いつもより寒い。そう思って重たい瞼をなんとかあげる、そこに必ずいるはずの人がいなかった。多忙な人だから、先にここを出たのかもしれない。ベッドサイドの時計の針は、7時を少しすぎたところをさしている。その時計の下に挟まれたメモ用紙には、「ごめんね、透。急ぎの仕事が入っちゃったんだ。後で絶対連絡するから」と走り書きの字が綴られていた。
「山崎さん…働きすぎ」
透はもうここには居ない恋人の名前を呟くと、メモを放り投げてシーツに指を滑らす。リネン特有の冷たさはそこにはなく、まだかすかに山崎のぬくもりが残っているような気がした。
「行ってらっしゃい、くらい言いたかったな…」
起こさなかったのは、透の睡眠時間を削りたくないという山崎の思いやりだったのだろう。だが、一緒に住み始めても、透にはとってはまだ二人で居る時間が足りなくて仕方が無い。むしろ、同居した事によって、どんどん山崎が大切な人になって、少しでもいい、一緒に居たくてどうしようもなかった。
「なんか、寂しいな…」
うつぶせになったまま、山崎の匂いがする枕に頬を摺り寄せて、透はもう一度瞼を閉じた。