あの人が消えた。
僕を残して。





それから
何事もなく日は過ぎていった。
思っていたよりも普通に。何事もなく。
彼がいない。
それだけが違う。
後は
何にも変わらない。






「ヒバリさん。」
「…何。」
「いえ、あの…お仕事の依頼ですけど…構いませんか?」
沢田がそっと書類を差し出した。
「僕に?いいけど。どっちに依頼さ。」
雲雀が言う 『どっち』 は 『風紀財団』 か 『守護者』 かを問うている。
「あ、えーと…雲の守護者として、です。」
「ふうん…」
沢田は見逃さなかった。雲雀の表情が微かに曇ったのを。
最近、姿を見せない初代の雲と関わりの深い彼。
やはり何かあったのだろう、と推測するのは簡単だった。
「簡単なんですけど、ボンゴレ傘下でありながら…」
「ああ、君の気に入らない事をしたから制裁か。今の僕に行かせたら、間違いなく壊滅させてしまいそうだけどいいの?」
「はい、よろしくお願いします。」
あっさりと沢田は答えた。
彼の鬱積を少しでも晴らす事ができるなら、裏切り行為をちらつかせる傘下のファミリーには犠牲になってもらって丁度いいくらいだと考えていた。ああ言う輩に恩情は不要。それはボスの肩書きを与えられてから身についた裏社会の処世術といったところか。。
そして答えは当然。
「そう、じゃあ引き受けてあげる。」






何も考えずに動ける破壊活動。
そう思って引き受けたが、案外面白くなかった。
何せ歯応えがなさ過ぎる。
「面白くないな、これじゃ弱いもの苛めだ。」
こんなことじゃ憂さが晴れないどころか、苛々は増すばかり。帰ったら沢田を血祭りに上げれば少しは胸がすくだろうか。
それでも最後の抵抗とばかりに降り注ぐような銃弾の雨を全てトンファーで弾きながら、ふと目に入ったのは二発の銃弾。

あの弾とあの弾を弾かなかったら、間違いなく急所に ―――。

雲雀のトンファーは体の横に下ろされ。
二発の銃弾は雲雀の体を撃ち抜いた。





気がつけば、随分と薄暗いところにいた。
誰一人いない。
人影なども勿論なくて、一切の音はなく。
聞こえるのは己の呼吸音のみ。
だが雲雀は孤独は恐れなかった。怯える物ではなく、どちらかと言えば好むものだ。
「…うん、静か」
自分の声が薄っすらと木霊と共に響いた。
「死後の世界って殺風景だな。まあ華やかな場所に逝けるとは思ってなかったけど…」
  『勝手な事するからだろ。まだ来るべきじゃないのに』
声だけが降り注ぐ。
「ッッ!ねえ、いるの?……アラウディ!」
それには応えはなく。
「姿くらい見せなよ…」
  『そのためにあの程度の銃弾を受けたのは知ってるよ。見てたからね。』
「貴方からは見えてるのに…僕には見えないなんてずるいよ。」
  『言ったろ。僕は亡霊なんだから。』
「僕も言ったよ、そんなの関係ないって。貴方は間違いなく僕の側に居たじゃないか!」
それでもアラウディは姿を見せない。

「今度あんな鈍らをわざと受けるようなことをしてみなよ。許さない。」

背後に明らかな気配が降り立った。
振り向こうとした雲雀に肩に手が置かれる。彼らしい微かに暖かい手。
「アラウディ…、僕は、」
「待ってて欲しいなら、僕の納得する死に様を見せな。」
「アラウディ…っ!」
「ほら、さっさと帰れ。」
思い切り背中を蹴られた。
彼らしい送り方だと思いながら無理矢理にでも振り向いた。

そうしてやっと見えたのは、
寂しげな
微苦笑。






目が覚めて、一番に見えたのは真っ白い天井だった。直ぐに病院だと解る。
こんな物じゃなくてもっとあの人を見ていたかったけれど。
今度こそ迎え入れてもらえるよう、己を貫こうと雲雀は再び目を閉じた。





END





たとえばいま側にいっても、      
きみは怒らないだろうか