳ではないが、本気になって掛かっていけばそれすら見えなくなって。
互いに血塗れ、なんてことは多々あったけれど勝った事は一度としてなかった。
そして今日やっと     

蟀谷から一筋の血を流し、アラウディは足を投げ出して鍛練場の床に座った。
「貴方の口から敗北宣言が聞けるなんて思いもしなかったよ。」
「…ふ、お前そんなに自分に自信がないの?」
「違う。貴方には簡単に勝てないと思ってたからね。咬み殺し足りないけど、取り敢えずは良しとするさ。」
笑いながらアラウディの投げ出された足の上に跨る。
「それで?何をする気。」
「聞かれなくても解ってるだろ。それにそういう約束したじゃない。」
「…時効だろ、そんなの。何時の話さ。」
「そんな都合がいい言葉、許さないから。」
雲雀がアラウディのネクタイを引張り、唇を寄せる。だが触れてから雲雀は慌てて身を離した。
「…貴方、」
「何?キスだけでいいの?」
「……一体何度あるのさ…」
「さあね。」
顔色も態度も何一つ変わらない。
乗り上げている足が温かいとは感じていたが、それは体を動かしたせいだと思っていた。
触るな、と動くアラウディの頭を押さえて額をこつりと合わせる。
「…貴方、絶対馬鹿だよね。」
「動ける範疇なら何てことない。」
「今すぐベッドに入りなよ。高熱がある貴方に勝ったって全く意味がない。」
「ふうん、じゃあこんな滅多にないチャンスを逃がすのかい?」
にやりとアラウディが笑む。
じっと見れば淡い色の瞳が潤んでいるようにも見えるが、それ以上の変化も見られず。
「そうだね…それなら、」




「成程、これ、で…ん、妥協案?」
「貴方を咬み殺す、のは…ふ、またでいい。今日はこれくらいで、許して、あげるよ。」
アラウディの膝に跨ったままで、二人して前立てだけを寛げて下着をずらし。
硬く立ち上がった互いの屹立を突き合せて擦っていた。
「僕を攻めるんじゃないの?…は、ァ、ちっとも、そんな感じしない、けど?」
「病人には、優しいん、だよ…ん、んぅ、」
「へえ?」
「ん、ちょ、ッと!…ッア、動かない、で…ッ!」
既に二人して濡れそぼり、厭らしい水音が鳴る中、アラウディが下から腰を突き上げるように動かし始めた。
性交を真似る動きに加え、裏筋に強く擦り付けられれば雲雀は手を動かす余裕を失う。
膝を床に付いて腰を浮かそうにもアラウディはそれを許さない。
「ほら、手がお留守。僕はあんまり良くないよ。」
「だ、ッたら…ッ、ア、止ま、って…っンう、」
「これじゃ何時もと変わらないな…」
「ムカ、つく…ッ、ハ、…ッ、ああ、でも貴方の、熱く、て…ッ」
「熱くて何時もより良い?…ふ。だったら入れて欲しいんじゃないの?」
「い、らな…ッ、い!」
「は、強情…」
揺られる度にあ、あと小さく声を上げ、アラウディの肩に頭を預けて。
雲雀はびくりと背を震わせて先に達してしまった。
「…ハ、ッ、はァ、ッ…もう、貴方…最低…」
「半端で放り出すお前の方が最低でしょ…。ほら、続き。」
少し動いただけで溢れた雲雀の精で耳を覆いたくなるような音がする。
「僕、はもう良い、から…ッはなし、て、ア、」
「今更でしょ…、ふ、」
耳元で吐息交じりの言葉に雲雀は肩を震わせた。
「…さっきより、熱いよ…?」
「だから…終らせて、早く、寝たい…」
「…やっぱり馬鹿だね、貴方…」


その後、適当に始末をして自室に向かった。
歩くアラウディの足元に揺れは一切ない。
だが先にシャワーを浴びるとバスルームに消え、物の5分もしないうちに出て来てベッドへ直行した。
まだ濡れた髪のまま寝転がるのを見咎めた雲雀が声をかけるも、答えは寝息になって返って来なかった。
「折角の勝ちもこれじゃ無効じゃない。早く本調子になって今度こそ咬み殺させなよね。」
起こさないようにそっとタオルで銀糸の水気を取り、軽いキスを唇に落として。
寒くないように室温調節をしてから一人部屋を出た。





END