12:料理



オレは、今ほどに自分の料理の腕を恨んだことはない。 
 
 
「あ、ヴェイグ君、オーダー行ってくれる?」 
「はい」 
 
オレたちは今、ミナールにいる。 
そして例によって例の如く、飲み屋のバーテンが変な事を言い出し、仕事を変わりにしているのだが。 
 
なんと今日は、厨房までもがおかしいらしい。 
 
いつもならヴェイグの眩しいバーテン姿を、店の片隅からニコニコご機嫌に見ているか、一緒にバーテンとして働いているのだが、今日は少し違う。 
 
回想開始↓ 
「ききききき、きみぃっ!!!」 
「なっ?!なんだ?!どうしたんだ?!」 
「君、噂によると料理できるらしいじゃないかいっ?!」 
「へ?!あ、ああ、自分で言うのもなんだが、料理の腕は5つ星だぜっ!」 
「当店は君のような人材を待っていたぁあっ!!!」 
「……へ?」 
 
回想終了。 
 
つまり、料理の腕がプロ級のオレは(自分で言うか)、今日だけ料理人として雇われたのだ。 
まあ、それはいい。給料も弾んでくれているからな。 
問題は、あれだ。あれ。 
 
「いらっしゃいませ、御注文はお決まりですか」 
ニッコリ。 
 
ぐはあっ!!! 
何を隠そう、ヴェイグの笑顔を(営業スマイルだが)、こんなに遠い場所(厨房)からしか見れないのが辛いのだ! 
あぁっ!ほんの少し目元を和ませる程度の笑顔が、初日の出よりも眩しいぜ! 
そしてそれを見た客どものいやらしい視線といったら…! 
くそっ!そこのじじぃっ!いい年こいて顔を赤らめたりしてんじゃねぇっ! 
あぁっ!そこのガラの悪そうなおまえっ!ねとつくような気色悪い目でヴェイグを見るな〜〜〜〜っ!!! 
 
…ティトレイの苦労は、その日の営業時間が終わるまで続いた。