本日Pockyの日にて。

「と、いうわけで。はいどうぞ。」
「…帰れ不法侵入者。」




「連れないですね。今日はポッキーの…っ、!」
口に銜え、齧りとろうとしたポッキーの先が消えてなくなった。顔面すれすれを鋭く空気を切り裂いてトンファーが通り過ぎてゆく。
「あ、危ないでしょう!」
「当たれば危なくない。」
「どういう理屈ですか、全く。何です、折角君にチョコの方を譲ったのに。」
「訳わかんないんだけど。」
骸はチョコレートコーティングの無いプリッツの方を口に銜え、恭弥に向かって、ん、と差し出したのだ。
「知らないんですか?ポッキーゲーム。」
「人の食い差しを取る馬鹿なゲームに興味はない。」
「おやおや、勝負事なのに放棄ですか?君らしくありませんね。」
「…どういうゲームだろうが、君が嬉々として言い出すゲームなんだから禄でもない事ぐらい解ってる。不戦敗でいい。」
思惑と違う、骸は溜息をついた。勝負だといえばあっさり乗ってくるかと思ったのだが、どうやら甘かったらしい。
「そうですか。なら仕方ありませんねぇ。」
箱から取り出して口にする。恭弥と食べるために少し高いのをわざわざチョイスしたのに。
ふわりとしたムースのような厚めにコーティングされたチョコレートが口に蕩ける。
「ちょっと、校内で飲食は禁止なんだけど。」
「じゃあ許可下さい。」
「だからさっさと帰れって言ってるだろ?不法侵入者。」

つれない。
すげない。

「解りましたよ、もう。今日は帰ります。」
立ち上がった骸に恭弥が言った。
「今から屋上で咬み殺させてくれるなら君のゲームに乗ってやってもいいよ。」
「え?」
「その代わり、手抜きをしてるって解った時点で金輪際、並中の敷地は踏ませないからね。」
好戦的にキラキラと輝く瞳は物騒な言葉を差し引いても有り余るほど美しい。
「いいですよ。僕が勝ったら君のほうから齧ってくださいね?」
「…何を言ってるか良く解んないけど、まあいいよ。」



「……こんなのってありませんよぉ〜」
「ふん。」
結局負けてしまった恭弥はポッキーゲームに興じることになってしまったのだが。
なんだか照れるのも馬鹿らしいとバリバリと齧っていって、終いには骸の唇も齧った。
「ああもう。キスにしては熱烈すぎですよ。血が出てるじゃないですか。」
「食べろって言ったのは君でしょ。キスなんてするつもりは毛頭ないし。そもそも今のはどっちが勝ったわけ?」
「普通は先に口を離したほうが負けですけど。」
「じゃあ僕の勝ちだね。僕が咬んだら君の方が先に離れたじゃない。」
「本当に君って人は…」
その笑顔には本当に負ける。
切れた唇をぺろりと舐めて、今度はどんな手を使って抱き締めようかと算段を始めた。





END