本日Pockyの日にて。〜2011〜


※ +10雲雀を【雲雀】、現在雲雀を【恭弥】としています。

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生徒から没収したものの中に、なぜかポッキーが妙に目立つ。
菓子が多いのはよくあることだか、なぜポッキーばかり。解らないな、と呟いたところに答えをくれたのは草壁だった。
「今日はポッキーの日なんですよ」
「ポッキーの?」
「11月11日、一をポッキーやプリッツに見立てて食品会社が決めたんです」
「ああ、そういうことか」
後は任せたよ、と一人応接室に向かった。




応接室のドアをくぐると、机の上にはなぜかポッキーとプリッツの箱が置いてある。
「…没収品?」
「違うよ、僕が置いたんだ」
気配はなかった。
真後ろから掛けられた声に恭弥は振り向こうとしたが、そこはあっさり抑え込まれる。
背中から巻きつく長い腕が振り解けない。
「離せ!」
「やあ、久しいね。元気にしてたかい」
肩越しに覗き込むのは背の高い男。それは
「……あなた、こんなところで何をしているの」
「君の顔を見に来たんだよ。それに今日はお菓子の日だし、君は…いや結構甘いものは好きだろう?ねえ僕」
敢えて最後は「僕」と呼ぶことで、己と幼い雲雀を指し示した。
「…、ない、けど」
「なに、聞こえないけど。それとも?聞こえないようにわざと言ったの?」
「ッ!嫌いじゃないって言ったんだ!」
「ふふ、そうだよね」
自分で買いに行ったことなど一切ないが、甘いものは嫌いではない。
だが、まるで軟弱動物のようで、甘味が好きと公言するのは何となく気恥ずかしかった。
「可愛いな、耳まで真っ赤なんだけど。そういえば恥ずかしいって思っている時期があったっけ」
そこは誤魔化しが一切効かない点だ。何せ10年後の自分である彼に違うと言って通用するはずもなく。
仕方なく、顔を背けるくらいしか手はなかった。
「そうだ、ねえ、これでゲームしようよ。勿論君が勝てば好きにしていいよ、僕を」
「咬み殺す」
「いいよ、存分にしていい」
「でも手抜きなんかしないでよね!本気で相手しなよ」
「それじゃあ咬み殺せないよ永遠に」
「煩い!唯々諾々と殴られるあなたなんて見たくない!それに僕は無抵抗のあなたを咬み殺したいわけじゃないんだから!」
「はいはい、その前にこれで勝負だけどね」
指さす先はポッキーの箱。
「あれで勝負?」
「うん、簡単だよ」




騙された。
恭弥はむっつりと黙り込んでソファに座っている。口にポッキーを咥えて。
「早くしてあげないと、君の唇がチョコレートまみれになるね」
目の前に座る雲雀は楽しそうだ。
もうこうなれば早く勝負なりなんなり始めて欲しい。
ん、と反対側を差し出すと笑顔をの雲雀が顔を近づけてきて。
かり、と齧られた振動が咥えた恭弥に伝わった。
「ほら、君も齧らないと僕の勝ちになっちゃうよ?」
言われて慌てて齧り始める。しかし手を使わずに齧るのは少々難しい。
恭弥に食べることを進めるために口を離した雲雀が再び齧ろうとした時。
今度は雲雀の後ろに人が立った。痩身長躯の銀髪の―――。
「…面白いゲームをしてるね」
「ちょ、ちょっと貴方…!!」
雲雀が慌てて振り返る。
「じゃあ僕も参加するよ。勝てば負けた方を好きにしていい、だっけ?」
「どうして貴方が出てくるのさ、アラウディ」
「だって勝負事だろ?面白そうじゃないか」
そう言って笑う顔は雲雀とよく似た面差しだが、全く違う。
いや、そういうことじゃない。指輪は机の上に置いたままだ。いつ出てきたかも見えなかった。
それを問おうと恭弥は。
「ねえ、ちょっと貴方…っ、ん」
齧り掛けのポッキーがポロリと落ちた。

「ふうん、君の負けだね恭弥」
「落とした方が負けなのか。じゃあお前の負けだ」
「違…っ!これは」
「負けた方を好きにしていいんだっけ」
「そうだよ…って何。貴方も参加するつもりなの?」
「当然だろ。僕は参加表明してたんだし」
「仕方ないな」
「仕方なくない!そもそも先に離した方が負けなら、あなたの負けでしょ!」
恭弥は雲雀を指さした。
「僕はルールを説明して上げたんだ。あれはノーカウント」
「ひ、卑怯だよ…!」
「残念。お前の負けは確定みたいだね、恭弥?」

眼前の大人二人がにやりと笑う。
嫌な予感だけが恭弥を包んだ。






END