「ん、ちょ、っと…!ここでするつもりなの貴方!!」
「不都合はないだろ。」
「あるに決まってるでしょ?場所を考え…ッ、ん!」
雲雀の抗議は最後まで紡がれる事なく、アラウディの咥内に消えた。
「…まあ、いいけど…っ、ふ、」
軽い音を立て、唇が離れる。
雲雀は、はぁと息を吐いた。
二人して仕事明け。
アラウディと雲雀は仕事の場所こそ違ったが、内容は似たようなもの。
命の遣り取りは、相手が弱かろうと否応なしに興奮した。
アジトへ繋がる帰り道の階段で出会い、アラウディは衝動のままに雲雀を壁に押し付けて唇を奪ったのだ。
「ね、キス、もう一回。」
「さっきまで嫌がってとは思えない台詞だな。」
「貴方のキスは気持ちが良いんだ。仕方ないでしょ?」
「それは光栄。」
ふ、と笑みに象られる薄い唇に目を奪われる。
普段は冷笑しか浮かべないそこが柔らかく動くのが好きで。雲雀は齧り付くようにキスを仕掛けた。
争うように舌を絡めながら、アラウディの手は雲雀の服を乱していく。
ネクタイを外し、ボタンを千切るように引き上げ。見える鎖骨に、噛み付いた。
「…ッ、ん、痛!…噛む、な…っ」
「はっ!善くなってトリップしたらもっと噛めって言うのはお前でしょ?」
「ふん…今は舐められる方が好き、だけど?」
雲雀は自ら襟を開け、更に首を晒す。
「ねえ、どうせならここに頂戴。咬むんじゃなくて。貴方の、って印、つけてよ。」
声に馬鹿みたいに甘ったるい媚が含まれているのは解っていた。
アラウディも満更ではないようだが、恐らく煽り方を間違えた。淡い色の瞳に冷たい光が宿る。
それに気付くも、まあこれも遊びのスパイスの一つだと思えばぞくりと期待に満ちた震えが走った。
手酷く遊ばれたところで、意外と面倒見がいいアラウディはベッドに位は連れて行ってくれるだろう。
「…しかし今日はよく喋るね。塞いで上げようか?」
外した雲雀のネクタイを手にし、言葉とは裏腹な甘い笑みを見せた。
「ん…ッ、ふ、ふ…ッう、」
「どうせお前のネクタイだから好きなだけ咬んでて良いよ。」
雲雀を壁に沿わせて立たせ、アラウディはその前に跪いている。
手を使わずに舌や口だけで雲雀の屹立を舐めしゃぶり、腰を抱くように回した片手で後庭を解した。
「く…、ぅ!」
「…ん、こら。何してんの。」
雲雀の手がアラウディの銀髪を乱す。
足りない、と催促するように。
達するには足りない熱量を欲して軽く銀糸を引張った。
「物欲しそうな顔だね。」
すり、と白い太腿に頬を寄せ、アラウディは笑う。
「…今こそ咬んで欲しいんじゃないの?」
雲雀は答えない。
それを答えとし、白い太腿に歯を立てた。
「…ッん!く、んん!」
力が入って筋肉が硬く萎縮するのが伝わる。良い歯ざわり、なんて言ったら怒られそうだが。
少し強めに噛み、ついでとばかりに吸い上げて舐めた。
「ッッ、くぅ!ん!」
「…ッ、何。漏らしたのかい?」
吐き出された重い白い雫がアラウディの頬に掛かり、流れる。
ぎりぎりまで焦らされていたせいで、雲雀は強い刺激に負けて達してしまった。
「ふ…っ、ふ、ぅ…ッ、ハ、ッ…そこ、まで強く噛むこと、ないだろ…」
雲雀は自分の呼吸の邪魔をするネクタイをずらし、反論した。
「外したね?僕は許可を出してないよ。」
「していい…とも、僕は言って、な、い…ッん!」
「したら駄目とも言わなかったのはお前だよ。」
今度は反対の太腿に強く噛み付いた。先程よりは力を入れていないが、くっきりと歯形が残る。
ねっとりとそれに舌を這わせてアラウディが笑んだ。
「折角外したんだ。いい声聞かせなよね。」
「は、ァ…ッア、ァ!」
雲雀が必死にしがみ付く。
立ったまま密着し、立ちかなえの体位で大きく揺する。
抱え上げた雲雀の左足がもっと、と引き寄せるようにアラウディの足に絡んだ。
「…ふ、やっぱりそれ、外さないほうが良かったんじゃないの?」
手を離せないアラウディが雲雀の首に掛かったネクタイを視線で指す。
「あ、…ッな、に…ッ」
「声。階段中に聞こえ響いてるよ。高い声じゃないけど、嬌声だって直ぐ解る。」
「…ふ、ふふ…ッ、ここ、を通る人間、なんて少ない…ッん、んぅ、う!」
「そう、じゃあ遠慮はいらないね。」
「ッ、ア、あ!遠慮、なんて…ッあ、して、たの…っ?」
揺すり上げられる度に言葉が途切れてしまうが、アラウディには伝わったらしい。
「してたよ。証拠、見せてあげようか。」
「…ん、足と背中が、痛い…」
「鍛錬が足りてないんじゃない?」
「あんな場所の筋肉、どうやって鍛えるの…」
アラウディが軽く雲雀の身なりを整え、壁に寄り掛からせて座らせてやる。
自分も、と整えようとして動きが止まった。
「…まあ少し汚れてたから良いけど…お前のでべたべただよ。」
密着して服を着たまました性交のお陰でアラウディのスーツは雲雀の精液でべったりと汚れていた。
「僕だって…もう着たくない、よ…」
ふ、と息を吐いて目を閉じる。
中にたっぷりと吐き出されたまま直ぐにズボンを穿いた雲雀も似た様なものだ。
「こら、ここで寝るな。」
「まだ…寝て、ない……」
語尾が緩やかに吐息に溶けていく。
そのままゆらりと揺れた体を支え、アラウディは雲雀を抱き上げた。
もう雲雀は瞼を閉じたまま。
穏やかな寝息を立てていた。
「仕方ない、貸しにしておいてあげるよ。」
どんな手で返してもらおうか。
楽しげに笑いながら呟いた言葉は静寂を取り戻した踊り場に響いた。
END