RM6新刊 「黒おおかみとうさぎの魔王」 サンプル


【冒頭より】 

世界は七人の王が治めている。
それぞれの王たちの治世は長く、既に年数は千を超える。当然ではあるが人間ではなく、魔族の長も兼ねていた。
中央には大空の国。それを取り囲む六の国家で形成されている。
国家ごとに土地や気候に特色があり、それに合った民族が暮らしている。
 それぞれの国は不可侵ではあるが、国家の交流も物流もあり、概ね平和だった。


 * * * 


 雲の国の王はアラウディと言う。どの国ともこれと言った交流を持たないが、諍いを起こすこともない。しかしその風貌はどの王とも違った。
 頭からすっぽりとフードを被ったままなのだ。その顔を見たものは殆どいない。知っているのは央国・大空の王ジョットくらいだと言われている。
 だが、統治に関わる仕事には勤勉で国内は非常に平和であり、最も住みやすい国だとも言われた。




  そんな王さまと一匹の子犬が出会うところから始まった。



 〜中略〜


 ふと呼ばれた気がして、アラウディは顔を上げた。誰だろう。
「誰かいるのかい」
 返る声はない。暫くその場で足を止め、気配を探るがやはり誰もいないよう。
 気にしながらも一歩を踏み出した時。
目の前に一匹の黒狼が飛び出した。
「王様、でしょ?」
「…そうだね。この国を治めているのは僕だ」
 見ればまだ子犬の域を超えていない。大人と言うにはまだ幼かった。
「僕を覚えている?王様」
「樫の樹に預けた子だよね」
 しかし随分と幼い。普通の吸血鬼族の子でももう少し大きくなるのは早いはずだ。
 ぱたぱたと嬉しそうに揺れるしっぽは可愛らしいが。
「そうだよ。あの時はありがとう」
「覚えているの?随分とお前は小さかったのに」
「うん。はっきりと覚えてる」
 ぱたぱたぱた。
無邪気に揺れるしっぽが可愛い。思わず手を伸ばして頭を撫でた。ますますしっぽは嬉しそうに振られ、千切れてしまいそうなほどだ。
「お腹は空いてないかい」
 つい、聞いた。こうして話しているだけでもきっと魔力は満ちていくだろうに。
「王様と話をしてると力が貰えるけど…お腹はいっぱいにならないね」
 言いながらもしっぽは変わらず上機嫌。
「まあそうだろうね。ほら、少しなら咬んでいいよ」
 我ながら甘い事だ。手を差し伸べてやる
「いいの?」
 子狼は差し出した指先をそっと舐めた。遠慮を知っている賢い子供は嫌いじゃない。




〜中略、後半抜粋〜

「お前…」
「ふふ、僕を忘れた?王様」
「…子狼、だな」
「もう子供じゃないけどね、正解」
 自分に乗り上げる黒狼。美しい毛並みは月に黒々と輝いていた。
「どうしてこんな所にいる」
「貴方、城の警備見直した方がいいんじゃない?あまりにも簡単にここまで来られて、正直肩透かしだったよ」
「お前、城の…」
「誰も傷つけてないよ。美味しそうなのも居たけど、貴方ほどじゃないし、無視してきた」
 笑う狼の尻尾はかつて見た時のように上機嫌に振られていた。
「抜けてきたって?誰ひとり傷付けずに」
「そうだよ」
 そんなはずはない。それなりの手練れもいるのだから。
 考えていると。
「王様」
 ふと気が付くと鼻先が付きそうなほどに狼の顔が迫っていた。
「ねえ王様。僕、お腹が空いた」
「…は!大人の吸血鬼が何を言うの」
「だって、貴方のせいだよ」






続きは本で!(*´∀`*)







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