03:歳



幼馴染。 
腐れ縁。 
友達。 
親友。 
俺は、そのどれでもないものになりたいんだ。 
 
それってワガママ? 
 
「よう、ヴェイグ!迎えに来たぜー、一緒に帰ろ!」 
「……おまえの高校は、確かここから電車で2駅くらいあったはずだが。」 
「……ばれた?」 
 
一応しらばっくれてみる。 
するとヴェイグは呆れたように息を一つ吐いて、帰り支度を始めた。 
一緒に帰るお許しが出た、と言うわけである。 
 
ヴェイグと俺、ティトレイ・クロウは幼馴染で腐れ縁で親友だ。――今のところ。 
家ははす向かいで、幼稚園から中学まで一緒。 
高校は俺が公立、ヴェイグが私立と分かれたが、ほぼ毎日、俺がこうして迎えに来ていた。 
そりゃーもう、3年間、甲斐甲斐しく。 
お蔭でヴェイグのクラスの連中にも顔が知られていて、ブレザーの中に1人ガクランでも、あまり気にされる様子はない。 
むしろフレンドリーに『ヴェイグの旦那が迎えに来たぞ!』と、からかわれる位だ(ちょっと嬉しい) 
 
ヴェイグが机にかけられた革のかばんを取る為に、少しかがむ。 
背中で編まれている長い綺麗な銀髪が、するりと脇へ落ちる。 
 
その瞬間、何処からともなく――いや、訂正しよう。クラス中から、息を呑む、『ごきゅり』という音がした。 
三つ編みが脇へ落ちたことにより、なんとも言えない綺麗で……艶かしいうなじがみえてしまったのだ。 
 
そうなんです、ヴェイグってばモテルンデス(しかも男女問わず) 
 
俺が毎日のように迎えに来るのも、まあ一緒に居たいからという理由が大多数を占めるが、この無防備な友人を守る為でもあるのだ。 
本当に、ヴェイグは無自覚に色気を振りまく。 
小さい頃から誘拐犯さんやら変質者さんやら、自慢じゃないが掃いて捨てるほど居た。 
そんな事情から、ヴェイグは武術をかじっていて(俺も習ってたけどな)これが相当強いのだが、やはり――好きな人は守ってやりたいじゃないか。 
 
(うなじを見てしまった余波で)ぼーっとヴェイグを見ていた俺は、突然の彼の呼びかけで覚醒した。 
 
「仕度はすんだぞ。」 
「あ、ああ。そんじゃ帰ろうぜ〜!」 
「そうだな、早く帰らないと。先生に見つかるとまた何か言われる。」 
「……そんなじとっとした目で見たって、迎えに来るのやめないからな。」 
 
なんだっけ、生物のサレせんせーだっけ? 
前見つかって、散々な目にあった。 
しかもヴェイグをお仕置きだとかいって準備室に連れ込もうとするもんだから、騒ぎはますますでかくなったっけ。 
ヴェイグの目は、そんなことはもううんざりだ、という風に俺を睨みつけてくる。 
でもよ、俺、迎えに来なかったら……その先生とかがさ、ほら、色々と……ヴェイグの危機なんじゃねえの? 
 
絶対に譲らない、と力を込めてヴェイグを睨み返せば、ヴェイグはふっと力を抜いた。 
そして。 
 
「まあ、卒業まであと少しだからな。」 
 
ふわり、と笑った。 
――それは、反則なんじゃねえの? 
ほら、近くで見ちまったクラスメイト、何人か倒れたぞ。 
そんな微笑が俺に向けられたものだなんで……俺はちょっと優越感に浸った。 
あんな綺麗な笑顔を向けてもらえるのは、ヴェイグの義理の妹のクレアちゃんと、そのご両親と、ポプラおばさんと、俺の姉貴のセレーナくらいじゃなかろうか。 
……っていうかこれ、ヴェイグの友好範囲の全てだな。 
昔から人付き合いが苦手なヤツだったからなあ・・・。 
 
そんな、あまりの不意打ちに現実逃避してしまった俺を置いて、ヴェイグはさっさと歩き出した。 
 
「お、おい!ちょっと待てって!」 
 
あわてて追いかければ、教室を出たところでちゃんと待っていてくれた。 
無愛想な外見から誤解されがちだが、ヴェイグはとっても優しい人間なんだよな。 
小さい頃から変わらないヴェイグに、俺は嬉しくなりながら隣に並ぶ。 
 
二人並んで、いつもの帰り道。 
壊したくて、壊せない日常。