隙間風

「…ァ、ッ」
ぎしり。
壊れかけたベッドが軋む。

「寒く…ありませんか?」
「寒い、よ!」
ひゅるり、と冷たい隙間風が吹き抜けた。


「ん!!冷た…ッ!」
着込んだ雲雀の服を捲って、六道の手が忍び込んだ。
雲雀が身を竦める。
「少し寒いですけど、すぐに温かくなりますから。」
「そ、じゃない…ッ、ん、それ!!」
「どれです?」
言いつつ、六道の手が背中をするりと這い上がった。
背筋に沿って撫でられると勝手に震えが走る。
「そ、れ…ッぅん、ッ」
肩まで竦め、身を震わせる。その姿はまるで雲雀が嫌う草食動物の様。
「だからどれですか。僕には見当もつきませんがねぇ。」
雲雀の突き刺さるような視線を薄い笑顔で受け止め、六道は小さく首を傾げて見せた。
「…ふ、ッ、それ、てぶく、ろ!」
「…ああ、これですか。」
つつ、と今度は背筋を滑り降りた皮手袋越しの指。
「…ァ、ァ!」
「しかしこんなに背中が苦手でしたっけ。」
「違…ッ」
「いいですよ、このままお相手しましょうか…最後までね。」


「は、ンァ!」
ぴんと伸びた爪先が乱れたシーツを蹴る。
ぐっと蕾に押し込まれるのは、皮手袋を嵌められたままの六道の指。
予め準備されたローションは雲雀の震えながら立ち上がった性器も蕾もぬるぬるに濡らし、然したる抵抗もなく受け入れていた。
「言うほど嫌がってませんね、こちらの口は。」
「君は、いちいち、ッく、下品、なん…ッア!」
「クフフ、僕は素直に述べただけですよ。」
ナカに侵入した二本の指が広げられ、ひんやりとした空気を体の中に感じる。
普通では決してありえない感覚。
「…ぁ、く!」
「今日は声もあまり聞かせてくれませんね。そんなに意地を張らないでくださいよ。」
「う、るさ、い…っ!ん、ぅ」


壊れそうなベッドの上で六道が雲雀を揺らす度に、ぎしぎしと危なげな音を鳴らす。
「く、あ…ッあ!」
堪え切れない声を漏らしながら雲雀はぼんやりと六道を見上げた。
少し辛そうに、だがどこか楽しそうに秀逸な造りの顔を歪め、雲雀をじっと見ていた。

「恭弥、」

熱く煮えそうな頭の中がふと冷静になる。
何故、こいつにこんなことを許しているのだろう(僕が他人に触れさせるなんて)
何時、こんなにこいつの事を認めたのだろう(賺したムカつくヤツなのに)
何故、誘われるままにこんな襤褸屋に来たのだろう(隙間風が吹きまくる、しかもこんな不衛生そうな場所で)
何故こいつの手はこんなに冷たい?(別にいつも温かいイメージなんかないけど)

するりと雲雀の頬を皮手袋の指が撫でた。
更に頭がかっとなる。
それは今日この行為が始まってからずっと、冷たいくせに熱く細かく雲雀を煽り続けていたもので。

「は、ずし…ッ、て!」
「ふ…まだ拘るんですか?何故ですかねぇ…」
それでも外そうとしない六道の手を捕まえ、無理矢理にでも外そうと滅茶苦茶に引っ張った。
「ん、痛いですよ、恭弥。どうせ悪戯をするならもっと色っぽいことにしたらどうです?」
残された片手で小さく主張する胸の飾りを強く摘んでやれば、掴まれた手首は開放され、雲雀は甘く悶える。
序でとばかりに六道は指を雲雀の口に突っ込んで、遠慮なく舌や咥内を撫で回してやった。
「ん、ぐ!ぅんん!!」
呻きながらも歯を立ててくる雲雀に哂いがこみ上げる。
殆ど理性なんか残ってないくせに、どうしてこんなに負けず嫌いで、こうも自分を煽るのだろう。

指先で咥内の弱い場所を擽り、忙しなく腰を動かして、足を抱えた手は滑らかな太腿に触れるか触れないかを繰り返し。
抵抗する気持ちも、手袋に拘る心も吹き飛ばしてやる。
「ふ、く、ぅ、ぅん、ん、」
揺するリズムで漏れる声は雲雀の限界を知らせる。きつく睨んでいた目も薄く涙を溜め焦点を失い、どこか虚ろで。
自由気侭な雲雀を捕まえたと思わせる瞬間だった。
「は、ぁ…可愛い恭弥。これで満足ですか?」
雲雀の口から指を抜き、唾液に湿った皮手袋の指先を噛んで外してみせた。

「…ん、」
それを見て雲雀は満足そうに微笑んで、手を伸ばした。
六道は思わず思わず動きを止めてしまう。いままでこんなに素直に笑みを向けられたことも、求めるように手を伸ばされたこともなかったから。
「きょ、や…くん…」
「む…くろ、」

求められるままに細い体を抱き寄せ、限界を訴える雲雀を宥め賺し。長い時間繋がることを強要してしまった。



疲れ切って、泥のように眠り続ける雲雀の黒髪を撫で、六道は瞑目する。
すると今まで真っ白かった六道の手の甲に醜い火傷の痕が現れた。
嘗て名前も無く、番号で呼ばれ。組織の所有物を現す証拠の刺青を自ら焼いた跡だった。
「…見せたく、ないじゃないですか…こんな物。」
隠し通すつもりではあるが、相手が雲雀である限り無理だとは思っている。

だけどまだ今は。




END