「…あ、」 アラウディがふと声を上げた。 「どうしたの」 「…タイムリミット」 「…は?」 見ればアラウディの指先が風景に溶けていた。 「な、なにそれ…っ!」 「まあ元々僕はこの時代に居ない亡霊だし、こういう事もあるだろうさ」 冷静に己の指を見つめるアラウディに怒りを覚えた。 「ねえ、どうして貴方そんなに冷静なの?消えてもいいの?」 「良くはないけど、どうしようもないだろ」 言う間にも彼の白い手は透けていく。 「僕はどうすればいいの?炎が足りないの?ねえ、答えてよ」 「解らないな。僕自身どうしてこの時代にいるのかも解らなかったし。いつかこうして消える運命、」 「そんなもの知らない!勝手に現れて勝手に消えないで!」 雲雀がアラウディの消え行く手を力強く握った。 「…ん、痛いよ」 「消えて行ってるのに、痛いの?」 「…ねえ、そんな顔するな」 「何、が」 「泣きそう」 「泣いてない」 「もう泣いてる」 「泣いてない」 ぽろりと雲雀の頬を雫が落ちる。 「ねえ、お願い行かないで」 「僕も、行きたくはないよ、恭弥」 「…アラウディ」 口にする名が更に涙を呼んで。 「アラウ、ディ」 「行きたくは、なかったな」 「じゃあ行かないで!」 「僕の意思じゃない」 「もっと確りそう思いなよ。そうすれば」 「行かないですむかも、って?それは無理だよ、きっと」 握っていた手が 空を掴む。 「あ、」 「消えた、ね。これで抱きしめられない」 「僕が、できる」 回された腕が温かい。 アラウディは雲雀の肩に頭を預けて目を閉じた。 どうか消えゆく最後は この目でありますように 願わくば最期まで 彼の顔が見えていますように。 |
たとえばいま消えてしまっても、 きみは泣いてくれるだろうか |