昼休みの喧騒は遠い所で微かに聞こえてくるだけだ。
校舎裏の茂みの奥で、学校の敷地を区切るフェンスに凭れながら知念はその音に耳を澄ませた。
背の高い雑草や木々に囲まれて見えにくい場所だが、誰かが居るかもしれないと思って覗き込めばすぐ見つかるような場所に自分達は居る。
見つからないようにここへ来たはずなのに相手の方はすっかり忘れてでもいるのか、意識を自分以外に向ける知念を不服そうに見上げた。
「知念クン、俺じゃ不満?」
そう言うわけじゃないと首を横に振ったら、シャツの襟を掴んで体を伸ばしてくる。
丁度胸倉を掴まれたような状態になって、今ここを通りかかった人間は知念が何か因縁をつけられているのかと疑うかもしれない。
「だったらちゃんと俺を見ててよ」
「永四郎…」
内緒話をするようにわざと潜めた声を耳に吹き込まれて肩を竦めた知念に、木手は自分の方が擽ったそうに笑って薄く開いた唇を頬に押し当てる。
啄ばむようにキスをされてチュ…と小さなノイズが上がり、近づきすぎてぼやけた木手の目元が微笑むように細められた。
フェンスに凭れる知念にぴったりと体を密着させ、肩に回された彼の両手が指先で布地を愛撫のように撫でる仕草を繰り返す。
頬に触れた唇が自分の唇へ重なり、触れただけで離れると木手が大きくため息をついた。
期待に満ちた甘いため息に背筋がゾクリとして、知念は彼の背中に両手を伸ばして自分の方へ引き寄せる。
片手を持ち上げて木手の後頭部に触れると、襟足の髪を指先に絡めて感触を楽しむ。
肌に触れるか触れないかの所で髪を弄ぶ感触がくすぐったいのか、すぐ側の唇がきゅっと引き上げられた。
肉厚な下唇を押し当てるように再び口付けられ、待ちきれずに舌先を伸ばして柔らかい感触に触れた途端心地イイ熱が逃げていく。
「永四郎…」
「ふふ…まだ時間はたくさんあるでしょう」
名前を呼んだ声が、欲しいお菓子をねだってむずがる子供のようで知念は羞恥に駆られる。
けれどそれに気分を良くした木手が小さく笑って唇で頬に触れ知念の唇の端にも一つキスを落とした後、舌を出して少し乾いた薄い唇を舐めていった。
「ん…っ」
その舌を唇で捉え、髪を弄っていた片手で後頭部を押さえ込んで唇を合わせる。
ヌルリと舌同士が触れ合った瞬間お互いに一瞬体を硬直させ、木手は目を伏せてしなだれかかるように力を抜き知念はその少し火照った表情を見たまま更に自分へ密着させようと背中に回した方の腕に力を込めた。
お互いの体の正面がぴったりと合わさり、速度を上げた鼓動が伝わってくる。
誘う身体とは裏腹に自分の口内へ逃げ帰ってしまった舌を追いかけて自分のそれを差し入れると、唾液の絡む音がして体がカッと熱くなるのが分かった。
それは木手も同じで、知念の身体に硬くなった中心が触れている。
「ぅ…ん、んん…」
上顎の部分の凹凸を辿ると木手の睫が小刻みに震え、知念の背に回された手に力が込められてシャツを握り締めた。
変な所が皺にならなければいいなと思ったのは一瞬で、意識はすぐに触れ合う舌へと戻る。
「っふ…っ」
お互い苦しくなって一旦唇を離し、木手がゆっくり目を開いて困ったように微笑んだ。
テラテラと濡れて艶めく唇を見つめたままの知念は、彼の手で視界を塞がれて眉を寄せる。
「また目開けたまま…」
「あ…」
「…恥ずかしいから閉じてなさいよ。マナーでしょ」
顔が見たいのに、そう思ったがその言葉を口に出す前に唇が押し当てられ、今度は木手の舌が口内へ侵入してきた。
舌の根元を擽って輪郭をなぞるように先端へと移動し、舌先だけをチロチロと触れ合わせ裏側をレロリと舐め上げる。
木手はキスと同じくらい口淫が好きで、その動きも良く似ていた。
けれど口で知念自身を愛撫しているときの表情は見ていなさいよと要求するくらいなのに、キスの時は顔を見られるのを恥ずかしがる。
どちらも同じくらい恥ずかしいんじゃないかと思う知念にはその理由がこれっぽっちも理解できないが、大胆な木手も恥じ入る木手もどちらも興奮するので口に出した事は無い。
知念の舌で熱心に遊ぶ木手を好きなようにさせておいて、後頭部に当てていた手をそっと離した。
スラックスの中にきっちりと入れられているシャツを引きずり出して手を入れようとしたが、夢中になっているはずの木手が知念の手首を掴んで阻止する。
「っ…ダメ」
唇が触れたまま濡れきった声で言われて、今度は知念の方がゴクリと喉を鳴らした。
キスでお互いが高ぶっている事など分かっているはずなのに、木手はまるで手の掛かる子供にするようにきゅっと知念の手の甲を軽くつねって阻止する。
「え、い…しろ」
「ここじゃできないでしょ…キスだけで我慢しなさいよ」
「やしが…」
息を切らして肩で呼吸を繰り返す木手も収まりが付かないようになっているのに、情事の最中のような目でそれでもキスだけだと無慈悲な事を言う。
熱を孕んだ木手の指先が自分の扱けた頬をなぞっていき、再び片手で視界を覆われた。
「チャイムが鳴ったら、ね…」
触れ合った唇から直接聞こえた甘く溶けて滴りそうな声音は、知念の意識に染み入って理性を飛ばすのに十分すぎる。
チャイムが鳴るのを今か今かと待ち望みながら、柔らかく触れる唇を貪り合った。
END
2008/01/10:完成
2008/01/10:UP