彼方は光。

自分には到底手のとどかない、

高嶺の、光。
Potassium
どんっ。

鈍い音が廊下に響いた。

どうやら人がぶつかった音のようである。

――――――背の高い青年と、背の低い少年との。

「ってー・・・・・!」

背の低い少年、エドワード・エルリックは余程当たり所が悪かったらしく、顔を両の手で覆い、しゃがみこんでしまった。

其の様子があまりに痛々しく見えたので、背の高い青年、ハボックはとりあえず謝ることにする。

「あ、わりぃ大将
え〜っと・・・・・大丈夫か?」

「大丈夫くない」

即答で返事が返ってきた。

と言う事は大丈夫ということである。

必死に背の高いハボックを睨もうと顔を上げるエドは、小動物のようで非常に可愛い。

・・・・・・まぁ彼の場合、それだけでない欲目も含まれていたりするのだが。

思わず苦笑をもらしてしまったハボックは、エドに更なる不審な目に睨まれることとなった。


彼、ハボックが其れに最初に気づいたのはつい最近のことである。

ふとした瞬間に気づいてしまったのだ。

あの必死に運命を生きる、あの少年が好きだと言う事を。

そして気づいてしまったハボックであるが、エドを困らせたくないという事で、敢えて今までどおり接している。

そう、此処が重要だ、『敢えて』。


不意に、エドが顔を上げた。

そして、ハボックの目に映ったのは、唇、の少し上にある赤いアト。

「・・・・・・大将、ソレ、どうした」

「っ!」

其の瞬間、エドが真っ赤になって再び俯いてしまった。

(・・・・・・まさか)

先程エドが吸い込まれていったのは大佐の執務室。

と言う事は、言わずとも誰の仕業かは分かるというものだ。

それこそ、『火を見るよりも明らか』に。

「・・・・・・ヤラレタ。」

「・・・・・・は?」

無意識のうちに零れた呟きに、エドは心底不思議そうな目をハボックに向けた。


――――――自分はエドの為に・・・・・・。


其処まで考えて、己の卑怯さに思い当たる。

人は結局の処、自分の為にしか行動出来ない。

相手に尽したいと思っても、それは実は尽した相手が喜んでくれるのを『自分が見たい』からに過ぎないのである。


――――――俺は、自分に勇気が無いのを、理由を付ける事で正当化しようとしていたんだ。


敢えて手を出さない何てウソ。

ただ、この関係を崩したくなかったのだ、本当は。

気づいてしまえばなんと言うこともない、だが、超えられない。


「少尉?どうしたんだ、ぼーっとしてるぜ?」

「・・・・・・わり」

痺れを切らしたエドが不審気に聞いてきた。

其の時ハボックの目に映ったのは、先程のアト。


無意識のうちに、手は伸びていた。

忌まわしいアトを、自らの手で消してしまいたい。

あと数センチで頬に触れる。

「兄さーん!」

「あ、アル!今行くー!」

あと数センチの距離。

一瞬にして、果ての無い距離へ。

「じゃあな、少尉!
また来るからサボるんじゃねぇぞ!」

「あ・おい・・・・・・っ」

瞬く間にエドは廊下を駆けていく。

姿が見えなくなると、そういやぁ廊下って走ったらいけないんだよな、ということを思い出した。

そして今まで所在無げに翳されていた手をついに下ろした。

ぎゅっと握った後、恐る恐るひらいてみる。

其処にあったのは汗の滲んだ見慣れた己の手。

何となく窓からの日差しが眩しく思え、目を細めて外を見た。

すると先程まで触れられる位置にいた少年が、眩い笑顔と鋼の弟と共に軍から出て行くのが見える。

ハボックは一層目を眇めた。


そう、眩しかったのは太陽ではなく、彼。
彼方のくれる木漏れ日が気持ちよさ過ぎて

目を覚ます事が出来ません

私が目を覚ました時

彼方は闇へと其の身を

攫われているかもしれないのに
今回はハボックさんでした。
この人・・・なんだか合うイメージが無くって、無理やりPotassium、草木の灰の灰つながりにしちまいました★(ヲイ)

本当の気持ちに気づいたのは大佐より先。
でも手は全く出せない。
というのがこの中でのハボさんのイメージですね。
兄弟のような心地よい関係から抜け出すのが怖いみたいです。
で、文中での赤いアトは、エドがずっとこすり続けていた為に出来たものです。
大佐哀れ(笑)
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