私は一体何がしたい。
 御堂はそう自分に問いかけた。
 だが、答えは出ない。
 憎いのか、貶めたいのか、それとも、もっと違う感情が彼に対してあるのか。
 最初は鼻持ちならない人間だと思った。
 確立した自己と自信を持つ自分を凌駕するような、冷めた鋭い目線と慇懃ともとれる、けれど、圧倒的に自分の優位を確信したあの態度。
 あの態度が御堂を狂わせた。
 自分の誇りにかけて、跪かせ、許しを乞わせ、そして、自分を認めさせたかった。
 ある意味、それは子供じみた行為だったかもしれない。
 接待、などというものを彼に持ちかけたのも、今では何故そうしたのさえわからないほどだ。
 事実、接してみて判った事は、彼は有能でありながら、御堂が苛立つほど、卑屈とも取れるほど謙虚な態度を見せる人間だった。
 もっと自信を持てと言いたくなるほど、克哉は控えめすぎるほど控えめだった。
 それでいて、身体を交わす時は人が変わったように大胆になる。
 御堂は、車のハンドルを切りながら、彼を、佐伯克哉という人間との関係にかすかな苛立ちを覚えた。
 私は一体どうしたい。
 私にとって、佐伯克哉という人間は一体何なのか。
 その答えは、まだ御堂の心の内からあふれ出る事はなかった。



 ふと車窓を見ると、晩秋の空に映えた美しい満月が輝いていた。
 その清涼な輝きに、先ほどまでの苛立ちが少しおさまったような気がして、御堂は車を止め、暫し月に見入った。
 多忙な仕事と、克哉との意味のわからない関係。
 御堂の心は、今、ひどくささくれて、疲れていた。
 だが、満月の輝きを見ているうちに、その心が段々と癒されていくのを感じ、御堂は車を降りた。
 もっと、月が見たかった。
 月を追いかけるように歩みを進めると、こぢんまりとした公園へとたどり着いた。
 誰も居ない夜の公園は、晩秋のひんやりした夜の冷気に満ちていて、御堂は小さく身震いした。
 月に導かれるまま公園内を散策していると、ふと、目の前に一人の男が現れているのに気づく。
 月を背後にしたその男は、御堂から見て実に珍妙な姿をしていた。
 全身黒づくめの長衣に身を包み、長いまとめ髪の色は、月の光に映える鮮やかな金色。長く伸ばした前髪から覗く、眼鏡の奥の瞳は、これまた赤味を帯びた金色をしている。
 金と黒のコントラストが鮮やかな、けれど、どこか現実離れした浮遊感と、奇妙な迫を持ち合わせたその人物に、御堂は本能的に危うさを感じた。
「こんばんは。御堂孝典さん」
 舐めるような声が、御堂の名を呼ぶ。














  08.12.12