「僕は反対だ」
雲雀はきっぱりと言う。
「いいえ、これはもう決めた事です。幾らヒバリさんの言うことでも…ひぃ!」
「反対と言ったら反対だ。何を考えているの、沢田綱吉」
雲雀は椅子に座り、堂々と言い放った沢田の胸座を掴んだ。途端に先程までの威厳はどこへやら、青褪めて小さく悲鳴を上げる沢田を掴み上げて激しく揺する。
「だか、ら、争いの、火種、になる、ボン、ゴレリ、ングは、破棄すべき、です…!」
がくがくと前後に激しく揺す振られても尚、沢田は意見を変えなかった。
「それじゃあ守るべき手段をなくすだけじゃないの?」
「うう…苦しかった…。そうかもしれません。けど争いの火種になるよりくらいなら守る戦いをした方がいいと思うんです」
「馬鹿らしい…僕は反対だ。破棄したいなら君たちが勝手にすればいい」
「待ってください!これは全部一斉に破棄しないと意味が……ああ、行っちゃった」
雲雀は最後まで聞くことなく部屋を後にした。
破棄なんてできるはずがない。
この指輪の中には大切な人がいる。出会って7年。余り印象の宜しくなかった出会いも今ではいい思い出だ。
何があっても破棄なんか、消すなんか…!
高ぶる感情に任せて自室のドアを閉めた。
「壊れるよ、ドア」
誰もいないはずの部屋に聞こえた声に雲雀は僅かに表情を緩めるも、また眉間に皺を寄せる。
「貴方も聞いていたんでしょ。指輪の破棄なんてくだらない」
「でもそれはボンゴレのボスが決めたことだ。聞かなくては…」
「聞けるわけないでしょう!?指輪の破棄なんて…!引いては貴方を殺すことになる!」
「殺す、ね。何度言えばいいの。僕は百年近く前に死んだただの亡霊だと」
腕を組み、壁に寄り掛かるアラウディの顔の横に手をついて、腕の中に捕えた。
「だから何?貴方はここにいる。存在してる」
「してない。亡霊だ」
「そんな訳ないでしょう?だからこうして触れて…セックスだってできる」
雲雀が肘を曲げさらにアラウディとの距離を詰める。軽く唇を触れ合わせ、そのままの距離で呟く。
「それでも僕はこの時代に存在しないよ…」
キスを受け入れアラウディは何事もないように言った。
しかし触れる温もりにどうしてそれが偽りだと言えるのか。
「何があっても…僕は嫌だ」
「…きっと無理だ。お前一人が反対してもボンゴレ自体がそういう意向だからね。逆らえないよ」
「僕はボンゴレじゃない」
「は!笑わせる。これを所持している時点でお前も歯車の一つ。嫌がったところで甘受しているじゃないか」
「違う!」
声を荒げても雲雀とて解っていた。組織に属するなんて絶対に嫌だったし、増してや人の下に付くなど。だが、この指輪を手にできるならばと受け入れたのに。
「…恭弥」
滅多に呼ばない名前を呼ばれ、雲雀は俯いた顔を上げた。
「僕は…これでいいと思っている。僕がこのままここにいてもお前に何らいい影響は与えないだろう」
「そんなこと…!」
「だけどお前は亡霊である僕に温もりをくれた。だから」
「…なに、」
それ以上言わないで、と言葉にはならなかった。
「いっそその手で殺して、僕を」
予想通りの言葉に雲雀は動くことができなかった。
執務室の入り口のドアの鍵も掛けず、雲雀はアラウディをソファに引き倒して激しく求めた。
服も碌に脱がず、ただ、感情のままに。
「あ、…、ア、ぅ、も…ッむ、り…っ!」
「…何言ってるの、実体がないって言ったのは貴方でしょ。もっと…足りないよ」
貴方を覚えておくには。
これくらいじゃ足りるはずがない。
足を抱え、膚がぶつかる音を立てて突き上げれば何度も中に放った精が零れた。ソファに染みがついても気にしない。
「は、ッあ、あく…っ、も…イ、」
「いいよ、何度でもイって…」
囁く雲雀の声も掠れている。それでも尚。
「…きょ、うや…っ」
震える腕が伸ばされる。
涙に濡れ、赤くなった眦で抱けとせがむ。
「アラウディ…っ」
互いに手を伸ばし隙間なく抱き締め合った。
数日後、再び召集があった。
「ヒバリさん、あの」
「指輪でしょ。はい」
雲雀はあっさりと差し出した。
「こ、これ…っ!ヒバリさん!」
「君が望んだことだ。これで、いいんでしょう。僕はもう行くよ」
沢田に机の上に置かれたのは潰されて砕かれたボンゴレリングだった。
「これで…いいんでしょう、アラウディ」
今は何もつけていない右手の中指に口付る。
寂しいとは口が裂けても言わないが。
「貴方に恥じない守護者にでも何でも…なってあげるよ」
頬を伝う雫を荒く袖で擦って雲雀は歩き始めた。
END