彼方は光。

決して弱くなく、―――強くもない光。

其の光に、私は触れたい。
Silicon
「よっ!たーいさ、珍しく仕事してんだってな!」

「鋼のか・・・。
どうしたんだい?私が恋しくなったのかね?」

「はぁ?大佐が仕事に追われてるっているから、からかいにきたんじゃん。」

「・・・・・・・・・・」

非常に、つれない。

上官であるロイの部屋にノック無しで入り、そんなことをのたまった少年は、部屋の主の許可を取るでもなく来客用のソファに身を沈めた。

只今の時刻は午後1時30分を越えたところ。

昼食後の一服タイムの口実に、少年、エドワードとの会話をロイは選んだ。

「?
おい大佐、机の上の書類、雪崩起こしてるけど。」

何事も無かったかのように二人分のコーヒーを入れ始めたロイを怪訝そうに見ながらエドが聞いてきた。

「いや何、やはり焔を湛えた瞳が素敵!と女性から褒められる身としては、眼鏡は避けたいと思ってね。
世の女性を悲しませない為の、タイヘン有意義な休憩さ。
ああ、勿論私は眼鏡も似合ってしまうと思うがね。」

「・・・・・・さよか」

半眼でロイをねめつけつつも、入れてもらったコーヒーを有り難く頂戴する。

インスタントの其れは風味を楽しむには適さないが、息抜きには最適である。

「で、此処に来た目的は何だね、鋼の」

単刀直入にロイが聴く。

まさかこの頭の良い少年が、本当に何の理由も無く、ロイの執務室に来るとは考えがたい。

少しの時間でも見つけられれば、直ぐに図書館へ潜ってしまうのだ。

と、考えてロイは一寸寂しくなってきた。

・・・・・自分はこの少年を気に入っているのに、如何せん一方通行な気がする。

しょうがない、一方通行なのだから。

ロイはこの少年が気に入っていた。

頭も良く、自分と言うものを知り、しかし己の限界は知らず、何処までも茨の道を裸足で走る。

其の強さに感嘆し、そして時に己をも傷つける刃の煌きに目を細める。

この少年の成長を楽しみにしていたし、同時に手助けが出来る自分が少し誇らしかった。

そして、出来るならばずっと傍で―――――

「何、大佐、じろじろ見て。」

「あ、いや・・・・・」

思考の海に沈んでいた時、ずっとエドの事を直視していたらしい。

何やら思考が暴走していたような気もするが、其処は敢えて見ない振りをする。

流石に居心地が悪くて、ロイはまだ少し熱いコーヒーを啜った。

其の間にエドは頬を擦る。

すると何処からかパンくずが降ってきたようで、エドはどうやらコレが頬に付いていた所為で大佐に見られていたと勝手に解釈したようだ。

「して、用とは。」

気を取り直してエドに訊く。

「あー、そうそう。
俺ら明々後日ぐらいに此処出ようと思うんだよね。」

「ほう、そうか。
今度は何処へ足を伸ばすのだね。」

「ん〜・・・・・、西部、かな?
今回は此処でそんなに収穫無かったから、歩きながら探そうと思ってさ。」

「そうか、西部か・・・。」

何となく静寂が降りる。

明日はお互いに居られるのか分からない存在。

フと、ロイはこのまま目の前の少年を自らの元に押し留めたい衝動に駆られた。

其れは彼の目的の成就を願う身としては、些か似つかわしくない衝動であった。

(・・・・・・?)

思わず自覚してしまった感情は膨らみ続ける。

ロイは今まで感じることの無かった衝動に動揺しながらも、其の思いに動かされるまま、エドに手を伸ばそうとした。

しかし、既に其処に少年の姿は無く。

怪訝そうに部屋を見渡せば。

息が、

止まった。

さらさらと風に揺れる金糸。

其れを引き立てる少し白めの肌。

そして何より、今まで全てを、そう、全てを見てきたであろう、その、金。

眩い太陽が、其処には居た。


呆然と、ロイは其の光景に魅入っていた。

エドは窓の前で、先ほどこそげ落としたパンくずに集まってくる鳥たちと戯れている。

たったそれだけのことなのに、其の光景が至上の絵画のようにロイには映った。

そして唐突に、先ほど自らを悩ませた衝動に、名前が付けられた気がした。

おもむろに、ロイが動く。

その思いに付けられた名を、確かめる為に。

静かに一歩一歩、ゆっくりと。

「・・・・・・?たい


鳥たちが、一斉に空へと帰っていった。


「?!
なっ!ななな、何・・・・・?!」

己の口に両手を当てて、エドはあわあわと赤くなった。

・・・・・・正確に言えば、口の少し上だが。

そしてロイは、狼狽するエドを見て、クスリと笑う。

「〜〜〜〜〜ッ!」

其の嫌味な笑みに多大なムカつきを覚え無いものは居ないだろう。

エドは羞恥と怒りに我慢ならず、顔を赤らめたまま盛大な音と共にドアを開いた。

「俺で遊んでんじゃねぇ!この変態無能大佐ッッ!」

不敬罪として本来なら軍法会議物の土産を残し、エドは彼らしく派手に退場した。

残されたのは、肩を震わせて笑いに堪える大佐のみ。

暫くそうして地震の如く肩を震わせていた彼だが、エドの喚きが聞こえなくなった頃、ついに耐え切れず声を上げて笑い始めてしまった。


確かに名づけられた思いに、全身が歓喜の悲鳴を上げる。

そう、何故気づけなかったのか。

仕方が無い、こんなに狂おしいほどの衝動に出会ったのは初めてだったのだから。

さて、どうしたものか。
蝋で作られた羽は、彼方に焼かれてしまいました。

ああ、

ほら。

翼が融けてしまったから

もう彼方の元から飛び立てない。
はい、そんなんで自分の思いを自覚したロイさんでしたー。
Siliconとは即ちケイ素の事。
コレの語源は火打石から来ているそうですね。
彼にぴったりかなとか★

因みにAurumとはAu、金の事で、『暁の女神』という意味です。
いや、『太陽』って意味のHeliumでも良かったんだけど、暁の女神の方がかっこいいし・・・(ヲイ)
もうお分かりですね、元素記号シリーズです(笑)
さて、次はPotassium、またの名をKalium。そうカリウムで行きます。
さて、だれでしょう〜♪
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