02:家族



世の中には、適材適所という言葉がございまして。 
 
「ほらほら、ヴェイグ。ネクタイ曲がってんぞ?」 
「あ、ああ・・・。」 
 
トーストにベーコンに、ふわふわのスクランブルエッグ。 
それから寝起きの胃に優しそうな、琥珀色のスープ。 
すべてが美味しそうな湯気をたてています。 
それはありそうで、なかなかない、豪華で幸せな朝の風景でした。 
 
そんな絵の中で、あむあむと美味しそうにトーストをかじっているのは、スーツをピシっと着込んだ奥さんです。 
そしてそんな奥さんのネクタイのねじれを気にしているのは、空色のエプロンをつけた旦那さま。 
 
世の中には、適材適所という言葉がございまして。 
 
「ティ、ティトレイ。そのくらい、自分で直せる!」 
「いいからいいから。ほら、今日はちょっと時間が押してるぞ?俺が直してやるからヴェイグは朝飯食っちまえよ。」 
 
それは画期的な提案に見えましたが、奥さんに言わせればありえない提案でした。 
奥さんの目の前には、嬉しそうにネクタイを直し始めた旦那さまの顔が、どどん、とあります。 
そんななかでご飯を食べられるような図太い神経の人間がいたら、是非お目にかかりたい。 
奥さんはそう思い、ため息を一つついて、朝ごはんを完食する事を諦めました。 
 
時計が奥さんの出勤時間を告げます。 
奥さんはやり手の営業マンでした。 
と言うのも、奥さんはたいそう美人さんでしたので、取引先が我先にとホイホイ契約してくれたからです。 
奥さんはなんだか納得いかない気もしましたが、旦那さまにこれも才能のうち、と言われてはしぶしぶ納得するしかありませんでした。 
 
「お、ちょっと待てヴェイグ。ティトレイ様特製愛夫弁当を忘れてるぜ!」 
「!? ……ああ。」 
 
実は奥さんは、ワザと忘れていました。 
それというのも、旦那さんの料理の腕は確かで、お弁当も最高に美味しかったのですが、毎回必ず桜色のでんぶや海苔で『LOVE』と大きく書いてあるのが恥ずかしかったからです。 
しかし旦那さんに気づかれてしまっては、もっていくしかありません。 
 
「……行ってくる。」 
「おう!今日も頑張ってな!セクハラ上司に気をつけろよ!」 
 
こうして今日も一日が始まります。 
料理上手な旦那さんと、仕事命の奥さんと。 
 
世の中には、適材適所という言葉がありまして。