バイオリン弾きの災日 2
written by 遠藤豆サマ


国立音楽団の定期コンサート当日。エドワードは、たった一人で控え室に居た。開演まで一時間を切り、楽団員たちはチューニング(音合わせ)やセッティングに走り回っている。
「いよいよ…」
ごくりと、唾を飲み込んだ。今日の演目の中で、彼がソロを任されているのは二曲―天才バイオリニストに対してたった二曲と言うべきか、15歳の少年に二曲もと言うべきか―。二曲程度のソロをやりこなす自信がない訳ではない。
が、心配事がある。
つい昨日、エドワードのバイオリンの弦を切った犯人が何者か、ということだ。
エドワードに恨みを持つ者に、心当たりがない訳でない。楽団員の中に、エドワードを妬んでいる者が多いことも知っている。
それでも、同楽団の者ならば心配はない。
恐れているのは、エドワードを引き抜こうと躍起になっている他楽団の者が、コンサートの失敗を狙って嫌がらせをした、という可能性だ。
「絶対に邪魔はさせない。……バイオリンを託してくれた、マスタングさんのためにも」
昨日ロイから借りたバイオリンは、飴色に光っている。暫く使っていなかった割には、手入れの行き届いたバイオリンだ。
「エドワード、入るぜ」
ノックと同時に扉が開き、ハボックが入ってきた。彼は、楽団員内で数少ないエドワードの味方だった。
「そろそろ時間?」
「あぁ。……お前、昼飯食わなかったのか?」
注文していた弁当が、手をつけられずに残っているのがハボックの目に留まる。
「バレた?なんか、食欲なくてさ…」
「馬鹿、ちゃんと食っとけよ。これから二時間は舞台の上なんだぞ?途中で倒れるのが関の山だ。ほら、まだ少しくらいなら時間あるから」
「大丈夫だから。それより俺、まだチューニングが…」
と、立ち上がろうとした時に、ノックの音が室内に響いた。
「どうぞ」
開いた扉の向うに居たのは、ロイだった。
「エドワード…あぁ、ハボックもここに居たのか。そろそろ時間じゃないのか?」
「はい、今行きます」
エドワードがバイオリンを持ち上げたが、ハボックが彼の腕を掴んで椅子の上に引き戻す。
「マスタングさん、すんませんけど、こいつちょっと遅れます。ほら、エドワード」
「な…なに勝手に。俺は大丈夫だって言ってるだろ」
「大丈夫じゃねぇ。いいから、飯食え。それとも弁当とか味の濃いのは無理か?なら…」
「エドワード…やっぱり、食べてなかったのかい?」
二人の会話を聞いて、ロイが溜め息をついた。
「そんなことだろうとは思ったけれどね」
と、コンビニの袋が差し出される。
「これなら食べられるかい?」
「え…」
「昨日あんな事があったからね。心配して、昼食もロクに採っていないのではないかとは思っていたんだ。ほら、急ぎなさい」
中に入っていたのは、最近CMでよく見かける、エネルギー補給のゼリー飲料だった。
「ありがとう…ございます…」
自分の行動を予測されたことを知り、エドワードは俯いた。成功させると断言したにも関わらず、心配を掛けた事が申し訳なく、恥ずかしかった。
「ハボック、君は先に行っていなさい」
「いえ、俺はエドワードについてます。マスタングさんこそ、大丈夫なんスか?」
「問題ない。……エドワード、ついでにこれも食べられるか?」
振り向いて、ポケットから取り出したのは固形の栄養バランス食品。
「私の昼食の残りだがね。無理だったら構わないが、出来れば固形の物もちゃんと食べたほうがいい」
「あ、はい。…いただきます」
「マスタングさん。昨日の事って、なんですか?」
エドワードを眺めながら、ハボックが尋ねた。
「大したことではない」
「このエドワードが飯も食えなくなるほどのことが、大したことではない、と?」
「……少なくとも、君が心配することではない、ということだ」
「…………」
「…二人とも」
「「なんだ?エドワード」」
「ホークアイさんが…」
いつの間にか楽団のマネージャーが、部屋の前に立っていた。
「―…マスタングさん、照明の確認は終わったんですか?招待客の名簿の確認は?ハボックくん、あなたチューニングは終わったの?舞台のセッティングは?」
「「………」」
二人は黙って目を逸らした。
「エドワードくんは…あぁ、食事中?」
「はい」
「そう…まだ食べてなかったのね。大丈夫なの?」
「大丈夫です」
「なら良いのだけど…。マスタングさん、エドワードくんには私が付き添います」
「は、はい」
「だから、まだ終わっていない仕事を終わらせてきて下さい」
「はい」
ロイは、そそくさと部屋を出て行った。
「ハボックくん、あなたも。フュリーくんが焦ってたわよ」
「はい」
ハボックも、慌てて部屋を出た。
「まったく…目を離すと、すぐこれなんだから」
「あの、ホークアイさん…」
「なに?」
「俺はいいんですか?」
「大丈夫よ。あなたなら、チューニングにもそれほど時間はかからないでしょうし。なにより、ソロ奏者が舞台上で倒れたら困ってしまうでしょう?」
「…すみません」
責任の重い役割を任せられているのだから、自分のコンディションには気を遣う義務があることに気づいた。人に心配をかけるだけではない。それこそ、コンサートを失敗に導いてしまう可能性があったのだ。
「謝る事ではないわ。人間だもの。緊張もするし、心配することもあるでしょう?安心してちょうだい。邪魔なんてさせないわ。……バイオリンの弦を切った犯人も、実は目星がついているの」
「…え?」
元々大きな目を更に大きくして、エドワードはホークアイを見返した。
「まだ、誰だと断言することはできないけれどね」
と、唇の前に人さし指。
「ただ、これだけは約束する。あなたも、今回のコンサートも、絶対に私が守って見せるわ」
「ホークアイさん…」
「だから、あなたはなにも気にしなくていいの。自分の演奏のことだけを考えてちょうだい」
「ありがとうございます…っ」
「さぁ、食べ終わったなら、急いで舞台へ。チューニング、もうすぐ全員終わるわよ?」
「はい」

緞帳の降りた舞台の上では、団員たちが最後のチューニングをしていた。
―開演のブザーが鳴るまで、あと10分を切った。





いよいよ始まった大きな舞台。エドワードは無事にソロを終えることができるのか。
ホークアイの掴んだ犯人の情報とは!?
以下、次号!



こりてない萩乃の挿絵とか見てみる?

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続き続き続き〜〜〜!!!
こんな立て続けに頂いちゃいましたよオーケストラパロSS!!!
しかも無理言ってロイVSハボ→エド風味!!!
またしても血が足りないったらありゃしない!!!
こうなったら・・・次の分もそうとう楽しみにとりますぜ、オヤビン!!!

本当に本当にありがとうです〜vvv